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卵巣がん(境界悪性腫瘍)CT検査
卵巣や充実成分の大きさを良性・悪性判別の目安にする
もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断
患者プロフィール
76歳のUさん。腹部の膨満感がとれず、近くの病院の婦人科にて受診。超音波検査で、卵巣腫瘍があることが判明。国立がん研究センターを紹介され、CT検査を行ったところ、右卵巣に10センチ大の腫瘍が見つかった。卵巣がんの疑いもあるということで、診断を兼ねた開腹手術が行われ、組織を取って顕微鏡でがん細胞の有無を調べる病理検査を行ったところ、境界悪性腫瘍であることがわかり、左右の卵巣や子宮などを摘出する手術を受けた
良性か悪性を見極める針生検はご法度
Uさんは最初に受診した病院で、症状やその経過をたずねられた後、その場で画像検査の一種、超音波検査を受けました。腹部にゼリー状のクリームを塗って、超音波を発射する端子をあてると、ただちにお腹の中の臓器や組織の像がモニターに映し出されます。
端子を動かしていくと、腹部全体のようすが見られます。入院の必要はなく、外来で行える簡便な検査で、痛みはまったくありません。
「臓器の腫れ、出血、腫瘍などがあれば、その規模やようすがわかります。簡便で患者さんの身体的な負担がほとんどないので、消化器領域や婦人科領域などでは腹腔内・骨盤内の異常を見つけるスクリーニング検査(拾い上げ検査)として、よく用いられます」(森山さん)
この検査で、Uさんの右卵巣に大きな腫瘍があることが判明しました。卵巣は腫瘍の宝庫と呼ばれるくらい、腫瘍ができやすい臓器ですが、良性腫瘍であることも多く、悪性腫瘍(がん)との区別が必要です。
その区別は、お腹の外から腫瘍を目がけて針を刺して組織や細胞を採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を見る生検をすれば確実にわかるのですが、卵巣腫瘍の検査では通常生検は行いません。
「卵巣腫瘍の中にはしばしば風船のように大きくふくらんでいて、中は液体や粘液で満たされているものがあります。仮に腫瘍が悪性(がん)であれば、液体にはがん細胞が浮遊しているから、針を刺して風船が破れると、液体が腹腔内にはじけ飛んでがん細胞がばら撒かれる危険性があります。それを防ぐことがあって基本的には生検は行わないのです」(森山さん)
また卵巣は体の奥深くにあるので、針を刺して組織を採取する検査は、乳がんの場合と比較しても、患者さんの身体的負担は大きくなります。
このことも、卵巣腫瘍の検査で針生検をしない理由となっています。
風船の大部分を占める淡いグレー色が充実成分
CT検査画像に映し出された卵巣がん(矢印ががん)
Uさんは、国立がん研究センターで画像検査のCT(コンピューター断層撮影装置)検査を受けました。前述したように卵巣がんでは中に液体を持った袋状ののう胞性腫瘍が少なくないのですが、写真がそのCT画像です。検査画像は左右が逆になるので、向かって左が体の右側になります。
まず目につくのが左右の卵巣の大きさが極端に違うことです。
「画像では右側になる小さいほうの左卵巣にやはり袋状ののう胞腫瘍ができているのですが、袋の中に何か成分が入っているようすはありません。このようなのう胞腫瘍はほとんどが良性腫瘍で、悪性ではないという推測が成り立ちます」(森山さん)
一方、向かって左側の右卵巣は、大きく膨らんでいます。
「大きさは10センチほどで、袋の中が何かの成分に満たされているのがわかります。袋の外側、輪郭に沿って黒っぽい影が存在していますが、それはねばねばとした粘液です。それより内側にやや淡いグレー色の成分があって、風船の大部分を占めていますが、これが充実成分と呼ばれるものです。画像所見上では、この充実成分が多くなるほど、がんの疑いが強くなるとされています」(森山さん)
がんかどうかの確定診断には手術が必要
ただこの場合、CT画像のみで、腫瘍が良性か悪性かを見極めるのは困難なのだそうです。充実成分の多さなど、状況証拠としては悪性の可能性が強いのですが、100パーセントの決め手にはなりません。
そこで、卵巣腫瘍の診断は診断と治療を兼ねた開腹手術が行われます。
「お腹を開ける手術をして、卵巣などの組織を取って、病理検査に回し、顕微鏡でがん細胞の有無を調べます。30分前後で結果が判明し、良性であれば手術は終了しますが、Uさんの腫瘍は悪性と良性の中間である境界悪性腫瘍であることがわかりました。良性と悪性の中間と言っても、専門的には低悪性度腫瘍として分類されますので、治療は悪性の場合に準じて卵巣などの切除が基本です」(森山さん)
Uさんは左右の卵巣と卵管、そしてがんが広がっている可能性のある子宮およびリンパ節の一部を切除しました。術後3年が経ちますが、再発は起こっていません。
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