FP黒田尚子のがんとライフプラン 41

がん患者は「身体障害者手帳」をどう申請する?

黒田尚子●ファイナンシャル・プランナー
発行:2017年8月
更新:2017年8月

  

くろだ なおこ 98年にFPとして独立後、個人に対するコンサルティング業務のかたわら、雑誌への執筆、講演活動などを行っている。乳がん体験者コーディネーター。黒田尚子FPオフィス公式HP www.naoko-kuroda.com/

「身体障害者手帳」(以下、身障者手帳)は、身体障害者福祉法に基づき、身体に障害が残った場合、日常生活の不自由を補うために、様々な助成や支援を受けられるものです。

〝障害〟と名前が同じためか、「障害年金」と混同している人も多いようですが、認定基準や申請方法、受けられるサービス(優遇措置)等が異なりますので、注意が必要です。

がん患者で身障者手帳が交付されるケースとしては、頭頸部がんで喉頭部を摘出し、声を出す機能を失った場合、直腸がん・膀胱がんで肛門や膀胱を失い、人工肛門(ストーマ)・人工膀胱(ウロストミー)を造設した場合、肺がんで呼吸機能が低下して、在宅酸素療法を行う場合などです(ただし、胃の摘出や生殖機能の障害、血液、肝臓の障害などは適用外)。

今回は身障者手帳の概要や、混同しやすい障害年金との違いについてご紹介しておきたいと思います。


身障者手帳は、障害の種類や程度などによって1~6級までの区分に分かれています。このうち1、2級は重度、3級以下は中度・軽度の障害と区分されており、等級に応じて受けられるサービスが異なります(重い等級の人ほど手厚い)。

障害等級と聞くと、「障害年金」を思う浮かべる方も多いかもしれませんが、身障者手帳の等級と障害年金の障害等級、労災保険の障害(補償)、年金障害等級(第1~14級まである)は、それぞれ認定方法が異なり、全く別の基準です。

1級、2級などと数え方が同じのためか、「1級の身障者手帳を持っているので、1級の障害年金ももらえる」と勘違いされている方も多いようですが、それぞれ別の制度ですので、等級が同じになるとは限りません。

身障者手帳では低い等級でも、障害年金が受給できるケースや、その逆もあります。障害年金が受給できなかったから、こちらもダメだろうと思い込まないことが肝心です。

身障者手帳と障害年金の違いは、以下の図表の通りです。

■身体障害者手帳と障害年金の違い

*1)障害の原因となった傷病で初めて医師等の診断を受けた日
*2)初診日から1年6カ月を経過した日。1年6カ月以内に傷病が固定化した場合はその日

申請手続きは原則「障害の状態が固定してから」

身障者手帳の利用のタイミングは、身体障害者障害程度等級表に定められた障害の種類や程度に該当し、かつ、その状態が永続的であるときです。

したがって、原則として、申請手続きは、「障害の状態が固定してから」となっていますが、前述の事例のように、人工肛門を造設したなど、障害の内容によってはすぐに申請できる場合もあります。

身障者手帳が交付されると、地域や障害の程度によって多少の違いはありますが、おもに、以下のような多岐にわたる「税制優遇」と「優遇措置(サービス)」が受けられます。

●税制優遇の例

①所得税・住民税=障害者控除、特別障害者控除、障害者等の非課税限度額、障害者等少額貯蓄非課税制度など
②相続税=障害者控除、特別障害者に対する贈与税の非課税など
③消費税=身体障害者用部品および修理についての非課税など

●優遇措置(サービス)の例

①公共交通機関=バスや鉄道など公共交通機関の運賃、有料道路の通行料金の割引など
②公共料金=NHK放送受信免除、郵便料金の減免など
③住宅=公共住宅の優先入居など
④生活福祉資金の貸付制度=低所得の障害者世帯に対する、障害者更生資金、福祉資金、住宅資金など

このほかにも、人工肛門や人工膀胱、人工喉頭などの補装具の購入費の給付等(日常生活用具給付券)など、様々な給付や支援を受けることができます。

これらの優遇措置やサービスが受けられる点が、身障者手帳のメリットですが、雇用面でも、障害者雇用の枠組みでの応募ができるようになるため、相応の配慮を受けた勤務が可能となる点も挙げられます(その反面、これまでと同じような待遇や昇給コースから外れる可能性もありますが)。

身障者手帳の交付を受けるための申請の窓口は、住所地のある福祉事務所または市区町村の障害福祉課となっており、ここで、診断書用紙など専用書類を入手し、指定医(都道府県知事が指定した医師)の診断を受けます。

主治医が指定医でなければ、どの医療機関に指定医が所属しているか、主治医または福祉事務所に紹介してもらうとよいでしょう。

「身体障害者手帳交付申請書」、「身体障害者診断書・意見書」に写真を添えて提出し、判定の結果、障害等級に該当すれば、1~2カ月後に身障者手帳が交付されます。

 

今月のワンポイント 厚生労働省の統計によると、身障者手帳の利用人数は約519万人なのに対して、障害年金制度の利用人数は約194万人と、身障者手帳のほうが約2.7倍も利用者が多くなっています。なお、一定の要介護状態になった場合に介護サービスが受けられる公的介護保険制度の利用人数が約605万人ですから、おおよその目安がおわかりいただけるかもしれません。

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