福島県立医科大学・相良浩哉医師が提案するがん患者への経済的サポート
高額な医療費問題 こうして切り抜けよう

発行:2003年11月
更新:2013年8月

  

相良浩哉医師
患者の視点で診療にのぞむ
福島県立医科大学病院第二外科
乳腺グループの相良浩哉医師

がんの治療をしなければ生きていけない。
しかし、それを続ければ家庭崩壊を招く、という
命と金の間でジレンマに陥っている患者が増えている。

乳がんでは新薬が効果を発揮している。
その中で起きた新たな悲劇だ。

福島県立医科大学の相良浩哉さんがこの問題に救いの手を差し延べる。

高騰する乳がんの治療費

福島市光が丘の丘陵地に建つ福島県立医科大学病院
福島市光が丘の丘陵地に建つ
福島県立医科大学病院

「患者さんから涙声で『もうこれ以上治療が受けられない』と言われるんです。これはつらいです。何とかしなければ、と思いました」福島市にある福島県立医科大学病院第二外科乳腺グループの相良浩哉医師が、院内の一室で少し表情を曇らせてそう言う。JR福島駅から南へバスで35分。丘陵地の光が丘に建つ総合病院だ。

がん患者が治療を受けられないとは、尋常ではない。しかし、その尋常ではないことが現実に起こっている。その原因がなんと治療費の高騰にあるというのだ。

「実際、最近の乳がんの治療費は保健診療でも高いんです」(相良医師) 最近の乳がん治療の進歩は日進月歩。新しい抗がん剤が次々に開発され、成果を上げている。しかしその一方、治療費の方もそれに連れてどんどん高騰し続けている。なかでも問題なのは、進行再発乳がんの治療費だ。

進行再発乳がんに対して、現在一番効果的とされる治療法は、ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)とタキソール(一般名パクリタキセル)の併用療法だが、両方とも週毎の投与が必須で、ハーセプチンの費用は約7万円、タキソールは約4万円。3割負担の保険診療でも月に13万円強にもなる。しかも、これは純粋な治療費のみで、実際の費用としては、他に診察料、採血検査料などが含まれるからもっと大きな負担となる。

加えて、もっと問題なのは、この治療に終わりがないという点だ。再発防止を目的とした補助療法なら一定の期間治療をすればすむが、再発がんの治療の場合、治療効果を上げている限りはずっと続けていく必要がある。つまりそれだけ大きな出費が永遠に続くことになるわけだ。これも厄介な問題だ。

治療を受けたが、家庭は破産した

また、薬剤費の中でもとりわけ厳しいのは、がん性疼痛の治療薬だ。モルヒネ製剤のMSコンチンが一番有名だが、これがまた非常に高額なのだ。10ミリグラム錠1錠が267円。通常1日に60~120ミリグラム服用する人が多いから、1カ月で5万円弱ほど。痛みが増せばそれに連れて薬剤を増量し、限度もない。数千ミリグラムも飲む患者もいる。こうなると薬剤費も桁違いだ。

考えてみるまでもないが、毎月これだけの治療費、薬剤費を出せる家庭はそうないだろう。まして普通のサラリーマン家庭となればなおさらだ。マイホームのローンを抱え、子供の学費も捻出しなければならず、医療費とはいえ、突然の出費は難しいだろう。「だから、治療しないと生きていけないとわかっていながら、治療費が高くて治療から遠のいてしまうんです」(相良医師)

患者は1回病院から遠のいてしまうと、次第に行きにくくなる。実際、福島県医大で治療を受けていた患者の中で、死ぬ寸前まで病院へ行けず、行ったときは「これでよく生きているな」というくらい極度の貧血に陥り、フラフラになって来た人もいたそうだ。

そこまでいかなくても、治療費に関する相談ぐらいならよくある。「先生、明細を見たが、抗がん剤が高い。私の病気に必要なのでしょうけど、もう少し安い薬はないでしょうか」と。

