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新たな併用療法や新薬でまもなく大きく変わる! 進行性尿路上皮がんの1次治療

監修●三浦裕司 虎の門病院臨床腫瘍科部長
取材・文●半沢裕子
発行:2024年9月
更新:2024年9月

  

「20年以上もGC療法やGCb療法が第1選択だった進行性尿路上皮がんの療法が、オプジーボ+GC併用療法やパドセブ+キイトルーダ併用療法にまもなく変わるでしょう」と語る三浦さん

進行性尿路上皮がんの治療は長い間抗がん薬しかなく、2017年に免疫チェックポイント阻害薬キイトルーダが承認されたのが大きなブレイクスルーと言われました。その後少しの停滞を経て、2021年に新薬が2つ承認されました。そしてここに来て、新たな併用療法や新薬の承認も間近と言われています。今回は虎の門病院臨床腫瘍科部長の三浦裕司さんにまもなく1次治療が大きく変わる尿路上皮がんについて伺いました。

尿路上皮がんとはどのようながんですか?

尿路上皮がんは膀胱がん、腎盂がん、尿管がん、尿道がんなどが含まれます。そのうちで、膀胱がんが尿路上皮がんの約90%と大部分を占めています。罹患者数は年間23,383人(2019年全国がん登録罹患データ:膀胱がんのみ)、女性より男性が圧倒的に多いです。

では、尿路上皮とはどこを指すのでしょうか。尿は腎臓でつくられ、腎盂に集まり、尿管を通じて膀胱に送られ、膀胱から尿道を通って排出されます。このうち、腎盂、尿管、膀胱、尿道(一部)の内壁を覆っているのが尿路上皮で、この上皮に発生するのが尿路上皮がんです(図1)。

尿路上皮がんの治療について、虎の門病院臨床腫瘍科部長の三浦裕司さんは、次のように話します。

「転移性尿路上皮がんに対する治療は主に薬物療法になりますが、膀胱がんであれ、腎盂がんであれ、尿路上皮にできたがんに対する薬物療法は細かい違いはありますが、ほぼ同じ治療体系で考えられます」

尿路上皮がんは増えているのですか? 原因は?

「高齢化社会になりがんになる人が増えているため、尿路上皮がんに罹患する人の数自体は増えています。しかし、年齢ごとに調整した10万人あたりの罹患率を見ると、1990年代後半は8人くらいだったのが、2015年頃には6人くらいになり、トータルでは増えていますが、各年代の発症率は減ってきています」

がんの原因にはいろいろありますが、尿路上皮がんの一番のリスクファクターはタバコと言われています。かつては特定の化学物質を扱う人に職業性のリスクも多く見られました。最近はそうした物質の扱いには厳しい規制がかかっているので、現在では原因の多くはタバコです。尿路上皮がんが減っているのは、喫煙率の低下も原因のひとつと思われます。

標準治療はどのようなものですか?

「表在性の尿路上皮がんの標準治療は手術になりますが、がんが見つかったときに上皮から筋層の深いところまで浸潤している場合、がん細胞が全身に広がっている可能性があるため、手術だけではなく薬物療法の追加が必要になります。一方で、他の臓器に転移している場合や再発した場合には、がん細胞がすでに全身に広がっていると考えられるため、主な治療は薬物療法となります」(図2)

初診時での進行度は約80%が0〜1期の表在がんで、そのうちの約10%が筋層浸潤がんに移行します。

「筋層浸潤がんのT2、T3、T4は手術できますが、切除だけでは肺や肝臓に転移を起こしてしまうので、手術前もしくは手術後に薬物療法を行います」(図3)

進行性尿路上皮がんに対する薬物療法は2001年に、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)+白金系抗がん薬シスプラチン(一般名)の併用療法「GC療法」が確立されました。GC療法のほかに、腎毒性のあるシスプラチンをカルボプラチン(一般名)に置き換えた「GCb療法」も行われるようになります。

2000年代以降はさまざまながん種で分子標的薬や新規薬剤が次々開発されましたが、尿路上皮がんではことごとく臨床試験の結果がポジティブに出ず、GC(GCb)療法時代が長く続きました。

ようやく状況が変わったのが2017年。白金系抗がん薬を含む治療後に進行・再発した患者さんに対し、化学療法群と免疫チェックポイント阻害薬(ICI)キイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)単独投与群を比較したところ、全生存期間(OS)中央値が7.4カ月 vs. 10.3カ月と有意に延長し、奏効率(ORR)もキイトルーダ群が21.1%、化学療法群11.4%で優位に高い値でした(KEYNOTE-045試験)。

「これを受け日本でも2017年12月、キイトルーダが化学療法後に増悪した切除不能な尿路上皮がんの2次治療薬として承認されました。その結果、1次治療ではGC(GCb)療法を行い、効かなくなったら2次治療でキイトルーダを使うという標準治療が確立されました」

キイトルーダ承認後、少しの停滞がありました。

「2021年3月、1次治療薬として保険適用になったのが、ICIバベンチオ (一般名アベルマブ)による維持療法です。これは最初にGC療法あるいはGCb療法を4~6コース行い、効果が得られた患者さんに対してGC(GCb)療法が効いている間に維持療法として使用します。1次治療薬の効果が得られなかった患者さんは、キイトルーダによる2次療法に移行します。これが現時点の標準治療となっています」

3次治療薬も承認されているそうですね?

「抗体薬物複合体(Antibody-drug conjugate:ADC)のパドセブ(一般名エンホルツマブ ベドチン:EV)ですね。これは2021年9月に承認されています。今日、ADCはがん治療の大きなトピックで、世界中でさまざまなADCの開発が進められています」

パドセブは膀胱がんの80~90%に発現している「ネクチン4」というタンパク質に結合し、がん細胞を死滅させます。2021年2月の米国臨床腫瘍学会泌尿器会議(ASCO GU)において、GC療法やICIによる治療歴のある、局所進行・転移性尿路上皮がん患者に対するこの薬剤の3次治療の第Ⅲ相臨床試験「EV-301試験」の結果が発表され、全生存期間(OS)が化学療法群8.97カ月 vs. EV群12.88カ月と有意に延長された結果を受け、3次治療薬として使えるようになりました(図4)。

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