術前化学療法後の手術は予後によいか
10月に、右乳頭のしこりに気づきました。それから病院でマンモグラフィ検診などを受けたところ、3センチほどの腫瘍が見つかりました。進行度はステージ2と診断されました。手術で切除は可能とのことです。術前に化学療法を行って、腫瘍を縮小してから手術を行う方法もあるようです。術前化学療法を受けたあとで手術を行う方法は、予後によいといえるのでしょうか。どのようなメリットとデメリットがあるのかについて教えてください。
(滋賀県 女性 45歳)
A 術前化学療法は乳房温存療法を行いやすくする
手術前の化学療法は、乳房温存療法をしやすくする目的で行います。術前化学療法を行うことによって、乳房腫瘍の縮小を得られることが多く、その結果、乳房温存療法がやりやすくなるのです。抗がん剤の効果が具体的にわかるというメリットもあります。
術前化学療法と術後化学療法との有効性を比較した臨床試験が9つあります。とくに、約1500例を対象にした米国のデータと、約700例を対象にしたヨーロッパでの臨床試験が代表的なものです。この2つを含めた臨床試験の結果、術前化学療法と術後化学療法とでは、生存率に差はなく、同等であることが証明されています。ただ、乳房温存術施行率が、術前化学療法後に上昇しており、術前化学療法により、乳房切除を免れる症例があることが示されています。
ですから、術前化学療法のメリットは、乳房温存療法をやりやすくできるということです。
逆に、術前化学療法のデメリットとしては、手術後の病理検査での予後因子がわかりにくくなるということと、化学療法の過剰適応が生じることがあります。もともと手術後の化学療法を予定している患者さんに対して、手術前に化学療法を行う場合には問題ありませんが、ホルモン剤だけでも充分と思われる症例にまで化学療法を行うという過剰治療の問題があります。
手術後の病理検査では、腋窩リンパ節転移の個数とか、がんが周囲の血管あるいはリンパ管に浸潤しているかどうかなどを調べます。
術前化学療法後に手術をする場合、化学療法による修飾が加わり、予後因子がわかりにくくなるということがあります。
術前化学療法を行うかどうかは、しこりの大きさとか場所などによって決めます。最初から乳房温存療法が問題なくできるようでしたら、必ずしも手術前に化学療法を行う必要はないでしょう。