そんなわけで相良医師はこう嘆く。「確かに最近は治療がよくなりました。しかし、治療を受けて元気になったが、家庭は破産したとなれば、一体何のための治療なのか。これは悲劇です。それも薬の効果が現れなかった頃にはこうした問題は起きなかった。効果が現れ出してから起き出した新しい悲劇ですよ」

利用したい医療費補助、貸付制度

高額医療費の補助制度を利用すれば安心して治療に専念できる
高額医療費の補助制度を利用すれば
安心して治療に専念できる

そこで相良医師は、こうした悲劇を生まないために、高額な経済的負担を少しでも減らす道を探り、対策を考え出した。考え出すだけでなく、パンフレットを作り、患者たちに話をし、乳がんの患者会などにも提案している。普通の医師ではまずできないことだ。相良医師ががん治療の最前線でたえず患者の立場に立って診療に携わっているからこそ生まれた発想といえる。その対策の第一は、高額医療費の補助制度を利用することだ。そうすればわずかな額の支払いですむことになる。

たとえば治療費に100万円がかかったとする。3割負担の健康保険で治療費の支払額は30万円である。ここで高額医療費の補助申請をする。

[高額療養費融資制度と利用した場合の融資額の具体例]
高額療養費融資制度と利用した場合の融資額の具体例

医療費の自己負担額が35400円(所得がある場合は72300円)を超えたらこの申請ができるのだ。役所等に申請をすれば3カ月後に治療費の大半が戻ってくる。

[高額療養費還付の手続き]
保険の種類 国民健康保険 政府管掌保険 健康保険組合
申請窓口 管轄の市役所・町村役場(国民健康保険課) 管轄の社会保険事務所 自動還付のところが殆どなので、申請手続きは不要と思われます。
申請に必要な物
  • 1ヵ月分の領収書
  • 保険証
  • 印鑑
  • 世帯主の預金通帳
    (郵便貯金通帳は除く)
  • 1ヵ月分の領収書
  • 保険証
  • 印鑑
  • 世帯主の預金通帳
    (郵便貯金通帳は除く)
自動還付のところが殆どなので、申請手続きは不要です。
還付の時期 還付申請手続きをしてから約2~3ヵ月後に、所定の口座に高額療養費が振り込まれる。 還付申請手続きをしてから約2~3ヵ月後に、所定の口座に高額療養費が振り込まれる。 医療費を支払ってから約2~3ヵ月後に、所定の口座に高額療養費が振り込まれる。

ただ、戻ってくるとはいっても、いったんは病院へ30万円を支払わなければいけない。そう思っている人が多いのではなかろうか。そのために定期預金を解約したりする人もいる。しかし、相良医師は「その必要はない」と言う。

「地方自治体により多少の違いがあるが、一時貸付金制度があります。これを利用すれば自分の懐を痛めなくてすみます」

[地方自治体の高額療養費貸付制度(国民健康保険加入者の場合)福島支部のケース]
市町村名 制度の有無 申請窓口 貸付範囲 病院送金 保証人
福島市 社会保険課(老人医療費) 100%(円単位まで) 不要
二本松市 ほけん課(国保課) 100%(円単位まで) 必要
郡山市 国民健康保険課(給付係) 90%(千円未満切捨) 不要
須賀川市 国保年金課(国保課) 90%(千円未満切捨) 不要
白河市 社会課(社会係) 90%(百円未満切捨) 必要
会津若松市 社会福祉協議会 100%(円単位まで) 不要
喜多方市 保険課(国保医療係) 100%(円単位まで) 不要
相馬市 保険年金課(国民健康保険係) 90%(1万円未満切捨) 必要
原町市 市民課(健康保険係) 90%(千円未満切捨) 必要
いわき市 国民健康保険課(庶務課) 90%(百円未満切捨) 不要

したがって、この制度を利用すれば、3カ月後に72300円だけを支払えばよい。これなら1カ月2万円少々を貯金していけばよく、家計からもグッと出しやすくなる。患者も家計に頭を悩ませることなく、安心して治療に専念できるというわけだ。

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