下咽頭がんの機能温存手術は、どの程度声を残せるか
63歳の夫のことで相談です。首のリンパ節が腫れて、近くの内科クリニックで診ていただきました。紹介された病院の耳鼻咽喉科で、組織を取って調べる検査をした結果、下咽頭にがんが見つかりました。リンパ節転移もあるようです。「早めに手術をしたほうがよい」と言われています。首のリンパ節から喉頭まで切除するとのことです。知人から、「声帯を残す機能温存手術もある」と聞きました。この機能温存手術をすれば、どの程度、声を残すことができるのでしょうか。また、すべて切除する場合と比べての治療成績についても教えてください。
(秋田県 女性 61歳)
A 85パーセントほどは、会話も食べることも可能
咽頭の1番下の部分、俗に言う喉仏の後ろあたりにあるのが下咽頭です。
下咽頭がんは、隣接する喉頭に浸潤したり、首のリンパ節に転移を起こした状態で見つかることが多くみられます。
「声帯を残す機能温存手術をしたい」とのことですが、この機能温存手術を行っている施設は、それほど多くはありません。
技術的に難しく、頭頸科(耳鼻咽喉科)の外科医と再建手術を行う形成外科医と、2科の医師が連携して手術を行う必要があるからです。
頭頸科の外科医は、必要最小限の切除範囲で、下咽頭・喉頭の部分切除を行います。切除範囲が小さいと再発の危険性が高くなりますし、切除範囲が大きいと、術後の機能が悪くなります。形成外科医は、切除したところを小腸や腕の皮膚を移植する再建手術を行います。再建手術を含めると、手術時間は6~8時間になります。
下咽頭がんでの喉頭温存手術では、誤嚥が術後問題となることがあります。切除の範囲が広がると、誤嚥が起こりやすくなります。
そのためにも、切除は必要最小限にします。そして、誤嚥をできるだけ少なくするよう工夫した再建手術が必要となります。
以上のようなことから、この機能温存手術を受けるには、この手術で実績のある施設での対応が必要です。内視鏡検査とCT(コンピュータ断層撮影装置)検査で、この手術が可能かどうかはわかります。
適応になるかどうかは、(1)病変の部位と大きさなどの病気の進行具合(2)年齢(3)持病などの合併症があるか、で決まります。
(1)についてですが、原発巣がどの程度進行しているのかはわかりませんが、病期はT2まで、そしてT3の一部が機能温存手術の対象です。下咽頭がんのT2とは、原発腫瘍の最大径が4センチを超えないもので、喉頭の固定がない状態のことです。
(2)の年齢ですが、適応されるのは70歳くらいまでです。
(3)については、心臓や呼吸器系に重い合併症がある場合には、適応は難しいでしょう。相談者は63歳と若いですから、心臓などに持病がなければ、この機能温存手術は受けられると思います。
この機能温存手術を受けた方の85パーセントほどは、会話も食事の経口摂取も可能です。