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類上皮血管内皮腫 CT検査
骨髄の黒さの濃淡でがんを見分ける
もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断
患者プロフィール
46歳の女性Tさん。右の上腕部から鎖骨付近にかけて痛みがあり、挙手をするときに痛みが増した。しばらく様子をみたが、良くなる気配はなく、近くの整形外科を受診。エックス線検査で鎖骨に腫瘍が見つかった。国立がん研究センターを紹介され、CT検査とMRI検査、さらに病理検査によって類上皮血管内皮腫とわかり、手術を受けた。
隣接する臓器へ浸潤の可能性
Tさんの右肩に見つかった類上皮血管内皮腫は珍しいがんで、広義では軟部腫瘍に分類されます。軟部腫瘍とは、軟らかい組織にできる腫瘍という意味で、内臓や中枢神経、リンパ節、骨髄などを除く皮下組織、筋肉、腱、滑膜などにできます。
「類上皮血管内皮腫は、血管の内側の内皮細胞にできるがんで、部位としては肺や肝臓、脾臓、脳、骨、軟部組織などに発生します。Tさんのように鎖骨にできる例はまれといっていいでしょう。悪性度は血管肉腫ほどではなく、中間程度といわれています」(森山さん)
がんの悪性度とは、発育速度や周囲の臓器・組織を侵す浸潤、また、遠く離れた臓器や組織への転移・再発を起こす度合いのことです。Tさんの場合、発見時に腫瘍が大きく、浸潤、転移が心配されましたが、幸い転移は画像検査では認められませんでした。しかし、浸潤は軽度ではなく、隣接する臓器への浸潤が懸念される状態でした。
骨形成で右鎖骨が大きくなった
CT検査画像に写し出された類上皮血管内皮腫
まずCT画像をご覧ください。通常よく見る体を輪切りにした横断写真ではなく、縦切りにした写真です。矢印で囲まれているのが腫瘍。腫瘍の輪郭の内側に楕円状に白く写っているのが右鎖骨です(検査画像は見る人にとって左右が逆)。
「鎖骨の中に黒い部分がたくさんありますが、これは骨ががんによって侵されて破壊され、画像上は虫食い状態になって見えるのです」(森山さん)
CT画像上で右鎖骨の右側に位置するのが左鎖骨。
「左鎖骨に比べ右鎖骨がずいぶん大きいのですが、これは右鎖骨の破壊が進むと同時に、あたかも失われた分を継ぎ足すかのように、骨化といって新しい骨が次々と形成されるからです。骨破壊と骨形成は、骨ががんに侵されるときに見られる典型的な所見です」(森山さん)
骨破壊と骨形成が進むにつれ、骨の強度は失われていき、やがて、ちょっとした衝撃で折れてしまうようになります。骨折の痛みをきっかけに受診して、がんが発見されることもあるそうです。
骨の中に写っている黒い部分の色にも、がんを見分ける違いがあるようです。一見すると、さほど差はないようにも見えます。
「左鎖骨の黒い部分は骨髄ですが、反対側の右鎖骨の黒い部分はほとんどががんです。それを見分けるポイントは黒さの濃淡。左鎖骨では黒さがほぼ均等で、健常な組織であることがわかります。一方、がんの場合は黒さが均一でなく、部位によって濃淡がはっきりしています。このモザイク状の濃淡が集まって形成される腫瘍像は、がんに顕著な所見です」(森山さん)
血管への浸潤は表面的
Tさんのケースで心配されたのは隣接する大きな動脈や静脈へのがんの浸潤。この検査写真とは別の検査写真で、ぎりぎりのところまで、がんが及んでいるのがわかりました。
「その写真では浸潤が血管に及んでいるようにも見えるのですが、複数の写真を組み合わせてみたところ、浸潤していても表面的である可能性が強いことがわかりました。そこで、治療方針は手術に決定したのです」(森山さん)
そうはいっても、手術は簡単ではなかったそうです。血管表面に及んでいるがんを剥がして、残らず取らなければならなかったからです。ひとつ間違えば、大出血が起こるリスクがあり、限られた施設でのみ施行可能という難度の高い手術でした。
取り除かれた鎖骨のあとには、他の部位から取った骨を移植する再建が行われました。手術から1年経過しますが、再発・転移は認められず、Tさんは元気に暮らしているそうです。
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