濾胞性腫瘍の疑い。手術は必要か
病院で超音波検査と細胞診を受けた結果、甲状腺に異常が見つかりました。濾胞性腫瘍の疑いがあるとのことです。肺や骨の異常はありませんでした。甲状腺の濾胞性腫瘍には、良性の濾胞腺腫と、悪性の濾胞がんがあると聞いています。濾胞がんの確証がなくても、手術は受けなくてはいけないのでしょうか。また、手術は、甲状腺全摘術しかないのでしょうか。
(青森県 52歳 女性)
A 手術で腫瘍を切除し、顕微鏡で検査する必要あり
甲状腺がんには、いくつかの種類がありますが、そのほとんどは超音波検査と穿刺吸引細胞診によって、かなり高い精度で診断することができます。しかし、濾胞がんという種類だけは診断が容易ではありません。
「濾胞性腫瘍」というのは良性腫瘍である濾胞腺腫と悪性腫瘍である濾胞がんの両方を含む言葉ですが、この両者を手術せずに正確に区別することはできないのです。
濾胞性腫瘍は、しこりの全体像、とくに縁の部分の状態によって診断されます。顕微鏡的にしこりの縁が被膜(カプセル)に完全に包まれているのが濾胞腺腫です。
一方、被膜が破れていたり、被膜の中の血管内に腫瘍細胞が入り込んでいたりしたら、濾胞がんと診断されます。典型的なものであれば、超音波検査でのしこりの形態などから、濾胞がんを疑うことができますが、厳密には、周囲の正常甲状腺組織とともに切除したしこりの全体像を顕微鏡で調べてみないと、濾胞腺腫か濾胞がんか診断できないわけです。
したがって、種々の検査によって、濾胞がんの可能性が捨てきれない場合、しこりを取り除くとともに、診断も明確にするということで手術を勧めざるを得ないときがあります。
濾胞がんの中には、血行性の遠隔転移を肺や骨などに起こすものがあります。遠隔転移が起こってしまった濾胞がんの患者さんには、甲状腺全摘手術をしたうえで放射性ヨード治療*などを行いますが、なかなか治りにくいです。一方、遠隔転移さえ起こさなければ、濾胞がんはそれほど怖いがんではありません。残念ながら、遠隔転移を起こす濾胞がんと起こさない濾胞がんを厳密に区別する方法にも確実なものはありません。
中には、良性腫瘍との診断で、手術をせずに経過を見ている間に、肺転移や骨転移が出てしまったという不運なケースもあります。ただし、こうしたことの起こる確率は、甲状腺にしこりのある人全体から見れば、きわめてまれですので、あまり神経質になることはありません。
遠隔転移を起こしやすい濾胞がんには、広汎浸潤型といって、被膜の破れが肉眼的にわかるほど激しいものや、低分化型といって、細胞の配列に特徴があるものなど特徴的なものがあります。これらの特徴のある濾胞がんには、初めから甲状腺全摘手術を行って、その後に放射性ヨードによる検査で遠隔転移がないかどうか調べるのが合理的といえます。
一方、手術中の所見まで含めて、良性腫瘍のようにしか見えない濾胞性腫瘍は、最終的に濾胞がんであったとしても、遠隔転移を起こす確率はそれほど高くありません。まずはしこりを含む側の甲状腺半分の切除にとどめ、顕微鏡検査の結果をふまえて、慎重に経過観察を行っていくのが良いと思います。
*放射性ヨード治療=甲状腺のがん細胞にはヨードを取り込む性質があるため、放射線を出すヨードの放射性同位体(アイソトープ)を利用して、がん細胞を攻撃する治療法。甲状腺がんの転移にも有効。