進行別 がん標準治療
早期発見の難しい卵巣がん治療は、抗がん剤がカギを握る
川崎医科大学産婦人科助教授の
藤原恵一さん
卵巣がんは、今日本でもじわじわと増加しているがんです。日本では、年間6000人から8000人が卵巣がんになっていますが、閉経後に多いがんであることも特徴です。卵巣がんの7割は閉経後に発見されており、50代から70代の高齢者にも多いがんです。人口が日本の2倍であるアメリカでは、年間2万4000人が卵巣がんになっています。これからみても、今後も増えていく可能性は大きいがんといえます。
卵巣がんの一番の問題点は、早期発見が難しいことです。そのために、乳がんや子宮がんに比べて、卵巣がん全体の5年生存率は決して高いとはいえないのが現状です。しかし、川崎医科大学産婦人科助教授の藤原恵一さんによると「卵巣がんは最近次々と大規模臨床試験の結果が発表されており、世界的に治療の標準化が進んでいる」といいます。治癒率を高める新しい治療法の研究も進んでいます。今の段階では、どういう治療が最も卵巣がんに効果があると認められているのか、標準治療について藤原さんに聞きました。
卵巣がんの特徴
早期発見が難しい卵巣がん
卵巣がんの標準治療について理解するためには、まず卵巣がんの特徴を理解する必要があります。
卵巣がんは、婦人科のがんの中でも手ごわいがんです。しかし、がんが卵巣内にとどまる1期の段階で発見できれば、平均でも約8割の人が治っています。
ところが、藤原さんによると1期で発見される人は、僅か30パーセント。「実際には3期(骨盤外の腹腔にがんが広がっているか、リンパ節転移がある)、4期(遠隔臓器への転移)の進行がんの段階で発見される人が6割を占めている」といいます。3期であれば、5年生存率は30パーセント。4期になると10パーセントに低下します。
同じ女性のがんでも、子宮体がんは6割が1期、子宮頸がんならば4~5割が0期の段階で発見されています。つまり、早期発見が難しいことが、卵巣がんの治癒率を低くする大きな原因になっているのです。
なぜ卵巣がんの発見が遅れるか
藤原さんは、その理由をこう語っています。
「卵巣がんは症状に乏しく、ある程度の大きさにならないと画像診 断でもとらえられないためです」。子宮の入り口付近にできる子宮頸がんならば、直接腟から細胞をとってがんかどうかを調べることができます。つまり、最初から細胞診ができます。また、子宮の奥にできる子宮体がんは、閉経後の不正出血が、ある程度発見の手掛かりになります。
ところが、卵巣は親指の頭ほどの大きさで、体の奥に存在します。しかも、固定がゆるくブラブラした状態で存在するのだそうです。そのため、直接肉眼で観察することもできなければ、がんが大きくなっても周囲の臓器を圧迫して症状を表すこともないのです。
「たとえば、腸を圧迫すれば食べられないといった症状が出てきます。しかし、卵巣がんの場合、がんが大きくなってきても患者さんは少し太ったかなぐらいの認識しかないことが多いのです」
がんの直径が20センチぐらいになっても、患者は自覚しないこともあるといいます。その上、卵巣がんは腹膜にパラパラと散らばりやすい(腹膜播種)のも特徴です。
大きくなるまで画像診断でとらえられない
実際には、CTやMRIなどの画像診断や腫瘍マーカー(腫瘍特異的抗原=CA125、CA19-9など)、内診などによる検査が行われますが、「少なくとも、がんが2センチぐらいの固まりにならないと画像診断ではとらえられないのです。卵巣にポツポツとがんができた状態では画像診断ではわからないし、中には腹膜の組織を顕微鏡でみて(腹膜生検)、初めてわかるがんもあるのです」。
川崎医科大学でも、長年腟内に端子を入れて超音波で検査する「経腟超音波検査」と腫瘍マーカーを組み合わせて、卵巣がんの早期発見に力を注いできました。しかし、「5年ぐらい一生懸命やってきたのですが、結局延べ1万人に実施して、発見された卵巣がんはわずか3例でした。発見頻度が少なすぎることも問題ですが、発見された卵巣がんもうち一人はすでに3期でした」
つまり、卵巣がんは早期発見が難しく、おなかをあけて直接見なければわからないがんなのです。卵巣がんの治療も、この開けてみなければわからないがんであることが、前提となって計画されているのです。
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