• rate
  • rate

EPAで慢性的な炎症をコントロールし、体重減少を抑えるために効率的な栄養摂取が大切

最善の治療を行うための栄養療法とは

監修:比企直樹(ひき なおき)
がん研有明病院 消化器外科上部消化管担当副部長 栄養管理部部長
取材・文:柄川昭彦
発行:2012年11月
更新:2013年6月

  

比企 直樹さん
がん研有明病院の
比企 直樹さん

がん細胞が出すサイトカインや手術などの治療によって慢性的な炎症が体内で起こることが、がん患者さんの体重減少の原因の1つになっています。体重減少は、がん治療を完遂し維持するために必要な体力の低下につながります。がん患者さんの体重が増えたという報告もあるEPAの効果とはどんなものなのでしょうか。

治療の効果を高め生き生きと暮らすためのがん免疫栄養。炎症を抑え体重を維持

がんになると、およそ半分の患者さんに体重減少が起こります。そして、体重減少が起こると、がんの治療にも影響が現れてしまいます。たとえば、抗がん剤治療を受ける場合、体重が減った患者さんは、体重が減らなかった患者さんに比べ、治療を続けられなくなる可能性が高いことがわかっています。

したがって、体重減少を防ぐことが大切なのですが、単純に食べる量を増やすだけではうまくいきません。がん患者さんの体では、慢性的に炎症が起きているからです。慢性炎症は、体の中で起きるボヤと考えるとわかりやすいでしょう。体の中で小さな火事がずっと続いているため、自分の体をエネルギーとして利用してしまい体重が減少します。特に筋肉が落ちてきます。筋肉の減少や体重減少が起きると、体力が低下してQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)が低下しますし、外見的にも元気がなさそうに見えてしまいます。また、前述したように、予定していた治療が行えないなど、がんの治療に支障をきたしてしまうことも少なくありません。

体にがんがあっても、生き生きと元気な生活を送るためには、体重を減少させないことと、筋肉を減らさないことが重要です。そのためには、体の中で起きている慢性的な炎症を抑えることが必要になります。

がん治療のためには体力が必要。栄養の利用を妨げる炎症と治療による副作用

がんの治療では、手術、放射線治療、抗がん剤治療などが行われます。その治療効果を引き上げるには、治療に耐えられる体力が必要になります。そのためにも、体重を維持することが大切です。体重減少を引き起こし、体力を低下させてしまう原因は、主に2つあります。

1つは、がん細胞が放出するサイトカイン()という物質により、慢性炎症が引き起こされることです。慢性炎症があると、筋肉のたんぱく質が燃やされてしまい、筋肉の減少や体重減少につながります。特にがんが進行して悪液質()という状態になると、急速に筋肉が細くなることが知られています。

もう1つは治療の影響です。手術、放射線、抗がん剤などの治療を受けると、その刺激によって患者さんの体に炎症が起こります。また、治療によって引き起こされる副作用(発熱、倦怠感、口内炎、食欲不振、下痢など)は、栄養の利用を妨げて体重を減少させることにつながります。副作用が起きていると、活動量が低下し、全身状態の悪化を招く原因にもなります。

がん治療の効果をあげるためにも、生き生きとした元気な生活を送るためにも、適切な栄養管理が必要だと考えられています。特に診断時や手術を行う前、なるべく早い段階で行うことが、がんと仲良く暮らす上で重要となると考えています。

サイトカイン=細胞から放出され、種々の細胞間相互作用を媒介するたんぱく質性因子の総称。免疫、炎症、生体防御において重要な役割を担っている。

がん悪液質=悪性腫瘍の進行に伴って、栄養摂取の低下だけでは十分に説明できない、るいそう、体脂肪や筋肉量の減少が起こる状態。

1日2gのEPA摂取で、がん患者さんの体重が増えたという報告も

[2グラムのEPA]

クロマグロ 1キログラム
クルマエビ 29尾
3~4尾
鯖の切り身 3切れ

がん患者さんにとって、体の中で起きている慢性炎症を沈静化することは大切です。そのために適切な栄養管理が必要となります。具体的には、十分なたんぱく質を取る必要がありますし、慢性炎症を抑制するEPA(エイコサペンタエン酸)を摂取することも勧められています。

EPAは、魚の油に含まれている栄養素です。炎症を引き起こすサイトカインを抑える作用があるため、がん患者さんに見られる慢性炎症や、それに伴う体重減少を抑えるのに貢献してくれます。1日に2gのEPAを摂取することにより、がん患者さんの体重が増加したという研究結果が報告されています。

ところが、EPAを1日に2g摂取するのは、実はそう簡単ではありません。EPAを豊富に含むのはサバやイワシなどの青魚です。それでも2g摂取するためには、サバなら切り身を3切れ、イワシなら3~4尾が必要です。EPAはエビやマグロにも含まれますが、クルマエビなら29尾、クロマグロなら1㎏という量になります。これはとても食べきれません。ふつうの食事で毎日2gのEPAを摂取するのは、かなり難しいのです。

お勧めしたいのは、ふだんの食事に栄養補助食品を加える方法です。これなら、たんぱく質やEPAなど、がん患者さんが必要とする栄養を手軽に補うことができます。 治療を受ける患者さん自身の体力があることが、がん治療を行う上で大変重要なことだと考えております。手術を受けていただく患者さんにはこのようなお話は、動画を用いて必ず説明しております。今回、その動画を本サイトでも閲覧ができます。EPAだけ摂ればよいわけではありません。サプリメントで補うわけではなく、3大栄養素を中心にバランスのよい栄養管理を心がけましょう。是非、皆様も栄養管理を取り入れて、治療に備えてください。

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート11月 掲載記事更新!