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日米がん看護座談会
がん対策基本法施行で新たながん看護の時代へ
患者さんに対するサポーティブケアが看護師の大切な役割
きゃろる びーりー
カリフォルニア大学サンフランシスコ校生理看護学准教授、血液・腫瘍・骨髄移植科のクリニカルナーススペシャリスト。正看護師。フリント・ジュニア大学(看護学)卒。ミシガン大学、ハーリー医療センター、ポンティアック市立病院、セント・ジョセフ病院などを経て、1981年から現職。1989~92年、ベイエリア腫瘍看護協会副会長
とれいしー もーらん
カリフォルニア大学サンフランシスコ校生理看護学准教授、血液・腫瘍科のナースプラクティショナー。カリフォルニア大学(看護学)卒、サンフランシスコ市立大学で家族ナースプラクティショナー取得。クリニカルナーススペシャリスト取得。MDアンダーソン病院・がん研究所、ミシガン医療センター大学などを経て、2000年から現職
あおたに えりこ
北里研究所臨床試験コーディネーティング部門室長。看護師・助産師として産婦人科領域を中心に10年間勤務した後、カリフォルニア大学サンフランシスコ校にて臨床試験マネジメントを学ぶ。保健看護学科講師を経て、2004年より現職。「臨床試験のコーディネーター」として活動中
かわかみ さちこ
NPO法人キャンサーネットジャパン渉外・広報担当理事・看護師。早稲田大学卒業。国際線客室乗務員経験後、東京医科歯科大学にて看護を学ぶ。東大病院放射線科病棟、都内クリニック乳腺化学療法外来を経て、2007年1月より現職専任
やなぎさわ あきひろ
NPO法人キャンサーネットジャパン事務局長・事業戦略部門理事。ブリストル・マイヤーズ株式会社抗癌剤部門の営業・学術推進・マーケティングにて、抗がん剤の臨床試験、セミナー・シンポジウムなどを担当。2007年2月より現職専任
大きく変わってきたがん看護
柳澤 最近ではがん医療のなかで、治療だけでなく、痛みなどの症状緩和や副作用管理、さらには心の面までも含めたケアのあり方が注目を集めています。折しもこの4月からは、日本でもがん対策基本法が施行され、患者を主体とするがん医療の方向性が打ち出されています。そこで今日は、がん医療の先進国である米国で経験を積まれたお2人の看護師キャロル・ビーリーさん、トレイシー・モーランさんと、日本でがん医療の現状を打破しようとされている看護スタッフに、新たながん看護のあり方について話し合っていただければと思います。
まず20年前に初来日し、現在も米国でがん看護の主導的立場にあるキャロルさんに、米国のがん看護のあり方と日本のそれについて概説していただきます。
キャロル 米国でも1970年代までは、がん医療はそれほど進んでいませんでした。がん治療を専門とする医療機関は本当に少なかったですね。それが1971年にがん医療に関する法律が制定され、状況は大きく変わりました。NIH(National institute of Health=国立衛生研究所)が主体となり、有名なところではMDアンダーソンがんセンターやスローンケタリングがんセンター、さらには全国39の施設で、がんについての専門的な研究が行われてきました。
そうした状況のなかで看護のあり方も大きく変化し、70年代半ばからは看護スタッフにも専門性が求められるようになりました。私自身は75年にがん治療を専門とするオンコロジーナースの資格を取得しています。看護スタッフに対する求人情報などでも、がん領域のスペシャリストとして指定されていますからね。そうした医療機関で働くことで、当然のこととしてがん看護のスペシャリティが磨かれていくわけです。
そうした米国の状況に比べると、日本では、看護の専門性についての認識が遅れているようにも思えます。
日本ではキャリアアップの門戸が狭い専門看護師
青谷 日本の場合は看護師のキャリアプランのなかで、専門性を身につけにくい状況はありますね。看護職としてキャリアアップをはかろうとすると、看護師長職という管理職を目指すことが一般的です。領域のスペシャリストとして働くことが、病院内でのキャリアアップには必ずしもつながっていきませんからね。
川上 昨日もがん対策基本法をどう実施するかという会議を傍聴してきました。日本は今、まさにがん医療が変革するさなかにあるといっていいでしょう。もっとも現実を見ると今年になってようやくがん対策基本法が施行されたばかりで、米国に30年以上遅れているのも事実ですが……。
キャロル 私個人の印象をいうと日本にはじめて来た20年前に比べると、日本の状況もずいぶん変わってきていると感じますね。当時の看護師はただ、ドクターの指示に従って動いているだけでしたが、最近では、自分の考えに基づいて行動する傾向も出てきているように思います。
