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悩みやつらさを抱え込まないで! AYA世代のがん対策が本格化

監修●堀部敬三 国立病院機構名古屋医療センター上席研究員
取材・文●菊池亜希子
発行:2023年12月
更新:2023年12月

  

「全国の456のがん診療連携拠点病院には〝がん相談支援センター〟が設けられていて、がんに関する悩みごとを相談できるようになっています。その病院にかかっていなくても、相談はどなたでもできます」と話す堀部敬三さん

がん医療において、「AYA世代」という言葉をよく聞くようになりました。日本では2017年度からの「第3期がん対策推進基本計画」に初めて盛り込まれ、ようやく国として本格的な取り組みが始まったのです。学業、就労、結婚、妊娠・出産といった人生イベントが重なるこのAYA世代の悩みやつらさをどう解消していくか。また、患者数が少ないゆえの孤立感をいかにサポートするか。国立病院機構名古屋医療センター上席研究員の堀部敬三さんに、AYA世代のがん医療の課題と取り組み、そして向き合い方について聞きました。

AYA世代って? その定義は?

「AYA世代」は、「Adolescent and Young Adult」(思春期と若年成人)の頭文字で、がん医療におけるAYA世代は、日本では15歳から39歳までを指します。

「AYA世代のがん医療対策の必要性を最初に打ち出したのは英国です。1990年に初めてAYA専門病棟が設立され、1995年には、AYA世代に特化した生涯教育プログラムが開始されました。続いて2004年にオーストラリア、2006年に米国へと広がっていき、日本で厚生労働省が本腰入れて取り組み始めたのは2018年のこと。対象となる年齢層は、英国では13~24歳、オーストラリア12~25歳、カナダ15~29歳、米国・日本では15~39歳など、国ごとに違いがあります」と国立病院機構名古屋医療センター上席研究員の堀部敬三さんは述べます(図1)。

対象年齢の線引きの違いは、AYA世代の捉え方によります。

まず、生殖機能が発育し、身体的に子どもから大人へ移行するA世代からYA世代前期(10代後半から20代前半)は自立過程にあり、就学、新規就労の只中特有の心理社会的葛藤があります。この時期のがん種は白血病や脳腫瘍、性腺腫瘍(精巣がんや卵巣がんなど)、骨軟部腫瘍が多く、0~14歳までの小児特有のがん種とも重なる傾向が強くあります。この世代を「AYA」と捉えるのが英国やオーストラリアの考え方です。

一方、20代後半以降は、性腺腫瘍や白血病といった20代前半までに多いがん種に、乳がんや子宮頸がんといった成人のがんも加わり、30代以降はその発症数が増えていく時期。小児特有のがんから成人のがんへ、発症傾向が転換していきます。

米国がこの時期も「AYA世代のがん」としたのは、年齢別の5年生存率の改善率(1975年~1997年)を調べた結果によるとされています。調査期間(22年間)で、小児と成人世代では5年生存率が伸びているにもかかわらず、15歳~39歳、とりわけ30代での治療成績向上率が芳しくなかったのです。

この結果を受けて2006年、米国は30代も「AYA世代」と定義し、この世代特有のがん医療対策を模索していく必要があると発信しました。

では、日本では、なぜ15~39歳をAYA世代と定義づけたのでしょうか。

「アメリカの捉え方に賛同したこともありますが、〝がんは高齢者の病〟との考え方が日本にも根強くあり、がん検診や介護保険適用など、がん対策の対象は40歳以降です。AYA世代を20代までと定義すると、30代が制度や対策から取り残されてしまいます。また、30代は子どもを産み育てる世代であり、妊孕性に配慮したがん医療を推進するという共通の課題があります。それらを考慮して、日本でも15~39歳をAYA世代と定義づけたのです」

AYA世代のがんとはどのようなもの?

日本では、1年におよそ100万人が新たにがんと診断されています。男女比ではやや男性が多く、高齢になるほど罹患者数が増えます。一方で、小児がん(0~14歳)は年間2,200例ほどで全体の0.2%、比率は男の子のほうが若干多いとされます。AYA世代は年間約2万人ががんに罹患し、全体のおよそ2%。男女比率は男性31%、女性69%、女性が多いのが特徴です。

