腫瘍が肛門から2センチに。放射線照射後に手術は可能?

回答者:吉田 和彦
東京慈恵会医科大学青戸病院 副院長
発行:2008年5月
更新:2013年12月

  

66歳の母が直腸がんと診断されました。腫瘍は肛門から2センチほどの場所にあるとのことです。できれば、人工肛門ではなく、肛門を温存できる手術を選びたいと思います。主治医からは「再発のリスクなどを考えると、人工肛門にする手術のほうがよいのではないでしょうか」と言われています。ネットなどで調べてみると、手術前に放射線照射をして小さくしてから手術をする方法もあるようです。こうした手術なら、再発リスクは少なくなるのでしょうか。また、母のような直腸がんでは、手術後に、放射線と化学療法を併用する治療法もあるようですが、その治療効果についても教えてください。

(兵庫県 女性 38歳)

A 手術前に放射線治療をしても、人工肛門を回避できない

直腸がんの腫瘍が肛門から2センチほどの場所にあるときは、基本的には手術をして人工肛門を装着します。自然の肛門を残すことはしません。

手術前の放射線治療は、欧米では、人工肛門の回避や骨盤内の再発予防を目的に行われていますが、日本ではあまり積極的には取り組まれていません。これは、日本における直腸がんの治療成績が欧米より良好であることも一因となっています。手術前の放射線治療は、照射して腫瘍を小さくして、手術をしやすくするために行います。抗がん剤と併用して行うこともあります。

相談者のように、直腸がんが肛門から2センチにある場合には、残念ながら手術前に放射線治療をしても人工肛門を回避することはできません。その理由は3つあります。放射線照射で腫瘍を小さくしても、肛門からの距離を2センチ以上に伸ばすことができないため、自然肛門を残すことができません。もう1つ、放射線治療の骨盤内の再発予防に関しては、欧米ではその予防効果が認められていますが、日本ではあまりはっきりしていません。さらに、臨床経験上では、手術前に放射線治療を行うと、手術がやりにくくなります。

以上のようなことから、手術前の放射線治療は、症例を選んで行っている施設が多いと思います。

かなり進行した直腸がんで、すぐに切除できないとか、リンパ節などに転移があるときなどには、日本でも手術前の放射線治療(+抗がん剤治療)が行われています。

また、一般的には、手術後の放射線治療は、その効果はあまり期待できません。手術後の化学療法は、結腸がんに準じ、直腸がんのステージ3なら5-FUとロイコボリンを6カ月注射する方法、あるいはUFTとロイコボリン錠の1年間の服用が再発防止に効果のあることが示されています。

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