再発予防治療としてがんの完治をめざす樹状細胞ワクチン療法
がん個別化医療の基盤的治療として、期待高まる免疫細胞治療
患者さん1人ひとりにあわせた
治療を提供することががんの
克服に繋がると話す
神垣隆さん
がん再発予防治療の新しいアプローチとして、免疫細胞治療が注目されています。
身体への負担が少なく、副作用もほとんどないといわれる免疫細胞治療。
その中でも高い再発予防効果が望める樹状細胞ワクチン療法の最新の取り組みをレポートしました。
自己の「免疫」の力でがんを叩く治療法
現在、がんの治療は、手術療法、放射線療法、化学療法の3つが柱となっている。
手術療法と放射線療法は、がんの塊を丸ごと取り除く「局所治療」である。がんを丸ごと取り除いて完治できることもあるが、しばしば、治療前の検査で発見できなかった微小ながん細胞が残り、それが成長して再発となることがある。
取り残したがん細胞を全身的に殺し、再発を防止するために術後に化学療法が行われることもある。ただし、化学療法では深刻な副作用や免疫系へのダメージが伴う危険性があり、再発予防効果と副作用のリスク、どちらを重視すべきかという議論がある。
このようななか、免疫細胞治療によるがんの再発予防、転移の抑制が注目されている。免疫細胞治療とは、自分の免疫細胞を体外で大幅に増殖・強化してから体内に戻し、がんを攻撃する治療法のこと。進行がんの治療としても活発 な臨床応用の取り組みがなされているが、特に術後の再発・転移の抑制に効果が期待されている。
治療は採血と点滴だけで、身体への負担が少なく、自らの免疫細胞を活用することから副作用もほとんどない。
免疫細胞治療を長年実施している医療法人社団滉志会瀬田クリニックグループで臨床研究センター長を務める医師・神垣隆さんは、「手術や放射線療法で大きながん細胞がなくなった時が、免疫細胞治療でがんを完治させる大きなチャンス」と話す。
がん攻撃の精鋭部隊CTLをいかに増やすか
免疫とはなんだろうか。免疫とは「自分でないもの=非自己を見つけ、排除する仕組み」のことである。
がんのほとんどは、まだごく小さい細胞のうちに免疫細胞によって日々退治されている。それがなんらかの原因で免疫の監視を潜り抜けて分裂を繰り返すと、やがてがんという病気として発症する。
免疫細胞治療とは、こうした免疫の作用をより強化して、がん細胞を攻撃しようとする治療である。
中でも再発予防治療として頻繁に選択されるのが、樹状細胞ワクチン療法である。2011年、樹状細胞の発見でノーベル賞を受賞したスタインマン博士が、自らの膵臓がん治療にもその樹状細胞を用いていたことは有名である。
がんを直接攻撃する免疫細胞を「兵隊」とすると、それらに攻撃目標を示し、攻撃指令を与える「司令官」が樹状細胞だ。この樹状細胞に、予め用意した患者自身のがんの目印(抗原)を覚えさせ体に戻すと、体内で免疫細胞にがんの目印を教えるようになる。こうして、通常の「兵隊」だった免疫細胞は攻撃目標を記憶した「精鋭部隊」となり、より効果的にがんを攻撃できるようになる。これが、樹状細胞ワクチン療法の考え方である(図1)。なお、この精鋭部隊をCTL(*)と呼ぶ。免疫細胞治療ではこの精鋭部隊をいかに増やすかがカギとなる。
*CTL=Cytotoxic T Lymphocyte/細胞傷害性T細胞
従来法より効果向上が望める独自の樹状細胞ワクチン療法
まず重要なのが、体外で自身のがんの目印を樹状細胞に取り込ませる細胞処理だ。瀬田クリニックグループでは、米国企業の技術を用いた「エレクトロポレーション法」を導入し、独自の樹状細胞ワクチン療法を実施している。
エレクトロポレーション法(図2)とは、細胞に電気刺激で微小な穴をあけ特定の物質を強制的に取り込ませる方法のこと。この手法を用いて樹状細胞にがんの目印をより多く取り込ませることで、樹状細胞の司令官としての教育能力が上がり、CTLをより多く増やすことができるようになったという。
さらに細胞処理にゾレドロン酸という薬剤を用いることで、「従来法よりも約10倍~100倍ほど、CTLの誘導能力が向上する」(神垣さん)ことが分かっている。当然ながら、その分治療効果も高くなることが期待できる。
「がんの塊がなくなって身体の免疫があがったタイミングで樹状細胞ワクチン療法を行うことで、再発のリスクを大きく下げ、完治を目指せます」と神垣さんは話す。なお、患者自身のがん細胞が用意できない場合は、人工的に作成されたがんの目印(合成ペプチド)を樹状細胞に取り込ませ、同様の治療効果を目指す方法もある。
また、手術後すぐに再発予防治療を始める予定がない場合でも、将来の治療のためにがん組織を無償で凍結保存することが可能だ。
世界的がん専門誌『ランセット(2000)』の報告によると、肝臓がんの手術後に免疫細胞治療を受けた群の5年生存率は、受けなかった群に対して約2倍の開きが生じた(*1)という。
*1=5年後無再発生存期間/免疫細胞治療受診群(76症例)38%・未実施群(74症例)22%
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