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肺がん(高分化型腺がん)/胸部エックス線検査&CT検査
人体解剖図をもとに、影の形、濃淡、混じり方などを見て判断する
もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断
患者プロフィール
66歳の女性Qさん。6カ月前に咳が止まらず、近所の病院に受診。カゼにかかったと思っていたが、2カ月経ってもいっこうに軽快しないので、家族が病院へ行くように勧めた。検査の結果、肺がんの疑いがあるとして国立がん研究センターを紹介され、再検査で、左肺の上葉(上のほう)に早期がんが発見された
まぎらわしい影の見分け方
Qさんが、近所の病院で最初に受けた検査は、胸部エックス線検査です。肺がん検診でお馴染みの検査ですが、精密検査で使われるのは写真のサイズが大きく、病変の検出力がよりすぐれている直接撮影という方法での撮影となります。エックス線検査は、臓器や組織を透過するエックス線の透過度を濃淡で示し、フィルムに焼き付ける検査です。
「空気に満ちている正常な気管支や肺胞は、黒く写ります。それに対し、病変=腫瘍は白い影となって描出されます。白い影は、がんの容積によって濃い場合、淡くて透き通るように見える場合もあります」(森山さん)
この説明については、肺がんの検診で検査画像を見ながら医師の説明を受けたことのある人であればよく理解できると思います。さて、そうするとQさんの検査写真(下)の向かって右側(左肺)の中央付近に見える大きな白いかたまりが気になります。これは、がんでしょうか? 答えはノーです。森山さんによるとこの影は肺動脈の影なのだそうです。動脈が見る者に対して垂直に手前に向かっている、あるいは反対側に向かっていると、このように白い点となって写るのだといいます。そういえば、その他の場所にも同じような白い点がいくつもあります。そのほとんどが、血管なのだそうです。
高分化型腺がんのエックス線写真
影の位置も重要な情報
それでは何故この影ががんではなく、血管の影だとわかるのでしょうか。いくつかポイントがあるのですが、まず第1は読影を担当する医師の頭の中に、骨や血管を含めた解剖図がちゃんと入っていることだといいます。それらの影はがんとまぎらわしい場合が多々あり、峻別することが重要です。ですが血管や骨の位置がわかっていれば、白い影の位置でマークすべき影かどうか、瞬時に判断できるのだそうです。
「当該の白い影をよく見ると、中央付近が黒く抜けています。この部分には気管支があって空気が満たされているから黒く写ります。このように、頭に入っている解剖図と影の形やその濃淡、混じり方などを見て、合わせて判断します」(森山さん)
さて、そうするとがんはどこに存在するのでしょうか? 左肺の上葉(上部)だということは確かなのですが……。1番上の肋骨の脊椎の付け根付近にボール状の淡い影があるのがわかるでしょうか? 大動脈弓のすぐ上の位置です。これも素人目にはがんと間違いやすい影なのですが、違うのだそうです。
「この写真は背面側から撮っているのですが、ボール状の淡い影は、胸の側の肋骨が急カーブして手前に向かっているからこのように写るのです。これも解剖図が頭に入っていればすぐに峻別できます」(森山さん)
結局、このエックス線写真では、疑わしい病変は発見できなかったのだそうです。しかし、咳がとれないという症状があること、家族が詳しい検査を強く希望したことがあって、次にCTを撮ることになりました。
がんの端(辺縁)は淡い影になって見えることも
CT写真をご覧ください。
下図の矢印で示してあるのががんです。この写真でもがんは白く写っています。大きさは1cmほどです。他にも白い点が随所に見えますが、それらと見分けるポイントはどこにあるのでしょうか。
「他の白い点はやはり血管の影で、くっきりとした輪郭を持っているのに対し、がんの場合は輪郭が不整です。見ようによっては星のようにギザギザとしています。これが大きな特徴です」(森山さん)
もう1つ、見分け方の大きなポイントがあります。
「点の周囲に淡い影というか、ぼやけたような影があります。星にかかったガス雲のようでもあります。これは増殖を繰り返しているがんの端(辺縁)のほうで内部にはまだ空気を含んでいる状態のため、このように淡い白い影になって見えるのです。これもがんの影によくある特徴です」(森山さん)
何枚も撮ったCT画像のなかでこの写真が決め手となり、診断となりました。Qさんは幸い早期がんで、手術を受けて治癒し、元気に暮らしています。
高分化型腺がんのCT写真
矢印で「病変」と示してあるのががん
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