海外におけるがん温熱療法の現況
子宮頸がんや乳がんで好成績。見直される温熱療法
群馬大学大学院
腫瘍放射線学助教授の
桜井英幸さん
デューク大学医療センター
放射線腫瘍学科助教授の
エレン・ジョーンズさん
米国で温熱療法が再評価されたきっかけ
最近、がん温熱療法において、ヨーロッパを中心にエビデンス(根拠)の高い臨床試験の結果が次々と出ている。
代表的なものは、2000年にオランダの研究グループが医学的権威の高い専門誌「ランセット」に発表した「進行子宮頸がん(ステージ2b、3b、4)に対する放射線治療に温熱療法を加えた治療」の結果だ。
この発表は、世界の研究者の間でおおいに話題になった。
複数の施設による無作為化比較試験(*)で、試験の対象には子宮頸がん(114人)のほか、膀胱がん(101人、T2~4、リンパ節および遠隔転移なし)、直腸がん(143人、局所進行、または再発)も含まれていた。
試験は、それぞれのがんに対して、(1)放射線治療だけの群(176人)と(2)放射線治療+温熱療法(42度)群(182人)の2群で(下の図1参照)比較された。その結果、局所のがんが消失したのは放射線単独群で39パーセントだったのに対し、温熱療法を加えた群では55パーセントだった。温熱療法が功を奏した結果となった。
とくに成績がよかったのは、子宮頸がんの場合で、がんの消失率は、放射線だけでは57パーセントだったが、温熱療法を加えた群では83パーセントと大きく上昇。また3年生存率では、27パーセントに対して51パーセントと倍近く高くなることが明らかになった。
この結果、オランダでは、進行子宮頸がんの治療では、温熱療法が標準治療の1つとして認められたのである。 膀胱がんの場合も、温熱療法の効果が高かったが、直腸がんではあまり差が出なかった。
米国・デューク大学医療センター放射線腫瘍学科助教授のエレン・ジョーンズさんは、 「この論文が『ランセット』に掲載されて以来、アメリカでも温熱療法に対する関心がふたたび高まってきました」
と言う。同大学は全米の中でも1、2を争うほどがん温熱療法について詳しい。米国国立がん研究所から奨励金を受けて、23年前から精力的に研究に取り組んでいる。
*無作為化比較試験=試験対象となる患者をくじびきなどで無作為に2群に分けて、両群で異なる治療を行い、その結果を比較して評価する方法
進行再発乳がんに対する温熱放射線治療の比較試験
かつてアメリカでは、多くの医療施設が温熱療法に関心を持ち、盛んに研究をしていたことがある。が、91年にRTOG(=Radiation therapy Oncology Group、米国腫瘍放射線治療グループ)という組織が2種類の論文で温熱療法に否定的な結果を発表し、それが米国でも日本でも研究中止の引き金になった。
その結果では、表在性腫瘍(頭頸部がん、乳がんなど)の場合は「放射線治療と温熱放射線治療を比較しても、有効率にも局所コントロールにも差はない」とされた。深部腫瘍(転移性がん、再発性がんなど)の場合は「目標とした加温ができない」と報告された。
だが、RTOGの試験は正しく評価されていなかった(*)。
この臨床研究で失敗した米国は温熱療法に関して後手に回るようになり、ヨーロッパの学会が盛んに大規模な研究発表をするようになった。
どんな臨床試験が行われたか、群馬大学大学院腫瘍放射線学助教授の桜井英幸さんに紹介してもらった。同科は日本全国の施設の中でも古くからがん治療に温熱療法を積極的に取り入れている。
たとえば、1996年、国際協力温熱療法グループが、進行再発乳がんに対する温熱放射線治療の5種類の無作為化比較試験をまとめた分析結果を発表している。
それらの試験の被験者を合計し、(1)放射線治療のみ(135人、40グレイ前後)、(2)放射線治療に温熱療法併用(171人、39度~40.7度)に分けて、2群の治療成績を比較したところ、腫瘍が消失した症例は(1)群で40.7パーセントだったが、(2)群は59.1パーセントと約20パーセントも高かった(図2参照)。
*デューク大学のジョーンズ助教授は「被験者の質が悪かった。さらに、加温装置に問題があり、腫瘍の温度が上がっていませんでした」と話す
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