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術前のスコア評価により術後合併症や全生存率の予測も可能に 進行胃がんに対するグラスゴー予後スコアが予後予測に有用

監修●大島 貴 神奈川県立がんセンター消化器外科胃食道主任部長
取材・文●柄川昭彦
発行:2020年8月
更新:2020年8月

  

「術前のグラスゴース予後スコアによる予後予測,手術合併症予測によって、より早期から支持栄養療法の介入を行ったり,術後合併症に備えた手術を行うなどの個別化治療を行うことができる可能性がある」と語る大島 貴さん

栄養状態の評価方法であるグラスゴー予後スコア(Glasgow Prognostic Score:GPS)は、非小細胞肺がんをはじめ、乳がんや腎細胞がんなどの予後予測因子であることが知られている。

神奈川県立がんセンター消化器外科で進行胃がんの手術を受けた患者を対象に、術前GPSと予後との関係を調べたところ、術前GPSは術後の術後合併症や生存率の予測因子であることが明らかになった。同外科胃食道主任部長の大島貴さんにその内容について伺った。

<グラスゴー予後スコアとは>
手術前の栄養評価が予後に関与

がんの治療においては、患者の栄養状態が、治療成績や合併症の発症に関係することがある。神奈川県立がんセンター消化器外科胃食道主任部長の大島貴さんによれば、近年、進行胃がんの患者において、手術前の栄養評価が予後に関わっているという報告がなされているという。

栄養状態がよい患者は予後がよく、栄養状態に問題がある患者は予後不良の可能性が高くなる、ということである。

栄養状態の評価法について、大島さんは次のように説明する。

「患者さんの栄養状態の評価方法はいくつかありますが、いずれの栄養評価方法も、血清栄養指標、炎症反応指標、血液細胞成分の組み合わせによるものです。そしてそれぞれが、がんの患者さんの予後予測因子としての有用性が報告されています」

血液検査のCRP値とAlb値を組み合わせた指標

そうした多くの栄養評価方法の中で、大島さんらが注目したのは、「グラスゴー予後スコア(Glasgow Prognostic Score)」であった。略してGPSと呼ばれる。まず、この栄養状態の評価方法について説明してもらった。

「GPSは、血液検査で得られる血清反応性タンパク(C-reactive protein:CRP)の値と血清アルブミン(Alb)の値を組み合わせた栄養評価の指標です。CRPもAlbも一般的な血液検査で調べられる検査項目です。

2003年に英グラスゴー大学のMcMillan氏らが、CPRのカットオフ値を3.5g/dl、Albのカットオフ値を1.0mg/dlとして、患者さんの検査結果を点数化して評価する方法を開発しました。そして、その値が、非小細胞肺がんの予後を予測する因子となることを報告したのです」

CRPとAlbの値と、GPSの評価を示したのが表1である。

その後の研究において、GPSは非小細胞肺がんだけでなく、乳がん、腎細胞がんなどのがんにおいても、予後予測因子になることが報告されてきた。日本ではカットオフ値を一部改変したmodified GPSも考案され、大腸がんの予後予測因子としての有用性が報告されているという。

さらに、GPSは予後予測因子として有用なだけでなく、手術後に起こる合併症の予測因子としても有用であると報告されている。

<がん悪液質>
進行胃がんの患者の20~30%はがん悪液質で死亡

GPSは、炎症反応指標であるCRPと、血清栄養指標であるAlbを組み合わせて評価する栄養評価方法である。だが、どうしてこのスコアが、進行胃がんの患者の予後や術後合併症を予測する、重要な指標となり得るのだろうか。

「胃がんの患者さんの栄養状態に目を向けると、第一の指標となるのは体重の減少です。栄養状態が悪ければ、当然、体重は減少してきます。実際に進行胃がんの患者さんでは、診断がついたときには、すでにその約半数の人で体重減少が認められています。

そして、ここでさらに重要なのは、進行胃がんの患者さんの直接的な死亡原因の20~30%は、胃がんそのものではなく、〝がん悪液質〟によるものだということです。

がん悪液質というのは、体重減少が起きたり、栄養状態が不良となったりする状態のことです。それが直接的な原因となって死亡する人がいるくらい、進行胃がんの患者さんの予後には、栄養状態が大きな影響を及ぼしているのです」

体重減少の原因は大きく2つに分類される

大島さんによれば、胃がん患者の体重減少の原因は、大きく「がん関連体重減少」と「がん誘導体重減少」に分けられるという。簡単に説明すると次のようになる。

がん関連体重減少とは、胃がんが存在することによる食欲低下、疼痛などによる食事摂取量の減少、消化管の通過障害、治療の副作用による食事摂取量の減少などによって起こる体重減少のことである。

一方、がん誘導体重減少は、がん組織や免疫細胞が作り出す物質が関与している。がん組織そのものや、がん組織に感作されたリンパ球が産生する複数の炎症性サイトカインが関係しており、がん組織から血中に放出されるタンパク分解誘導因子なども関係している。これらによって引き起こされるのが、がん誘導体重減少である。

「このがん誘導体重減少が、〝がん悪液質〟と呼ばれているものです。この状態になると、通常の栄養管理では体重を増やすことが困難になってしまいます。それががん悪液質の大きな特徴です」

炎症性サイトカインが増加し、タンパク質合成を抑制

そして、このがん悪液質をよく反映しているのが、GPSを構成している2つの検査値、CRPとAlbなのだという。

「CRPは、炎症性サイトカインが肝臓に働きかけて産生させるタンパク質です。そのため、胃がんが進行し、がん細胞の量が増えると、がん細胞自体やがん細胞に感作されたリンパ球が産生する炎症性サイトカインが血液中で増加します。

その結果、CRPの値は上昇することになります。炎症性サイトカインは、筋肉組織におけるタンパク質合成を抑制し、タンパク質の崩壊を促進させる働きもします。さらに、血液中のものを含めた全身のタンパク質の崩壊を促進し、タンパク質合成も抑制するため、Albの値は低下してしまうのです」

つまり、胃がんが進行し、がん悪液質が起きてくると、CRPは上昇し、Albは低下することになる。それがGPSの評価に反映されることになるわけだ。

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