もりやま　のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断

患者プロフィール
52歳の男性。腹部の断続的な不定愁訴を感じ、受診をしたところ、胃がんが発見される。粘膜を越えて深く浸潤していたため、国立がん研究センターへ。遠くの臓器への転移の有無を確認するために、PETで検査をしたところ、腹膜、肺、鎖骨窩リンパ節などに転移が見つかり、手術をせずに全身化学療法をするという治療方針が決まった

新陳代謝の活発ながん細胞の性質を利用

PETは、新陳代謝が盛んなところがFDGを取り込み、それが光って見える

PETはポジトロン・エミッション・トモグラフィの頭文字を取った名称です。素人目にはCTやMRIとさほど変わらない外観なのですが、CTやMRIが臓器や器官の形の変化を見るのに対し、PETはその機能の様子を図柄化して見る装置で、狙いがまったく違います。

これをがんの発見という点にフォーカスして話をします。CT、MRIはがんが増殖して周辺の臓器や器官を侵食していく様子を形の変化として捉えます。

「一方PETはがん細胞が正常細胞よりずっと新陳代謝が盛んであることを利用して、その違いを捉えるのです」（森山さん）

検査では全身の細胞のエネルギー源であるブドウ糖に似た物質FDGを使います。

これを静脈注射して1時間ほど待機。この間に、がんは旺盛にFDGを取り込みます。周囲の正常細胞より数倍から数10倍の量です。そこを見計らって、全身をスキャン。FDGがどこにどの程度集まっているかを見るのです。

その様子は人体の立体図に光るように（あるいは黒い点の集積として）写ります。骨転移を調べる骨シンチグラフィも同様の仕組みで、全身の骨格図の当該箇所に黒い点が集まります。PETはその集積が肺であったり卵巣であったりで、ほぼ同様のイメージです。

ただPETは色を付けて強調することができます。装置によってカラーは違うかもしれませんが、症例写真を例にとると、もっとも集積度の高いところが赤、以下オレンジ、黄となって集積の低いところは緑、青というように寒色系になります。ワンタッチでこのカラー画面に切り換えることができます。

「暖色系の色が濃いほどがん細胞の存在の可能性が高く、寒色系であれば低いということになります」（森山さん）

今回の症例の男性は、原発である胃はもちろん、腹膜、鎖骨窩リンパ節、肺などで光っており、転移の広がりが一目瞭然でした。ただ、PETは位置情報が弱いところがあり、これを補うためにCTと組み合わせて使うことが多くなりました。

「たとえばノドの下の部分が赤くなったとします。それが甲状腺の中であれば甲状腺がんが、外であればリンパ節転移などが疑われます。そこがPETによる画像ではわかりにくい。そういう場合はPET／CTを使うとはっきりします」（森山さん）

このPET／CTについては後ほど詳しく紹介します。

発見しづらいタイプのがんも

PET／CTで見た胃がんの症例

左の鎖骨窩へのリンパ節転移（PET／CT）

PET画像に話を戻します。では赤はともかく、黄色や黄緑は、がんの存在が疑われるのかどうか？

「新陳代謝は個人差や臓器による差がありますので、どちらとも判断がつかない場合があります。そういうときはCTやMRIなど他の検査でそこを撮影し、調べていくのです」（森山さん）

このようにPETによる画像の見方は単純明快ですが、その使い方には、一部誤解があるようで、その点に触れておきます。

早期がんを見つけるためのPET検診の募集広告を見かけますが、これを受けてがんが見つからなかったので安心かというと必ずしもそうではないのです。

「全身を1回でくまなくチェックできる点は他の画像検査にない長所です。とくに再発転移の有無を調べるには有用です。
ただFDGを使用するPETでは新陳代謝が盛んでないがんや、超早期のがんを見つけにくいという短所があります。前立腺がんは総じて見つけにくいし、胃がん、その他のがんでも新陳代謝が旺盛でないタイプもある。そういった点を理解したうえで、PET検査は受けるべきでしょう」（森山さん）