私が目指すがん医療 10
~専門職としての取り組み、患者さんへの思い~

手術、サイバーナイフ、化学療法の利点を生かし 脳腫瘍のより良い治療を

田部井勇助 日本赤十字社医療センター脳神経外科
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2015年3月
更新:2015年7月

  

たべい ゆうすけ 1999年琉球大学医学部卒。国立国際医療センター(現国立国際医療研究センター)レジデントを経て、2003年国立がんセンター(現国立がん研究センター)中央病院脳神経外科レジデント。2005年都立駒込病院脳神経外科を経て、2012年より現職。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医。日本癌治療学会がん治療認定医。独立行政法人医薬品医療機器総合機構専門委員

治療が難しいがんの1つと言われる悪性脳腫瘍。現在は外科手術、放射線治療に加え、化学療法にも効果的な治療が登場し、各診療科が連携する集学的治療が行われている。日本赤十字社医療センター脳神経外科の田部井勇助さんは、悪性脳腫腫瘍の専門家として、これら3つを自らの手で行い、さらに集学的治療の臨床試験にも取り組んでいる。

患者さんのためになせる術の幅を広げたかった

悪性脳腫瘍を専門とする脳外科医は、通常、外科手術を中心に化学療法などを担当し、具体的な放射線治療計画は放射線治療医が手掛ける体制が一般的だ。田部井勇助さんは、定位放射線治療機器であるサイバーナイフについても、自らの手で計画を立てている。

「サイバーナイフは、高精度のロボットアームを用いてX線を多方向から照射する治療機器です。ガンマナイフでは困難な大きな病変に対する複雑な分布の分割照射も可能で、悪性脳腫瘍を治療する上でサイバーナイフは不可欠です。また手術と同様に、治療の自由度が大きいため、治療者の技術、工夫が効果的に反映できる。だから、院内外の意見を取り入れながら、より良い照射法を作り出したいと考えています」

悪性脳腫瘍に取り組む原点は、一般脳外科での研修時代にある。

「卒後3年目のレジデント時代に、自分と同年代の膠芽腫の患者さんを受け持ちました。当時は膠芽腫への有効な化学療法がなく、手術、放射線治療が中心の時代です。再発したその患者さんは、なす術もなく徐々に悪化していきました。その様子を目の当たりにし、悔しくてならず、何とか悪性脳腫瘍の患者さんをよくできる手立てはないか。それを学ぶ道へと、国立がんセンター中央病院に移り、レジデントを再スタートしました。がんセンターでは、当時はまだ治験中だった再発悪性神経膠腫の化学療法を学び、その効果に目を見張りました。また初期治療から緩和ケアまで、患者さんに一貫して関わる仕事にやりがいを感じました」

勤務医となった田部井さんは、現場で放射線治療も学んだ。悪性神経膠腫への*アバスチンの治験、JCOG(日本臨床腫瘍グループ)や高度先進医療による医師主導臨床試験、自家腫瘍ワクチン治療などの様々な臨床試験に携わり、悪性脳腫瘍の治療開発を積極的に推進している。

「化学療法は悪性神経膠腫の治療で要となる治療です。手術とサイバーナイフのみでは治せないので、化学療法などによる集学的治療のエビデンス(科学的根拠)を開発したいと思っています」

アバスチン=一般名ベバシズマブ

一緒に治療を頑張りたいと患者さんに思ってもらえるように

患者さんにサーバーナイフ機器を見てもらって説明する。MRI画像は、サイバーナイフ治療前(左)と治療後(21カ月後・右)のもの。中央部の転移が縮小している(患者さんと画像は関係がありません)

肺がんや乳がんなど脳に転移する転移性脳腫瘍のサイバーナイフ治療にも、田部井さんは積極的に取り組んでいる。

「例えば、大きな脳転移で神経症状が出ていた患者さんも、サイバーナイフで腫瘍が縮小すると、運動障害も出ずに1年以上 QOL(生活の質) を維持して、自宅で過ごせるケースもあります(画像)。治療にあたって大切にしているのは、患者さんにとって何が一番いいのかということです。患者さんの話をよく聞き、患者さんからは何でも相談してもらえるように、急な心配事にもいつでも電話で受け付けるようにしています。治療にかかわってきた患者さんのためにいい対策が立てられるなら、できる限りの対応をしたい。そのようにできるこの仕事を天職とありがたく思っています」

2014年11月、膠芽腫により余命半年と診断された米国女性が、オレゴン州で自ら命を絶ち、世間を騒がせた。

「膠芽腫の患者さんにとっては、身につまされる出来事ですが、外来で患者さんたちは自ら話題を切り出して、『私は万一命の期限が区切られたとしても、自ら死んだりしません。先生と一緒に頑張ります』と話してくれました。最終的には命を落とすことが多い悪性脳腫瘍に向き合う患者さん・ご家族に、『先生に診てもらってよかった』と感じていただける診療ができるよう、希望をつなぐ治療のエビデンスを積んでいきたいです」

いまHOTな話題 ― NovoTTF-100A併用療法

昨年の米国脳腫瘍学会(SNO2014)では、従来のテモダールによる治療にNovoTTF-100Aという中周波電場を伝達する機器を組み合わせた新しい治療法によって、無増悪生存期間(PFS)が3.1カ月、全生存期間(OS)が5カ月延長するという臨床試験結果が発表されました。ここまで画期的な効果が現れたのは、膠芽腫治療では久しぶりのことで、期待が高まっています。日本ではまだ未承認ながら、当院では昨年より先駆けて導入しています。ただ、この治療はすぐには効果が出ないこと、2-3日に1回の剃髪や、3㎏もある機器の携帯使用など患者さんの負担が大きい治療で、だれにでも合う治療ではないという実感です。効果の高い治療法は明るいニュースですが、臨床試験の結果だけで判断するのではなく、実際の治療がどのようなものか知った上での治療選択が必要になってきます。

テモダール=一般名テモゾロミド

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