私が目指すがん医療 9
~専門職としての取り組み、患者さんへの思い~
泌尿器がんの治療で、海外医療支援で、求められる場で最新最善を目指します

大阪赤十字病院の光森健二さんは、泌尿器科部の医師としての業務を行いながら、ウガンダやハイチなどの海外医療支援に赴いている。
がん治療医としては少し珍しい経歴の持ち主だ。主治医として患者さんを診ながらの活動に、どのような意義や思いがあるのか聞いた。
周囲の協力あってこその海外医療支援

光森さんがこれまでに日本赤十字社から派遣されたのは2009年のインドネシア、10年のハイチ、10年、12年、14年のウガンダの計5回。ハイチ大地震の際は約1カ月、内戦後の復興途上にあるウガンダには、15週間と10週間の長期派遣だった(14年は短期)。意外なことにこれらは赤十字としての業務ではあるものの、病院から指示されたわけではなく自発的な参加だという。
「外来や手術という自分の本来の業務を置いて行くわけですから、主治医がいなくなる患者さんは不安でしょうし、同僚には仕事を負担してもらうことになります。ハイチ派遣のときは大きな手術をした直後に、来てほしいと要請がありました。普通に考えれば周りに大迷惑ですが、救援医師として赤十字に登録した以上、大きな災害が起こって医師が必要ならばと、派遣を選びました。仕事とはいえ、患者さんやスタッフの理解と協力がなければ行けるものではありません。周りの人に支えられていることを忘れてはいけないと思っています」
救える命を救えないのが本当につらかった
「ウガンダは医療機器も薬も極めて限られています。CTはもちろんないですし、血液検査も数種類のみ、レントゲンすら撮れないこともありました。現地の研修医が何人かいても外科医は私一人。腸閉塞や腹膜炎のような専門外の治療もなんとかしないといけない。自分の力が及ばないことも多く、精神的なストレスは大きかったですね。
骨のがんだった女の子は、首都の病院で手術するお金がありませんでした。支援団体がお金を集めた時には2カ月以上経ち、転移が見つかってしまった。帰国後、女の子は亡くなりました。日本なら有り得ないことです。救える命を救えなかったのが、本当につらかった」
そのような思いをしてもなお、光森さんを海外医療支援に駆り立てるものは。
「人の役に立ちたいと思って医師になりましたが、発展途上国の人々を助けたいというまで強い思いはなかったです。転機は9年前にこの病院に異動し、赤十字のメンバーとして医療支援に行けると知ったことです。でも、日々の忙しい業務の中で手を挙げる医師はなかなかいません。私は大学院でニュージーランドに留学しましたが、残念ながら世の中の役に立つような研究や業績は残せなかった。でも拙い英語でなんとか2年間海外生活した経験ならある。臨床はもちろんやりがいがあるけれど、自分がいなければできない手術はない。そういった様々な思いが混ざり合った結果です。今後も機会があって状況が許せば行くでしょう。そのためにやってきたのですから」
患者さんの話を聞くのに才能はいらない
日本では泌尿器がんの専門医として治療に臨んでいる。
「当院は2011年に腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術の施設基準を取得し、2014年12月までに89件の手術を行い、良好な成績を収めています。私自身は決してフロントランナーではありませんが、常にエビデンスやデータをアップデートして、やるべきと評価が下された治療に関しては、最新最善のことができるよう目指しています。
どんな病気でも、絶対に治るというのはありえません。患者さんにとって大事なのは、この医師が治療してくれて良かったと思えることではないでしょうか。訴えをちゃんと聞いて対応してくれた。そんな当たり前のことが患者さんの満足に繋がると思います。患者さんの話を聞くのに才能はいりません。ほんの少し時間を割けばいい。そこだけは惜しまないようにしています」
Let’s Team Oncology ― 患者さん・医療従事者のみなさんへ
看護師は患者と医師の橋渡しを心がけて
緩和ケアチームとか、栄養サポートチームとか、今はチーム医療がシステムとして確立しています。それをしっかり患者さんのため、かつ自分たちのために役立てないと意味がありません。患者さんの一番そばにいる病棟の看護師は、患者さんについて知っていることも多いです。この貴重な患者さんの情報を聞くことを大事にしようと思っています。そして、看護師も治療に貢献できると自信を持って医師とコミュニケーションをとってほしいですね。患者さんと医師との橋渡しになってくれればと思います。
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