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私が目指すがん医療 8
~専門職としての取り組み、患者さんへの思い~
症状も経過も実に多様な神経内分泌腫瘍 患者さんと専門医師が出会えるネットワークを作りたい

全身の多くの臓器がもつ神経内分泌細胞に発生する神経内分泌腫瘍(NET)。症状が出ないタイプがあるほか、治療に難しい面がある家族性NETなど、発生部位も種類も様々な形態を示す悪性腫瘍だ。専門医も治療薬も少ない中で、海外と同等の検査・治療法の普及や医師間ネットワークの拡充に取り組む医師の河本泉さんに話を聞いた。
数少ない専門医が支え合い 得意分野を役割分担する

「神経内分泌腫瘍(NET)という病気に携るきっかけは、京都大学の恩師、今村正之先生がこの専門医であることが大きかったです。私が取り組んだ当初は、主要な学会の学術集会でもわずかしか演題がないような状況でした。
その中で、今村先生がこの病気の様々な研究会を立ち上げ、その運営のお手伝いをしたり、治療のガイドライン作りにかかわってきました。これらの院外での活動は気が付けば増えていたというところですが、とてもやりがいを感じています。NETは、症例が少ない分、検査法や治療のエビデンス(科学的根拠)も限られています。数少ない専門医がそれぞれ、例えば『悪性度の高いNETの研究』『原因遺伝子の研究』『家族性NETの研究』等のテーマをもって臨床・研究に励んでいます。そのため、互いが顔見知りで、『この相談はあの病院・大学のあの先生に』と支え合い、得意分野を分担し合えるという良い面があります」
専門医たちに共通するのが、「この病気に苦しむ患者さんがより良い治療を受ける機会に恵まれるために」という思いだという。
「今後は、さらに医師間のネットワークを広げ、患者さん個々のニーズに合わせて、得意分野をもつ医師の診察が受けられるようにしたいです。研究会等を通じ、その役割を果たせればと考えています」
同い年の患者さんへの治療で携わった薬がようやく保険適用へ
「2011年よりNETに保険適用となった抗がん薬が出てきましたが、十数年前に私と同い年だった30代の患者さんを受け持った当時は、保険適用のある有効な抗がん薬はまだありませんでした。薬がない疾患は本当につらいと思いました。その頃、海外ではすでに使われていた薬を個人輸入するようになったのですが、やがて厚生労働省へ認可を申請する活動へとつながりました」
多くの患者さんが保険適用でさまざまな治療・検査を受けられるための活動は続いている。
長期に闘病する患者さんから多くのことを学ばせていただいた
「NETは一般的に悪性度が低い腫瘍と思われていますが、中には短期間で急激に悪化して、例えば通常の膵がんよりも著しく予後が悪い場合があります。半面、薬が奏効すれば何年も長期に安定する場合もあります。いずれの場合でも患者さんと主治医がいかにモチベーションを下げずに治療を行うかが大切でしょう。
長い経過をたどるこの病気の診療では、ご家族とのかかわりも大切ですし、何を考え、悩んでおられるか等々、患者さんの全体像を会話などを通じて感じ取るよう心掛けています。教わることは実に多く、医学的な面はもちろん、人としてどのように患者さんとかかわっていくべきかなど、日々学んできました。
医師間の役割分担が進みつつあるNETですが、課題はたくさんあります。専門医間で多い相談は、『薬の効果が現れないケースで次の治療をどうするか』『再発率が高い家族性NETの再手術や治療方針をどう立てるべきか』『治療法がないケースをどうするか』という切実なものばかりです。検査法や薬は、いかに用いるかが大切ですが、やはり選択肢は多ければ多いほど患者さんのためになります。海外と同様の検査・治療の選択ができるようになってほしいと願っております。
今後は研究会などの活動を通じ、NET治療の連携を充実させ、多くの医療機関で同じような高度な検査・治療が受けられるよう、NETの知識が医療従事者の間に広く深く行き渡ることを願っています」
Let’s Team Oncology ― 患者さん・医療従事者のみなさんへ
方針に悩みが生じたらすぐ専門医へ
NETは発生部位が様々で、多くの専門領域にまたがる疾患です。早期の場合は一般の様々な医療機関で診断・治療を受けることが多いですが、治療方針に悩みが生じたときは、速やかに近隣の専門の医療機関へ相談されることをお勧めします。特に、家族性NETと診断された方や転移がある方、また、再発後の治療については、ぜひお早めに専門医を受診してください。
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