仕事をしながら療養する
パウチ洗浄機「パウチクリーン」の事業化がライフワークです

取材・文:菊池憲一 社会保険労務士
発行:2008年10月
更新:2013年4月

  
川村正司さん 川藤社長の
川村正司さん

有限会社川藤・代表取締役社長の川村正司さん(現在61歳)は、53歳のときに、S状結腸がんで手術を受けた。手術後は人工肛門を造設。会社復帰後に、さまざまな福祉サービスを得ながら、自宅療養中に考案したパウチ洗浄機「パウチクリーン」の改良を重ね、自宅や公共施設で楽に使える洗浄機を製造・販売した。患者団体の日本オストミー協会の活動にも、取り組んでいる。

00年、肛門近くが痛くなり、肛門科を受診

川村さんは、両親が経営していた川藤金物に83年に入社、90年に法人化し、管工機材総合卸商社の有限会社川藤を設立。98年に社長に就任、地元の岩手県盛岡市内を中心に事業を展開し、従業員は約8名。51歳頃から便に血が混じり出した。「痔かな?」と思っていた。00年、肛門近くが痛くなった。肛門科のある病院で診てもらったところ、近くの大学病院を紹介された。大学病院で「直腸がんです。すぐに手術が必要です。手術後は人工肛門になります」と言われた。その瞬間、川村さんは、目の前が真っ白になったという。社会復帰は不可能だと思った。「会社の経営をどうしたらよいのか? 私がいなくなっても会社は継続していけるだろうか?」と、川村さんは苦しんだ。しばらくしてから担当医に、「1カ月間、時間をください」と頼み込んだ。

川村さんは、告知を受けた翌日から「入院後の社会復帰はできない。会社を継続させるための組織づくり」を目標に、仕事に取り組んだ。社員には正直に病気のことを伝えた。ただし、混乱を避けるために、社外には病気のことは知らせなかった。そして、40歳代の社員を中心に、社内の新しい組織づくりを始めた。

00年9月末、52歳のときに入院。10月にS状結腸がんの手術を受けた。手術で腫瘍を切除したあと、左腹部に腸の先端が顔を出し、直径3センチほどのストーマ(人工肛門)が造設された。ストーマにかぶせて排泄物をためる蓄便袋(パウチ)を必要とする生活が始まった。手術後、自分の力で尿が出せないことに苦しんだ。また、排便に慣れるのにも苦しんだ。パウチから便が漏れて大変な思いもした。人工肛門では、パウチにためる自然排便法と、腸の中の便を洗い出す洗腸法の2つがある。自然排便法は、パウチにたまった便をトイレに出し、パウチを洗って使用する。パウチは時々、取り替える。洗腸法は、腸の中の便を出す浣腸で2時間ほどかかる。手術後、川村さんは、2つの方法を覚えた。幸い、入院中、会社の経営は順調だった。

楽に使えて安価なパウチ洗浄機の事業化へ

00年12月中旬に退院した。01年1月中旬まで、自宅療養をした。人工肛門・人口膀胱造設者(オストメイト)は、常にパウチを身につける必要がある。たまった便をトイレで捨てたあとは、身体につけたパウチをトイレに近づけて洗う。そのとき、一般のトイレを使用するのに大変な苦労が強いられる。管工機材に精通した川村さんは、300円のホースを使って自宅の水洗トイレのタンクから水を流すように工夫した。パウチがきれいに洗えて、手も汚れなかった。この体験から水洗トイレの改善を事業化できないかと考え始めた。01年1月中旬、幸い、川村さんは、会社に復帰できた。ゆっくりとマイペースで、仕事を始めた。社長業は復帰前の3分の1以下に減らし、新しい組織に任せた。そして、新しい事業として、オストメイトが自宅や公共施設の水洗トイレで、楽に使える安価なパウチ洗浄機「パウチクリーン」の事業化に取り組んだ。また、オストメイトの1人として、福祉サービスを受けるために、窓口で説明を聞いて、必要な事務手続きを行った。

市の福祉事務所では、オストメイトへのさまざまな福祉サービスの説明を受けた。川村さん自身は身体障害者4級に認定されて、JR・私鉄運賃、国内航空運賃、有料道路通行料金、バス料金、タクシー料金、美術館・博物館などの入場料金が無料または割引されることになった。ストーマ装具、ストーマ用品、洗腸用具の使用による給付もある。

社会保険事務所では、障害年金について説明を受け、人工肛門を造設したときは、障害年金が認定されることを知った。窓口で相談しながら必要な手続きを行った。「さまざまな福祉サービスを利用するのは恥ではありません。ありがたい制度として、実際に利用することが大切です」と川村さん。

01年4月、福祉用品店の紹介で、患者団体の社団法人日本オストミー協会岩手県支部の会合に顔を出して、体験談に耳を傾けた。02年6月に滋賀県で行われた全国大会にも参加した。多数の元気なオストメイトの姿を見て、勇気づけられた。自分の足で歩いて、目で見て、聞いているうちに、「パウチクリーンの開発、販売を通して、オストメイトに役立つことをライフワークにしよう」と思った。

オストメイトの存在を世間に知らせることに尽力したい

会社復帰後、川村さんは、療養中に自宅で考案した手作り洗浄機の改良を重ねた。

そして、04年1月、家庭用パウチクリーン1号機を製造し、発売した。価格は10万円、設置費用は全国一律1万円(交通費込)。全国各県内に工事店網を整備した。05年には日本オストミー協会岩手県支部の事務局長として、駅や高速道路などの公共トイレに、オストメイト対応のトイレを設置する全国的な活動を始めた。08年7月、大阪のオストメイトと一緒に、大阪市役所交通局の担当者に面談し、地下鉄構内での設置を勧めた。

「オストメイトになって、視野が広がりました。日本中に、悩みや喜びを共有できる仲間が増えました。現時点で、パウチクリーンは事業として成り立ちません。ただ、企業イメージはアップしました。会社の取引先、問い合わせ先が全国ネットになりました。オストメイトは、他人に知られたくない、世間から隠れて、痛さ、辛さを発信しない場合が多いです。私は、オストメイトの存在を世間に知らせること、その環境整備・生活環境改善のために尽力したいと思います」(川村さん)

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身体障害者手帳による福祉サービス
オストメイトは、医師からの診断書を市町村の窓口に提出して障害認定を受けることで、身体障害者手帳が交付されます。例えば、腸管のストーマ(人工肛門)または尿路変更ストーマ(人工肛門)のみの場合は4級が認定されます。身体障害者手帳を呈示すれば、公共運賃・料金の割引など、さまざまな福祉サービスが得られます


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