これだけは知っておきたい 卵巣がん編
根治性ばかりでなく、治療後のQOLもよく考えたうえで治療法を選びましょう
栃木県立がんセンター
婦人科医長の
関口勲さん
婦人科がんの治療は、乳がんに比べて大きく遅れていましたが、最近は臓器の温存や術後の後遺症・合併症の軽減などにも目が向けられ、変わってきました。しかし、現状を見るとまだ新旧が入り乱れて混沌としている状態です。
ここに注意しながら、子宮頸がんの治療とケアについて、これだけは患者さんに知っておいていただきたい事柄を記してみます。
婦人科がん全般について
症例、年齢、妊娠の可能性・・・。考慮することの多いがん
「婦人科がんは病院、医師によって、考え方も治療法も大きく異なる」
婦人科がん治療の現状をひとことで言うと、こうなるのではないかと思います。
婦人科がんはこの10年で治療法が大きく変わりました。子宮や卵巣は以前、がんが見つかったら全摘するのが当たり前でした。生命維持に関係のない器官と考えられ、再発防止、つまり根治性を高めるためには、できるだけ大きく取ったほうがいいとされたのです。実を言えば、こうした基本方針で婦人科がんにのぞむ病院は今も少なくありません。
一方、できるだけ小さく切ったり(縮小手術)、別な療法を試みたりする病院も増えています。開腹手術が与える傷やダメージが大きいことや、治療技術が日々進歩していることも理由でしょう。しかし最大の理由は、たとえ生命維持に直接関係がなくても、子宮や卵巣を温存できるかどうかで、女性の心身状態やその後の生活が大きく変わると、広く理解されたからだと思います。
事実、子宮がんや卵巣がんは術後に独特の後遺症・合併症をともなうことがありますし、子宮や卵巣を失ったことを「女性でなくなった」(これは明らかに間違いですが)と悩むなど、精神的ケアを必要とする患者さんも少なくありません。
ただし、いくら縮小手術を望んでも、症状によってはやはり大きく切らなければなりませんし、望む療法が適当でない場合もあります。大事なのは、自分のがんの状態について正しく知り、できるだけ根治性が高く、なおかつ術後の後遺症をできるだけ防ぎ、子宮や卵巣の機能をできるだけ温存できる治療法を選ぶことだと思います。
検討項目はたくさんあります。年齢、全身状態、結婚、妊娠を望むかどうか。がんを治すのに、卵巣やリンパ節まで取る必要があるか、どんな取り方で子宮を取るか……。
つまり、婦人科がんほど、信頼できる医師に出会い、積極的に治療計画を話し合う必要の高いがんはない、と言えるのです。皆さんにはこうした事実を知っていただき、積極的に医師に相談したり、意見を聞いたりして、納得できる治療を受けていただきたいものです。
卵巣がん
早期発見がむずかしいが、1~2期なら治る可能性も
ステージ (病期) | 治療法 | |
---|---|---|
1a | 手術(子宮全摘+両側付属器切除+リンパ節郭清+大網切除) | 片側の卵巣だけにがんがある場合--片側の卵巣温存 |
1b | 手術(子宮全摘+両側付属器切除+リンパ節郭清+大網切除) | |
1c | 手術⇒化学療法 | |
2 | 手術⇒化学療法 | |
3 | 手術(+腫瘍切除)⇒化学療法 or 化学療法⇒手術 | |
4 |
卵巣は骨盤の奥深くに位置し、子宮の両側に卵管と一緒につながっている親指大の器官です。卵子を成熟させて子宮に送り出すほか、周期的に女性ホルモンを分泌するため、がんなどで卵巣を失うと、更年期障害のような症状が出ることでも知られています。
つまり、子どもを宿す子宮は女性や母性の象徴のように言われますが、実は、女性特有の心身状態に強い影響力をもつのは、卵巣のほうなのです。
卵巣がんの多くは、がんが生じてもほとんど自覚症状がないため、早期発見のむずかしいがんです。そのため、患者さんの3分の2以上が卵巣の外に広がった状態で病院にきます。
卵巣がんに最もよく起こる転移は腹膜播種といって、卵巣の表面から、文字通りタネを播くようにがん細胞が腹膜全体に広がる転移です。卵巣周辺に広がることが多いのですが、中には横隔膜まで到達していることもあります。また、リンパ節転移もよく起こります。
卵巣がんは1a期~4期に分類されますが、子宮がんと違って、1c期の「条件」に転移の可能性が加えられているのも、そうした厳しい病状のためと言えるでしょう。
ただし、1期で90パーセント以上、2期でも70パーセント以上と、早期なら5年生存率も決して低くありません。いずれにしても発見がむずかしいだけに、「何かできることがあったのでは」と悩む必要はないのですから、診断後は気持ちを切り替えて、すみやかに治療に専念することをお勧めします。
基本は子宮も卵巣も全摘出。病巣が片方なら残せることも
卵巣がんの場合も、子宮体がんと同じく手術が治療の基本です。手術の方法は先の子宮体がんの標準術式に、大網切除を加えたものが標準術式となっています。大網とは胃から垂れ下がって大腸小腸をおおっている大きな網状の脂肪組織で、一見してがんが見えなくても顕微鏡的な転移がある場合が多いので、一緒に切除します。また、お腹の中に広がった腹膜播種を、手術のときできるだけ切除することも大切です。残ったがんを少なくするほど、よくなるとされています。
早期(1a期)の卵巣がんで、がんが片方の卵巣だけにあり、もう片方に異常がない場合は、健常な卵巣と卵管を温存することができます。ただし、その場合も、できれば健常な卵巣やリンパ節、大網などの生検を行ない、がんが広がっていないことを病理組織学的に確認するのが望ましいとされています。
なお、卵巣がんは進行した状態で見つかることが多い反面、数あるがんの中でも抗がん剤が効くがんです。それだけに、ほかのがんでは考えられないほど、連続的に抗がん剤を投与することがあります(「抗がん剤治療の賢い受け方」参照)。
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