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乳がん術後補助療法にアロマターゼ阻害剤を飲むこれだけの根拠
ホルモン受容体陽性の乳がんなら、術後にホルモン療法を

文:河野範男 東京医科大学病院乳腺科教授
構成/半沢裕子
発行:2008年3月
更新:2014年1月

  
河野範男さん
東京医科大学病院
乳腺科教授の
河野範男さん

乳がんの治療のなかで、ホルモン療法が非常に重要になってきています。ことに閉経後乳がん患者さんの場合、手術後に行う再発予防の補助療法では、従来のタモキシフェンに代わって、アロマターゼ阻害剤という新しいホルモン剤が注目されています。

この乳がんの補助療法について、最新知見も織り交ぜながらわかりやすく解説します。

女性ホルモンと受容体は鍵と鍵穴の関係

乳がん手術のあとに行う再発予防の補助療法が、ほかのがんと大きく違っているのは、放射線療法、化学(抗がん剤)療法のほかに、ホルモン療法という選択肢があることです。しかも、ホルモンと乳がんの関係がより明らかになった今日、ホルモン療法はその効果と副作用の穏やかさで、代表的な補助療法となりつつあります。乳がんで手術を受けた患者さんに対して、まず検討するべき治療法といって間違いありません。

ただ、残念ながら、化学療法と異なりすべての患者さんに行えるわけではありません。乳がんの中には、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの受容体をもつがんは、全体の7割ほどあります。

受容体とは細胞にある鍵穴のようなもので、鍵にあたる物質がここにくっつくと、細胞内にさまざまな働きが起こります。乳がんの場合は、この「鍵穴」にエストロゲンがくっつくと、がん細胞が分裂・増殖することがわかっています。この性質を利用して行うのが、ホルモン療法です。

このため、がん細胞を調べ、ホルモン受容体があると確認された患者さん(ホルモン受容体陽性)にだけ、ホルモン療法は行われます。ホルモン受容体のない(ホルモン受容体陰性)患者さんに対しては、ホルモン療法を行っても効果が期待できないことから、抗がん剤による治療を行うことになります。

「鍵穴」をブロックするのと「鍵」そのものをなくすのと

では、ホルモン療法は、どんなふうにがんを叩くのでしょうか。この仕組みには3つのタイプがありますが、どのタイプを選択するかは、閉経前か閉経後かによって分かれます。女性の場合、閉経の前後で体内のホルモン環境が大きく違ってくるためです。

第1のタイプは、脳(脳下垂体)に働きかけ、卵巣からのエストロゲン分泌を抑えるもので、LH-RHアゴニスト製剤という薬が使われます。LH-RHアゴニスト製剤にはゾラデックス(一般名酢酸ゴセレリン)と、リュープリン(一般名酢酸リュープロレリン)という2種類の薬があります。

閉経前の若い患者さんに使われるのは、この薬です。いわば、エストロゲンの一大供給源を、もとから絶つわけです。

第2が、がん細胞の「鍵穴」に先回りして、「鍵」(エストロゲン)がくっつけないようブロックしてしまうもので、タモキシフェン(商品名ノルバデックスなど)が使われます。タモキシフェンは閉経前にも閉経後にも使えますが、エストロゲンの産生が少ないと効果が高いことから閉経前ではLH-RHアゴニスト製剤と併用することがあります。

そして、第3が、アロマターゼ阻害剤です。閉経すると、卵巣は女性ホルモンをつくらなくなりますが、副腎皮質から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)が、体の末梢で、アロマターゼという酵素の働きによってエストロゲンに換えられます。エストロゲンは女性に乳房を大きくしたり生理を起こしたりするだけでなく、骨の生成やコレステロールのコントロール、脳の代謝などにも関わりがあるといわれています。

アロマターゼ阻害剤は文字どおり、この酵素の働きをブロックする薬です。閉経後のエストロゲン量は閉経前の10分の1~100分の1に減りますが、アロマターゼの働きをブロックすると、これをさらに100分の3~1に抑えます。

現在使われているアロマターゼ阻害剤には、ステロイド系のアロマシン(一般名エキセメスタン)、それに、非ステロイド系のアリミデックス(一般名アナストロゾール)とフェマーラ(一般名レトロゾール)の3種類があります。

閉経後治療のスタンダードになったアロマターゼ阻害剤

[アロマシンの再発予防効果(無病生存率)]
図:アロマシンの再発予防効果(無病生存率)
[アロマシンの再発予防効果(全生存率)]
図:アアロマシンの再発予防効果(全生存率)

ホルモン療法の最前線で、現在最も注目を集めているのは、まさにこのアロマターゼ阻害剤です。アロマターゼ阻害剤の効果と安全性は、臨床試験によって次々証明されてきています。閉経後の乳がんの術後補助療法としては、すでに「ゴールドスタンダード」です。それだけでなく、ほかの治療や他のホルモン剤と組み合わせて、より長い効果を狙ったり、閉経前の若い患者さんの再発予防にも使っていく道が模索されたりしています。

正直、乳がん治療にたずさわる医師の多くが、「アロマターゼ阻害剤やタモキシフェンなど、ホルモン剤をうまく組み合わせて長く使うと、再発を防ぎ、生存率を高められるのでは?」という考えをもち始めていると思います。

たとえば、アロマターゼ阻害剤とタモキシフェンの再発予防効果を比較・検討した臨床試験があります。比較検討試験は3種類あります。(1)手術後直ちにタモキシフェンかアロマターゼ阻害剤(アリミデックス、フェマーラ)の投与を比較した試験、(2)タモキシフェンを2~3年間服用したあと、アロマシンに切り替えて治療を継続したグループと、タモキシフェンを5年間連続して服用したグループを比べた試験、(3)タモキシフェン5年間終了後にさらにアロマターゼ阻害剤を継続して服用する有効性を調べた試験、です。

これらの試験はいずれもアロマターゼ阻害剤の有効性を証明しています。

(2)では、タモキシフェン2~3年服用後にアロマシンに切り替えたほうが再発率で25パーセント、生存率(全生存率)で17パーセント改善しました。アロマターゼ阻害剤で再発率を防ぐ結果は出ていますが、生存率改善を得られたのはアロマシンが唯一です。

[アロマシンとタモキシフェンとの比較]
図:アロマシンとタモキシフェンとの比較

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