再発予防でTC療法を勧められているが
3年前に左乳房に8㎜と7㎜の2個の腫瘍が見つかり、左乳房全摘手術を受けました。リンパ節転移はありませんでした。ホルモン受容体陰性、HER2陰性のトリプルネガティブで術後はEC療法とドセタキセルの治療をそれぞれ4サイクル行いました。ところが今年(2023年)5月、右乳房に8㎜の腫瘍が1個見つかり、乳がんと診断されました。左と同じトリプルネガティブでした。またリンパ節転移はなく左右ともステージ1でした。
昨年10月にBRCA遺伝子検査を受けたところ陽性で、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)と言われていたため、今回右乳房全摘手術と予防的に卵管、卵巣も摘出しました。今後の再発予防のための化学療法についてご教授ください。主治医からはTC療法を勧められています。
(43歳 女性 群馬県)
A TC療法を行うのも誤りではないが
乳腺外科医長の上野貴史さん
トリプルネガティブなら、通常は化学療法を行います。主治医から勧められているTC療法(ドセタキセル+シクロホスファミド)ですが、この療法はこれまでNCCNガイドラインのpreferred regimen(好ましい療法)とされ、リスクの低い場合に世界中で好んで行われていた治療法です。
ただし、今年の(2023年)4月にLancet誌に、医学界で最も権威のあるEBCTCGのメタアナルシス(同一の研究に関する複数の研究を集め統合して解析する統計的手法で、最も信頼度が高い)が発表され、タキサン単独よりアンスラサイクリン系薬剤を加えたほうがよく、また、タキサン系薬剤の総投与量も増やしたほうがよく、TC療法4サイクルの効果が疑問視されるという論文が発表されました。今後、TC療法の使用が減ることが予想されます。
ですから化学療法を行うに場合、TC療法よりもdose dense EC療法(エピルビシン+シクロホスファミド)とパクリタキセル(dd4回 又は12週)を行ったほうが良い結果が得られる可能性があると考えられます。
ただ再発リスクは高くないので、TC療法を行うというのも誤りではありません。BRCA遺伝子変異陽性の場合リムパーザ(同オラパリブ)を1年内服する補助療法もありますが、2cm以上の腫瘤で適応になり、ご相談者には当てはまりません。