川本敏郎の教えて!がん医療のABC 7
「拷問」と感じる患者の立場、
淡々と管を挿入する医師の立場
思いもかけない腸閉塞で事態は急変
術後の回復も順調で、食事も3分粥、5分粥と順調にいっていた川本さん。ところが、急に事態は一変します。術後腸閉塞を起こしてしまったのです。この腸閉塞改善の施術をめぐって、患者の立場と医師の立場で大きな違いが……。
川本敏郎かわもと としろう
1948年生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。家庭実用ムック、料理誌、男性誌、ビジネス誌、書籍等の編集に携わる。2003年退社してフリーに。著書に『簡単便利の現代史』(現代書館)、『中高年からはじめる男の料理術』(平凡社新書)、『こころみ学園奇蹟のワイン』(NHK出版)など。2009年に下咽頭がん、大腸がんが発覚。治療をしながら、現在も執筆活動を行う
術後の回復も順調のようで
わたしの大腸がん切除手術は、人工肛門を造設せずに済み、がん細胞もきれいに除去することができたとのことで、術後の回復も順調のようでした。
術後10日目で食事は、3分粥になりました。その日、Y医師は左腹部のドレーンを挿入していた傷跡に小さなガーゼを詰めた後、「来週中に転科するか、一旦退院するか、耳鼻科の先生と相談してください」といわれました。つまり、消化器外科としての治療は、翌週の水曜日には終わり、手を離れるというのです。もちろん、退院後も月に1度は外来で診察を続けるそうですが、5年後生存率は80パーセントと告げられました。下咽頭がんと比較すると、ずっと生存率は高いようです。
翌日には、食事は5分粥になりました。左腹部に挿入していたドレーンの跡から体液が漏れ出て、パジャマを濡らしました。昼過ぎにトイレに行くと、便が少量出ましたが、これが2日分の重湯や3分粥の食事の消化物かと思うと、何やら愛おしく感じられました。こう感じるのも、回復が順調だからでしょう。
ところが、夜になって急に雲行きが怪しくなります。夕食の5分粥とおかずを食べている最中から胸がムカついて吐き気があり、半分も食べられませんでした。その夜、眠剤のデパス(一般名エチゾラム)を飲んで寝たのにムカムカ感で目が覚め、何度か吐き気を催しました。日付が変わるころには、吐き気止めを看護師にオーダーして服用したのですが、それでもムカムカ感は消えません。
そして午前3時、吐き気を催したと思った瞬間、トイレまでがまんする間もなく、胃の中のものを吐いてしまいました。近くにある、うがいを捨てる容器にもどしましたが、それではとても受けきれない量でした。全部で500ミリリットルも吐いたでしょうか。かなりの量です。さらに午前4時になってもムカムカ感はおさまらず、少量の胃液を吐きました。
当然、「禁飲食」の札がベッドテーブルの上に置かれました。1個ずつ積み重ねた、賽の河原の石は崩れてしまったのです。
止まらない吐き気消化器系に異常?
その日は日曜日だったため、I医師が診察に来たのは9時少し前で、CTと胸部、腹部レントゲン撮影をしました。I医師は応急処置として胃の減圧をするため、鼻から管を入れ、胃の内容物を吸引器で吸い出しました。すると、350ミリリットルほどの緑色の胃液が吸引されました。管の先を袋に繋ぐと、さらに100~200ミリリットルの胃液が出ました。それでも吐き気は止まりません。明らかに消化器系に異常が生じたに違いませんが、できるだけ深刻に考えないようにしました。
昼過ぎにまた吐き気を催し、3度少量吐きました。吐き気止めをオーダーして点滴してもらうと同時に、胃液を吸引してもらいました。
眠剤を点滴してもらって、午後7時過ぎには眠ろうとしたのですが、鼻に管が入っているため息苦しくて眠れません。胸焼けもするので、胃液を吸いとってもらいましたが効果はありません。さらに眠剤を点滴してもらい、眠りに就いたのは午後11時半ころでした。
これまで入れてあった管よりもっと太い管が……
翌朝、採血があり、Y医師が回診に来ました。「腸閉塞を起こしているかもしれない」といわれ、レントゲン撮影を指示されました。
手術前に詳しく説明を受けた合併症の1つ、術後腸閉塞を起こしたのです。起きる確率は20パーセントという説明でしたが、その中に入ってしまったわけです。腸が詰まっているため、胃の内容物が行き先を失い、吐いてしまったのでしょう。
後で受けた説明によると、腸閉塞を起こした原因は、手術後、腸にむくみが出たか、腸の動きが悪くなったかして通りが悪くなったためだそうです。
午後、再度Y医師がやって来て、昨日のレントゲン写真と比べると腸閉塞はよくはなってはいるが、下咽頭がんの治療を考慮すると、やれることはやったほうがいいと、鼻から小腸まで管を入れますと宣告されました。チューブを通して腸液を機械的に抜くことで、むくみが早くとれるというのです。
説明が終わって、放射線科の透視室で管を入れ替える施術が施されました。今度入れる管のほうが、胃に入れていた管より堅くて太いものです。それを腸まで入 れるのですが、これがひどく苦しい施術でした。わたしがゲーゲーやっても、Y医師は構わず、「ちょっと痛いですよね」といいながら、下へ下へと通そうとし ます。患者の訴えばかりを聞いていたら、出来ることも出来ないと頭ではわかりますが、外科医はじつに冷酷です。
ゲーゲーが30~40分も続いたでしょうか、まるで拷問のような施術はようやく終わりました。それでもY医師は、十二指腸の少し先までしか入らなかったと、残念そうでした。
獨協医科大学越谷病院第1外科主任教授の大矢雅敏さんは、次のように解説してくれました。
「切除した場所から推測すると、小腸に入ったすぐの所で腸閉塞が起きやすいと思われます。ですから、そのぐらいまで管を入れればよかったのでしょう」
鼻から喉を通って小腸まで達した管の先を低圧持続吸引器に繋ぎ、腸液を吸引しました。
同じカテゴリーの最新記事
- 治療は楽だが、副作用がつらい放射線治療味覚障害、食欲低下、喉の痛み……幾多の副作用を乗り越えて
- 放射線治療に潜む得手、不得手がもたらす人生の悲喜こもごもショック!! 抗がん剤と放射線治療による味覚障害がこんなにつらいとは
- ただし放射線治療の影響で耳下腺機能が低下、口の中がカラカラに抗がん剤+放射線治療で手術を回避、声も温存
- 体調は徐々に回復するも、術後の痛みに悩まされる大腸がんの手術は無事に成功
- 大腸がんの検査、手術に関するインフォームド・コンセント事前説明を良く聞いて、自分に起きる変化に備えよう
- 何でこんなに検査を受けるの?と思っても……不幸中の幸いをもたらしたPET検査
- きちんと疑問点をはっきりさせてから相談を受けることが大切夜の酒場でセカンドオピニオン ~わたしの場合~
- 情報収集し、疑問点をメモしてから受けよう知らないと損する!! セカンドオピニオンの上手な受け方
- がんに負けない強い意志を持ってまずは、「がん」という敵を知る!