ホルモン療法との併用で間質性肺炎の悪化が怖い

回答者●上野貴史
板橋中央総合病院乳腺外科医長
発行:2024年8月
更新:2024年8月

  

昨年(2023年)9月、右乳がんと診断されました。腫瘍の大きさは1.7㎝、リンパ節転移はなく、ホルモン受容体、HER2ともに陽性でした。術前化学療法としてハーセプチン、パージェタ、ドセタキセルの3剤併用療法を4コース受けました。その後すぐに手術の予定でしたが、発熱と咳があり、CT検査を受けたところ間質性肺炎と診断され、手術は延期になりました。抗生薬の治療で改善したため、予定より3カ月遅れて右乳房全摘手術を受けました。

術後は、ホルモン療法としてタモキシフェンを始めています。主治医からハーセプチンとの併用を提案されました。しかし、CT検査行なったところまだ間質性肺炎の影が残っていました。そのため、また間質性肺炎が悪化するのが怖くてハーセプチンとの併用を断っていますが、再発の可能性に影響はあるのでしょうか。

(49歳 女性 宮城県)

カドサイラの使用がベスト

板橋中央総合病院
乳腺外科医長の上野貴史さん

間質性肺炎の悪化を心配されていますが、ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)との併用を断れば、再発のリスクは少し高くなります。しかし、間質性肺炎も重症化した場合には命にかかわることもある疾患なので、どちらの確率を優先するかということになります。

間質性肺炎の原因は、3剤併用療法を行った中でではドセタキセル(商品名タキソテール)の可能性が頻度的にはかなり高いです。しかし、ハーセプチンが原因でないとは言い切れません。リンパ球刺激試験を行なっても、原因薬が確定できるケースはあまり多くありません。

用心しながらハーセプチンを使用するのがまず1つの方法です。ハーセプチンは術前と術後あわせて計1年間投与するのが標準的です。間質性肺炎の原因薬である可能性は低いからです。

間質性肺炎については、少しでも疑わしい所見があれば、すぐにステロイドなどで対処すれば重症化する可能性は低いです。しかし、絶対的な安全は保障できません。安全性と効果の点から考えてみるなら、カドサイラ(一般名トラスツズマブエムタンシン)の使用をお薦めしたいと思います。ハーセプチンよりも再発リスクを下げる効果は高く、病理的完全奏功でない場合には保険適応もあります。ただ、ハーセプチンと同様にHER2タンパクに作用するという薬理構造は共通しており、ハーセプチンが原因薬だった場合には間質性肺炎をひきおこしやすくなる可能性は否定できませんが、ハーセプチン再使用よりは安全です。

間質性肺炎のリスクを完全にゼロにすることを望むならホルモン療法だけを行なえばいいのですが、その分、再発する可能性は高くなるというデメリットがあります。リスクとベネフィットを考慮すると、カドサイラの使用がベストと思われます。

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