鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談
全日本社会人落語協会副会長/作家・樋口強 VS 「がんばらない」の医師 鎌田實
『生きてるだけで金メダル』で訴えた笑いの大切さ
笑ったときの嬉しさを体感してほしい。そうすれば新しいものが見えてくる
ひぐち つよし
1952年兵庫県生まれ。新潟大学法学科卒業。東レ(株)で新規事業立ち上げの最前線にいた1996年、43歳のとき悪性度が高く、生存率が極めて低い小細胞肺がんに。手術と抗がん剤治療で危機を乗り越えたが、現在も抗がん剤の後遺症で全身のしびれが続いている。年に1度、東京・深川で「いのちに感謝の落語独演会」開催。ほか全国各地で「いのちの落語講演会」を行っている。2007年10月、イタリアで「いのちの落語・イン・ミラノ」公演を行う。著書に『いのちの落語』(文藝春秋)『つかむ勇気 手放す勇気』(春陽堂書店)『生きてるだけで金メダル』(春陽堂書店)
かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、病院を退職した。現在諏訪中央病院名誉院長。同病院はがん末期患者のケアや地域医療で有名。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』(朝日新聞社)、『この国が好き』(マガジンハウス)、『ちょい太でだいじょうぶ』(集英社)など
ミラノの日本人会で創作落語「病院日記」を披露
鎌田 先日、イタリアへ行ってこられたそうですね。
樋口 はい。ミラノの日本人会から頼まれて、10月にミラノで「いのちの落語・イン・ミラノ」という公演をやってきました。ミラノには日本人が500人ほどいらっしゃるそうですが、そのうち200人ほどにご来場いただきました。短い講演、創作落語「病院日記」をやり、お囃子教室で寄席のお囃子を解説し、最後に古典落語をやりました。命の大切さと日本語の面白さを堪能していただけたと思います。
鎌田 大笑い?
樋口 大笑いでした。イタリア人もいましたが、「わかる」と言ってましたね。総領事も参加されまして、「日本人が1つになれたイベントでした」と、大変喜んでいただきました。座布団はご婦人の手作り、屏風は領事館からお借りして本格的な寄席の雰囲気になりました(笑)。
鎌田 奥様もご一緒に?
樋口 「13時間の飛行機の旅に、1人では行かせられないでしょう。私が一緒に行ってあげます」なんて言って、ついてきました(笑)。
鎌田 ぼくの奥さんも同じ。講演に呼ばれた所のそばに温泉があるとついてくる。それにしても、樋口さんの「いのちの落語講演会」は海外にまで広がったんですね。すごいですね。
樋口 おかげさまで。「いのちの落語講演会」のことが口コミで伝わっているようです。
鎌田 もう全国どれくらい歩かれました?
樋口 白地図を買いまして、回った都道府県を塗りつぶしているんですが、今29都道府県です。半分ちょっとです。でも、岩手県などは10回ほど行っています。
鎌田 行ってないのは、どのあたりですか。
樋口 日本海側が多いですね。石川、福井、鳥取、島根あたりは行ってませんね。ご縁があれば、どこにでもうかがいますよ(笑)。
鎌田 さて、最近、お身体のほうはいかがですか。
樋口 疲れやすいのはずうーっと一緒です。また、全身がしびれていますが、それが普通の状態ですね。もう慣れました。がんとの付き合い方が、大体わかってきましたよ(笑)。
笑顔の写真が訴える1歩前に出る大切さ
鎌田 先頃、『生きてるだけで金メダル』というCD付きの本を出されました。この本には、樋口さんに寄せられたお手紙やメッセージが取り上げられていますね。
樋口 私は毎年1回、東京・深川で、がんの本人とその家族の方だけをご招待して、「いのちに感謝の落語独演会」をやっています。そこに来られた方々が残していかれるメッセージが、もう2000枚以上になっています。私の落語を聴き、感じたことが、巧まない表現で書かれています。その多くは、「笑うと元気が出る」という内容です。
私は、あとから続くがんの人たちにそれを伝えることが、私の仕事ではないかと思い、今まで温めていたメッセージを1冊の本にしたわけです。
鎌田 なるほど。これまで出された本はご自身のことを書かれていますが、今回は同じ病に苦しんでいらっしゃる人たちの言葉をすくい上げて本にされたわけだ。この本で最も訴えたかったことは?
樋口 がんの方やその家族に、笑ったときの嬉しさを体感してほしい、そうすれば新しいものが見えてきますよ、ということです。それは私が100万遍言うよりも、体験した人の言葉を紹介したほうが重みがあり、説得力があります。自分から1歩前に出てみる、自分の手で扉を開けてみる。これが大切なことです。
この本に掲載されているどの写真でもいいです。1枚の写真に写されたがんの方やそのご家族の笑顔は、他の同じ病で苦しむ人たちに、1歩踏み出すこと、自分の手で扉を開けることの大切さを雄弁に物語っています。そこに気づいてほしい。これが私がこの本にかけた願いです。
鎌田 わかった。メッセージだけでなく、写真もしっかり見てほしいということですね。そう言われて見ると、とても良い写真ばかりです。
樋口 写真家が半年間、私の後ろにずうーっとついて、たくさんの写真を撮ってくれました。この本の前半は1枚1枚の写真の笑顔から、後半は一言のメッセージから、私の言いたいことをくみ取ってくださいということです。
例えば、夫ががんのご夫婦が私の独演会に来られた。奥さんの隣でご主人が肩を揺すって笑っている。奥さんは「来て良かったっ!」と、心の底から喜ばれた。それを見て、私には、このご夫婦がこれまでどれだけ苦しまれたかがわかるんです。
写真の笑顔にしても、メッセージにしても、がんに苦悩しながら、一生懸命生きてきた人たちの生きざまが伝わってくるんですよ。
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