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大腸がん・仮想内視鏡検査
隆起や凹みなどの立体的な形状変化に着目する
もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断
患者プロフィール
52歳の女性Hさん。10年前に子宮頸がんに罹患したが、放射線治療にて治癒。半年前、腹部に不快感を感じ、複数の検査を行い、がんの可能性が指摘された。国立がん研究センターにて仮想内視鏡による検査をして、大腸(上行結腸)にがんの存在が確認された
CT検査情報から3D画像を作成
大腸がんの疑いが指摘されたとき、がんの有無を確認する検査(存在診断)としては、多くの場合、内視鏡検査を行います。
Hさんはこの内視鏡検査を受けることができませんでした。子宮頸がんの治療の影響で、腸の一部に癒着が生じており、がんの疑いのある箇所まで内視鏡を挿入できなかったからです。そこで国立がん研究センターにて、「仮想内視鏡検査」という検査を受けました。
仮想内視鏡は、内視鏡という名前はついてはいますが、最新の内視鏡検査機器ではありません。
「大腸をターゲットとしたCT(コンピュータ断層撮影)検査で得られた情報を、コンピュータで処理して立体的な画像、いわゆる3D画像をつくるのですが、内視鏡モードにすれば、内視鏡で覗いているような画像にすることができます。その画像は『バーチャルな画像=仮想の画像』であることから、バーチャル内視鏡あるいは仮想内視鏡という俗称でも呼ばれますが、実際はCTコロノグラフィといいます。現在は、主にHさんのように腸に癒着があるような場合、あるいは内視鏡検査の苦痛に耐えられないといった人を対象に用いられています」(森山さん)
パソコンに取り込まれたその画像を見ると、あたかも内視鏡の先端が大腸内腔を進んでいく感じの映像が映し出されます。画像の質感は、初期のコンピュータグラフィックに似ていて、大腸内はピンク色に着色してあります。
大腸の湾曲や大腸内にたくさんある襞の感じは実にリアルで、まるでアニメの主人公になって、大腸内腔を超低空飛行で観察するような感覚になります。
検査の撮影自体は10数秒で終了します。読影は約20秒で大腸の末端に到達。今度は折り返しの画像、つまり内視鏡を引き抜くときの映像になります。
「途中、気になる箇所があったら何度でもそこに戻り、隈なく観察できます。視点やそのアングルも自由に設定できます」(森山さん)
通常の内視鏡が苦手な病変を捉えることもある
「仮想内視鏡」検査で発見されたHさんの大腸がん
「仮想内視鏡」検査で読影中の大腸内における位置
この検査で、Hさんは大腸(上行結腸)にがんが見つかりました。
仮想内視鏡でがんを見つける場合、実際の内視鏡と違い、粘膜の色の変化を手がかりとすることはできません。大腸粘膜のピンクの色は人為的につくった色で、現実のものではないからです。では、どのようにしてがんを見つけるのでしょうか?
「仮想内視鏡では形状の変化を見ます。腫瘍が形成されると周囲の正常組織と違う形の変化が現れるのですが、それを見ます。この点はCTやMRI(核磁気共鳴映像法)、レントゲンと変わりはないのですが、それらの検査画像は平面情報であるのに対し、仮想内視鏡は立体的であることが決定的に違います。隆起している様子や凹んでいる様子がよく表現されるので、そこに着目するのです。Hさんのがんは出っ張りを主体とした隆起型のがんですが、画像では立ち上がりの急な隆起がよく表れています」(森山さん)
大腸がんの存在診断としての仮想内視鏡の意義は、通常の内視鏡のような苦痛がないことのほかに、内視鏡検査で見つけにくいがんを見つけることができるという点にもあります。
「大腸内視鏡は大腸が大きく湾曲しているカーブの内側のコーナーや襞の裏側は死角となりやすく、仮にそこにがんが存在すれば見逃しかねません。その点、仮想内視鏡は視点やアングルを自由に変えられるので、そういったがんでも見つけることができます。また、このとき撮影されたCT画像を通常のCTとして用いれば1度の検査で腹部なら腹部の広範な臓器の検査ができる点もメリットの1つです」(森山さん)
仮想内視鏡には、デメリットもあります。通常の内視鏡は即座にがんを見つけることができますが、仮想内視鏡で大腸を隈なく見るには画像を処理する時間が必要で、読影も数10分を要することもあります。また異常のある箇所に気付き、その形状の変化をがんの特徴であると見つけるには、一定のトレーニングが必要だそうです。まだ発展途上の検査機器であり、目下の適応はHさんのように、通常の内視鏡検査を受けることができない人が主となっています。
なお仮想内視鏡のターゲットとなるのは、消化管では主に大腸や胃、食道です。胃の検査では事前に発泡散という炭酸ガスを発生する粉を飲みます。大腸では肛門から空気を入れて造影剤の代わりにします。
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