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意外と知られていない公的支援制度
傷病手当金、障害年金を上手に活用しよう
がんの治療には一般にお金がかかる。その上、今まで通り働けない場合もあり、生活面で助けが必要になれば、そこでもお金がかかる。マイナスを少しでもプラスに転じられないか?それはがん患者に共通の悩みだ。しかし、自分にあった制度に何があり、どう使えば役に立つのか知るのは至難の業だ。がん患者のお金の悩みに寄り添ってきた、NPO法人がんと暮らしを考える会の専門家のお2人に話を聞いた。
申請することで 初めて利用できる支援制度
「がんになったとき、経済的に助けてくれる公的制度などはいくつかありますが、基本的に申請主義となっています。自分で申請しないと使えません。聞かないと教えてもらえないものも多い。結果的に、十分利用されているとは言えないのが現状です」
こう語るのは看護師でありNPO法人がんと暮らしを考える会理事長の賢見卓也さんだ。同会は申請主義に阻まれるがん患者を支援しようと、使える制度を自身でネット検索できる「がん制度ドック」を運営するなどの活動を行っている。
申請すれば使える制度として、最初に挙げられるのは高額療養費制度。保険診療に対して患者の支払った金額が自己負担限度額を超えると、超えた分が払い戻される制度だ。自己負担限度額は所得により違うが、2015年1月の見直しでより細かく分類された(表1)。
会社員ならば まず傷病手当金を受給
それ以外の制度は知る人が少ないのが現状だ。特定社会保険労務士であり、同会理事の石田周平さんは、「まず使いたいのは傷病手当金、障害年金。そして、親や家族の介護に専念したいとき、休業による無給休暇期間の給与を補ってくれる介護休業給付金ですね」と語る。
賢見さんはこれらに、死亡時に支払われる生命保険金を生前に受け取れる生命保険のリビングニーズ特約と、所得税の医療費控除を加える。これらが現状で、がんになったとき経済的支えになる主な制度だが、ここでは傷病手当金と障害年金について主に解説する。
傷病手当金について石田さんは言う。
「健康保険から支払われるもので、企業に勤める人が対象です。*1 国民健康保険にはこの制度がないので、国民健康保険に加入する自営業の方などは受給できません。一方、正社員だけと考えられがちですが、契約社員、派遣、パートの方でも、会社の社会保険に加入していれば受給できます」
支払いを受ける条件は4つ。❶業務外のケガや病気の療養のために休業していること(ほとんどのがんはこれに当てはまる)、❷本来の仕事(労務)ができていないこと、❸休業した日から継続3日間の期間をおき、4日以上休業していること、❹休業期間に給与の支払いがないこと。
「企業によっては延長傷病手当金付加金(傷病手当金の支給期間最長1年6カ月後の手当金)が出るので、勤務先に確認しましょう」(石田さん)
*2 支給額は大体給与の3分の2(1日につき標準報酬日額×3分の2)だ。支給される期間は1年6カ月で、期間中の欠勤日を対象に支給される。一度受給して復職し、再発した場合でも新たな傷病と認められれば、再び受給できる例もあるという。
逆に1年6カ月後に復職できない場合は、退職や解雇になる企業も少なくない。このあたりも会社の就業規則を読んでおくことが重要だという。
治療を始めて1、2カ月経った頃に申請する人が多いそうだ。賢見さんは言う。
「今は手術による体への負担が減り、手術時は有給休暇で休み、抗がん薬治療が長引く頃から使う人が増えています。期間限定なので、どの時点で受給するかは大事です」
病状が思わしくなく退職を考える場合にも、利用価値は大きい。退職しても制度の期限は保たれるので、1年6カ月が終了するまで退職後も支払われる。
「ただし、条件が2つあります。❶退職日から遡って1年以上健康保険の被保険者であったこと、❷傷病手当金を受ける要件を満たしていることです。退職後は自分で申請手続きをすることになりますので、忘れずに申請しましょう」(石田さん)
申請は会社が加入する健康保険協会などで申請書をもらうか、ホームページからダウンロードする。必要事項を主治医と会社に記入してもらい、出勤簿のコピーなどを添付して提出。近くに窓口がなかったり、入院中は郵送でもOKだ。東京都の「がん患者の就労に関する実態調査」(2014年5月発表)によると、高額療養費制度は約80%の人が利用しているのに対し、傷病手当金を利用した人は40%以下だった。
「勤めていたらぜひ利用したい制度です。傷病手当金の終了後に考えたいのは障害年金ですが、初診日から1年6カ月を経過した日が障害認定日。そこにつなぐためにも受給しておきたいですね」(石田さん)
*1=一部行っている職業別国民健康保険組合もある *2=標準報酬日額は、標準報酬月額を30日で割ったもの。標準報酬月額とは毎年4~6月の給与(交通費、残業代を含む)の平均月額を算出し、「社会保険料額表」に当てはめて求めた金額
がん治療の副作用でも受給できる障害年金
傷病手当金の終了時に仕事に完全復帰できればベストだが、病気の進行や後遺症のため、会社を辞めたり、働き方を変えざるをえないこともある。そのようなとき考えたいのが障害年金だという。これは公的年金の1つで、障害により生活の安定が損なわれないよう、就労や生活に困難のある人に支払われる。老齢年金開始以前にもらえる若年層のための年金と言える。*3 会社員だけでなく、自営業や主婦でも、つまり誰でも利用できる点もありがたい。
ただし、障害の認定基準については、企業に勤める人、つまり厚生年金加入者の場合は、障害の程度が1級~3級で受給できるのに対し、国民年金加入者の場合は、1級~2級での受給となる(表2)。つまり、厚生年金では軽度で受給できる可能性があるが、国民年金ではある程度重度な場合に受給できる。しかし、がんで障害年金がもらえることはあまりに知られていない。
医師の中にも障害者手帳と混同している人がおり、それにより診断書を書いてもらえないこともあるそうだ。だが、がんによる障害で年金が受給できることは今日、「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」にも明記されている。石田さんは力説する。
「がんによる機能障害はもちろん、治療で起こる全身衰弱や機能障害、つまり、副作用による障害も対象です。医療関係者にも患者さんにも広く知って欲しいです」
*3=ただし、通常の年金、つまり老齢年金と障害年金を両方受け取ることはできないので、どちらか一方を選択する