がん種もAYA世代ならではの特徴がありますが、AYA世代と一括りにできないのも大きな特徴だと堀部さんは指摘します。

「15~19歳前後は14歳までとされる小児がんの要素が濃く、20代前半になると、性腺腫瘍がそれまで1位の白血病を抜き、甲状腺がんも上位にきます。さらに20代には、性腺腫瘍1位は変わらないものの、それまで見られなかった子宮頸がんが散見し始め、20代後半には性腺腫瘍に迫ります。乳がんが発症し始めるのもこの時期で、30代になると乳がんと子宮頸がんが急上昇し圧倒的上位となるのです。甲状腺がんも女性に多いがん種です。これらがAYA世代において女性が多い理由です」(図2)

また、小児からAYA世代に多い「白血病」は、同じ白血病でも年代によって好発する種類が異なると堀部さんは説明します。

「小児に圧倒的に多いのが急性リンパ性白血病。ピークは3~4歳で年齢を経るにつれて徐々に低下します。また、急性骨髄性白血病も0~4歳に多く、そこからいったん下がりますが、10~20代にかけて再び緩やかに上昇し、20歳を過ぎると急性リンパ性白血病より高頻度になるという特徴があります。脳腫瘍も同様、小児に多い髄芽腫、星細胞腫は年齢とともに徐々に低下し、膠芽腫(こうがしゅ)やびまん性星細胞腫は10代後半以降、増えていく傾向があります」

また、小児と同じく治療後の人生が長く、治療が終わって生じうるさまざまな晩期合併症への配慮が必要なのもAYA世代。そのため、治療は終わっても長期のフォローアップが欠かせません。

AYA世代の治療成績が劣るのはなぜ?

AYA世代のがん治療成績が思わしくない理由は、症例数が少ないために治療開発が遅れていること、遺伝子型や組織型など腫瘍の特性の違いなどさまざまありますが、それ以外に、この世代、特に思春期の患者さんの病気や治療への向き合い方に難しさがある、と堀部さんは言います。

「幼いころは親の庇護のもと、治療選択も通院もすべて親が担うので治療の機会を逸することは少ないのですが、成長するにつれて自意識が芽生え、親の目が届かない場面が増えていきます。同時に、10代半ば以降は男女ともに生殖機能が発達し生殖期に入る時期でもあり、感情的にも体躯的にもアンバランスで複雑な状態になるのです。とくに生殖器の悩みは親子でも話しづらく、困ったことがあっても誰にも言えなかったり、自身の生活や仕事を優先して病院に行かず発見が遅れがちな傾向があります。治療をしていても薬を飲んだと言いつつ実は捨てていたりすることもあり、そうしたことも少なからず治療成績に影響していると考えられます。さらに、親、ときには医療者でさえも、成人であればがんを疑う症状でも、まさか10代や20代でがんとは思わず、見逃してしまうこともあるのです」

やはり、小児はもちろん、AYA世代にもその年代に多いがん種があることを知っておき、気になる症状は見過ごさないことが重要です。

AYA世代のがん対策とは?

「がん対策基本法」が施行された2007年以降、日本は治療開発およびがん治療の均霑化をはじめ、さまざまな助成制度推進にも力を注ぐようになりました。しかし前述のように、AYA世代のがんは罹患者比率が圧倒的に低いことから、治療開発の面でも、医療費助成や介護保険といった制度面からも、その後も長く置き去りにされていたのです(図3)。

2007年「第1期がん対策推進基本計画」から10年のときを経て、2017年「第3期がん対策推進基本計画」において、ようやく〝AYA世代がん対策〟の必要性が言及され、本格的にスタートしました。日本癌治療学会によって『小児、思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』2017年版が発行されたことも、その足掛かりとなる一歩だったと言えるでしょう。

まず、国の施策として2015年~2017年に「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」の研究班が組まれ、全国規模の実態調査が行われて「第3期がん対策推進基本計画」の基盤資料となりました。その研究代表者が堀部さんでした。続いて、国立国際医療研究センター病院乳腺・腫瘍内科診療科長の清水千佳子さんのもと、「思春期・若年成人(AYA)世代がん患者の包括的ケア提供体制の構築に関する研究」研究班も立ち上げられ、研究班ホームぺージにおいて「全国AYAがん支援チームネットワーク」も始動、全国モデル施設でのAYA世代のがん患者さんと家族へのサポートチームの取り組みや包括的なサポートの情報を紹介しています。

また、2018年には、研究班メンバーらによって「一般社団法人AYAがんの医療と支援のあり方研究会」(AYA研)が発足しました。現在600名を超える会員を有し、医療者と患者さんが同じ目線に立って、AYA世代のがんに関する教育活動、学術活動、社会啓発、そしてAYA世代のがんの悩みに対応できる相談員の人材育成など、多岐に渡って活動を続けています。

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