青谷 日本でも98年からがん専門看護師の育成がスタートしました。それから現在までの10年間で、がん患者さんの意識も大きく変化しています。1例をあげると当時はセカンドオピニオンという言葉を知らない患者さんがほとんどだったのが、現在では大半の患者さんがその意味をきちんと理解しています。そして患者さんの権利意識と要求が高まっていくなかで、それに応えていく看護師の役割も高まってきたのでしょうね。
トレイシー 米国では「国家がん法」が施行されると、メディアもそのことを積極的に取り上げ、患者の意識の高まりをサポートしていきました。そんななかでドクターもたとえばセカンドオピニオンについても、患者さんに積極的にアドバイスしていくようになりました。現在の日本の状況は当時のアメリカのそれによく似ています。これからは看護師の専門性が認められるようになると思うし、そうなればいいと願っています。
患者さんに対するサポーティブケア
柳澤 最近では日本でも、一般の週刊誌でも毎週のように、がん治療の問題が取り上げられるようになっています。そのことでも、がんという病気に対する意識が高まっているといえるかもしれません。ところでそれらメディアで、とくにひんぱんに取り上げられているのが化学療法のあり方ということです。この点について、日米の違いも含めて、ご意見をお聞きしたいと思います。
キャロル 化学療法でいうと日本では抗がん剤の承認に時間がかかることがよく指摘されますね。私はそのことには、保険制度の違いが関係しているように思います。もちろん一概にそう言いきることはできないのでしょうが、個人個人が保険に加入している米国と違って、日本には国民皆保険制度があり、政府が保険で使用できる適応薬剤を承認するシステムになっていることが影響しているように思います。何とか日本と米国のいいところをすり合わせて、迅速に治療薬が使えるシステムになればいいと思っています。
柳澤 治療面ではどうですか。たとえば化学療法の副作用のマネジメントなどでも、日本は遅れているといわれています。当然のこととして、そのなかでの看護職の役割も日本とアメリカでは違っているように思いますが。
トレイシー 米国では患者さんに対するサポーティブケアが大切な看護師の仕事として確立されており、そのなかに薬剤による副作用のマネジメントも含まれていますね。この仕事の具体的な内容は料理の本に載っているレシピのようにマニュアル化されています。そこではたとえば炎症が起こった場合には、こんな原因が考えられ、どう対処すればいいかなど、患者さんの副作用症状の原因や対処法がくわしく記載されています。私たち看護師はそれを参考にしながら、自らのノウハウを生かして患者さんとともにケアを進めていくのです。その意味でも専門看護師の存在は重要ですね。
治療とナーシングを融合させるには
青谷 なるほど。米国の場合はナースによる患者さんのサポートが、治療にうまく融合しているんですね。
その点で考えなければならないのは、私たち看護スタッフもどんどん情報を発信していくことでしょうね。当たり前のことかもしれませんが、日本の1人ひとりの看護師は一生懸命患者さんのケアに取り組んで、それなりの成果をあげています。でも、そうしたケアの成果を実績として積み上げて、エビデンス(科学的根拠)として公表するパワーに欠けているように思います。
日本では看護研究に関する研究助成の規模はまだまだ小さいですし、米国のように大規模な臨床試験グループが実施する研究において、副作用マネジメントやクオリティオブライフ(QOL=生活の質)などの研究課題に看護師の立場で参画することは非常に稀です。早い話が治療とナーシングが乖離してしまっているんです。
これからは私たち看護師もナーシングに関する情報を積み上げ、患者さんと医療界全体に対してエビデンスとして発信していく必要があると思います。それを各医療機関に伝える手段をもつことで、より的確な患者さんのサポートが実現するのでしょうね。
川上 日本にもナーシングについて研究している人たちはたくさんいると思うんです。ただ残念なことに、それをまとめる力が欠けているように思えます。もっともがん対策基本法ができたことで、そうした状況も改善されるのでしょうが……。
トレイシー 日本でも1987年に日本がん看護学会が発足していますね。そうした組織をもっと活用することはできないのですか。
たとえば一般的な症状に対して、世界的にエビデンスとして確立されている化学療法の副作用対処法を集めて発信するようなことができるようにも思うのですが。
青谷 もちろん日本がん看護学会や日本看護協会でもそうした試みは行っていますし、厚生労働省でもナーシングについてのリサーチに積極的な支援を始めています。しかし米国に比べると規模はずっと小さいですね。
トレイシー 米国でも最初は今の日本と同じような状況でした。それでも米国がん看護学会(Oncology Nursing Society)の活動を中心に医師の研究論文とともに、副作用のマネジメントに関する看護エビデンスを積み上げていきました。
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