分子標的薬や、多様な治療法の組み合わせの登場で着々と改訂が進行中
膀胱がんの「診療ガイドライン」の注目ポイント
京都府立医科大学大学院
医学研究科泌尿器外科学教授の
三木恒治さん
2009年、「膀胱癌診療ガイドライン」が日本で初めて刊行された。
しかし刊行以降、分子標的薬の登場により治療法も日々進歩を遂げている。
ガイドラインの注目ポイントとともに、現在改訂作業が進行中の改訂版での変更点について解説する。
筋層非浸潤性なら膀胱を残せる
膀胱がんは膀胱の内側を覆う粘膜に発生するがんで、肉眼でわかる血尿が発見のきっかけになることが多い。確定診断のためには、膀胱鏡(尿道から挿入する膀胱用の内視鏡)を入れ、がんの有無を調べる。異常が見つかれば、膀胱鏡で組織を採取。それを調べることで、がんであるかどうかの診断や、病期の診断が行われる。
膀胱がんの診療アルゴリズムは図1、病期は図2のとおり。ステージ1までをとくに筋層非浸潤性膀胱がんと呼んでいる。
「以前は表在性膀胱がんと言っていて、こちらのほうが分かりやすかったですね。英語の病名をきちんと翻訳すると、筋層非浸潤性膀胱がんとなるのです。筋層に達していないので転移しにくく、この段階であれば、TUR-Bt(経尿道的膀胱腫瘍切除術)による膀胱を残す治療が可能です。膀胱鏡でがんを切除し、その後、再発予防のために、抗がん剤やBCGを膀胱に注入する治療が行われます」
筋層非浸潤性膀胱がんには、上皮内がん(CIS)という悪性度の高いがんも存在する。粘膜中に薄く広がるタイプで、発見しにくく、治療も困難になることが多い。
がんが筋層に浸潤したステージ2、3になると、膀胱を切除することになる。そして、膀胱を切除した場合には、排尿のための尿路変向が行われる。
他臓器への浸潤や転移があるステージ4は、基本的には化学療法や放射線療法が行われることになっている。
『膀胱癌診療ガイドライン』第1版は09年に刊行された。日本における標準治療の確立と、国際コンセンサスとの整合を目的としたものだ。
構成は、「疫学・診断」「筋層非浸潤性膀胱癌」「CIS(上皮内がん)」「ステージ2、ステージ3」「ステージ4」「全身化学療法」「放射線療法」という7部に分かれ、具体的な治療法が解説されている。
[図2 膀胱がんの病期(T分類)]
筋層非浸潤性膀胱がんならTUR-Btと膀胱内注入
筋層非浸潤性膀胱がんの場合、選択される治療法はTUR-Btである。がんを切除するのは簡単だが、多くの場合、膀胱内で再発が起こる。そこで、再発を防ぐために、リスク分類に応じた膀胱内注入療法が行われる(図3)。
リスク | 内容 | 治療 |
---|---|---|
低リスク | 初発、単発、3cm未満、Ta、低グレードかつ 併発上皮内がんなし | 抗がん剤即時単回注入 |
中リスク | 低リスク・高リスク以外 | 抗がん剤あるいはBCGのいずれか注入 |
高リスク | T1、高グレードまたは上皮内がん (併発上皮内がん含む)、多発性、再発性 | BCG注入あるいは膀胱全摘除術 |
「このリスク分類は、アメリカのリスク分類とも、ヨーロッパのリスク分類とも、分類方法が多少異なります。しかし、低リスクには抗がん剤の即時単回注入、中リスクには抗がん剤かBCGの注入、高リスクにはBCG注入か膀胱全摘術という部分は共通しています。国際的なコンセンサスが守られた内容といえるでしょう」
低リスクの人に行う抗がん剤即時単回注入は、TUR-Btから24時間以内に、抗がん剤の注入療法を1回だけ行う治療である。
中リスクの抗がん剤注入は、24時間以内の即時注入と、その後複数回の維持療法が推奨されている。
BCG注入療法は、投与スケジュールなどの結論は出ていないが、週1回投与で6~8週続けるのが一般的。なお、高リスクで、BCG注入療法を2次治療まで行い、それでもがんが残っているような場合には、膀胱全摘術が推奨されている。
上皮内がんの治療で推奨されるのは、BCG注入療法である。
「上皮内がんは盛り上がっていないので見つけにくいし、削り取れるようなものでもありません。そこで、最初からBCGを注入して治療します」
この治療は週1回、6~8週が推奨されている。また、その後のBCG維持注入療法も推奨されている。通常、6週の注入療法を終えた後、3、6、12、18、24、30、36カ月めに、週1回3週のBCG注入療法が行われている。
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