直腸がんの術前化学放射線療法。効果は?

回答者:大矢 雅敏
獨協医科大学越谷病院 外科主任教授
発行:2013年1月
更新:2014年1月

  

3cmの直腸がんが見つかりました。検査画像から漿膜下層までのがんと思われると言われています。手術を勧められていますが、術前化学放射線療法というものがあり、術後の再発率が低くなる可能性があるとインターネットで知りました。この治療はどのような場合に行われるのでしょうか。メリット・デメリットを教えてください。

(神奈川県 男性 56歳)

A 局所再発を防ぐ効果がある

欧米では、肛門に近いところにある直腸がんに対して、術前の化学放射線療法が標準治療として行われています。この治療法によって、手術によるがん切除後の局所再発(もともとの病巣があった部位の付近での再発)が抑えられることが、統計的に証明されています。日本でも次第に、術前化学放射線療法を行う施設が多くなってきています。

この治療法の対象となるのは、日本では下部直腸(肛門診で触れる場所にあるもの)の進行がんです。ただし、局所の再発予防を目的にした治療なので、すでに肝臓や肺などに遠隔転移がある場合には、一般には行われておりません。また、リンパ節転移があったとしても、放射線があたる範囲にあるリンパ節への転移に限り、この治療の対象になります。

術前化学放射線療法が効果を発揮した場合には、肛門を温存する手術が行える可能性が高くなります。ただし、術前に化学放射線療法を受けたうえで肛門温存手術を行ったとしても、術後の肛門の機能はかなり損なわれます。これは、放射線によって骨盤内の筋肉などがダメージを受けるためで、現状では、排便訓練を積極的に行っても排便機能は改善しにくいとされています。

また、日本の直腸がん手術では、側方リンパ節郭清という、側方リンパ節を切除する術式を加えることで、局所再発を抑えるのが一般的です。したがって、側方リンパ節郭清を行えるのであれば、術前化学放射線療法をしないという選択もあります。ただし、側方リンパ節を切除すると、排便機能は障害されないものの、排尿機能や性機能が障害される場合があります。

ですから、例えば、若い人で永久人工肛門は覚悟しても、性機能は残したいという人に対しては、術前化学放射線療法はお勧めです。ただし、放射線治療には、排便機能以外にも、晩期障害という放射線による後遺症が遅れて出ることがあります。これらの後遺症を回避する選択として、現在は、放射線を併用しないで化学療法のみを術前に行い、再発予防と肝転移・肺転移などの遠隔転移予防を目指す方法も注目されています。

ご相談の方の場合は、進行がんでも3㎝の小さいがんですから、手術単独の治療で完治できる可能性も比較的高いので、術前化学放射線療法は強くはお勧めしません。

もしくは、再発転移のリスクをできるだけ下げたいという場合には、術前に化学療法を行ったうえで、手術をする方法もあります。化学療法が有効であれば肛門を温存できる可能性も高くなりますので、検討されてはいかがでしょうか。

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