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膀胱を温存する治療も、新膀胱を再建する技術もより積極的に
ここまで進んだ! 進行膀胱がんの最新治療

監修:宮永直人 水戸済生会総合病院泌尿器科部長
取材・文:町口充
発行:2011年1月
更新:2013年4月

  
宮永直人さん
水戸済生会総合病院
泌尿器科部長の
宮永直人さん

膀胱がんの中でも、浸潤がんなら膀胱を摘出する手術が必要だし、転移があれば手術は不可能となって全身化学療法に頼るしかない。
最近は、新膀胱を再建する技術が進む一方で、膀胱を温存する治療も積極的に行われるようになってきた。

深達度で違うがんのタイプ

「膀胱がんは、がんが広がっている膀胱壁の深さ(深達度)の違いによって、粘膜下層までの表在がん(浅いがん)と、粘膜層を貫いて筋層にまで達している浸潤がん(深いがん)とに分けられます。このため正確には、表在がんを筋層非浸潤性膀胱がん、浸潤がんを筋層浸潤性膀胱がんと呼んでいます」

こう語る水戸済生会総合病院泌尿器科部長の宮永直人さんによると、表在がんの場合、通常は浸潤・転移していることは稀で、多くは内視鏡的手術で完全切除が可能だという。しかし、浸潤がんだと他の臓器に浸潤・転移しやすく、内視鏡的手術で治すのは困難であり、膀胱を摘出する手術(膀胱全摘術)が標準的な治療法となっている。

表在がんと浸潤がんとの比率は7対3ぐらい。早期に見つけられれば表在がんで、発見が遅れると表在がんが浸潤がんに進行しているのかというと必ずしもそうではなく、両者は性質の違うがんと考えたほうがよさそうだ。

「表在がんは、4~5センチの大きさになっても粘膜下層までにとどまっていることが多いのに、1~2センチの大きさしかなくても、すでに筋層にまで入り込んでいるのが浸潤がん。発生するのは粘膜の表面ですが、短期間で浸潤がんになっていくと考えられます」

[表在がんと浸潤がん]
図:表在がんと浸潤がん

膀胱全摘術を行い、新しい尿路を作る

[膀胱全摘術の範囲]
図:膀胱全摘術の範囲

膀胱全摘術では実線の範囲を切除する。場合によっては尿道(破線)も切除することがある。そのため、膀胱全摘術を行う場合、尿の出口や尿を貯めるところを確保する必要がある

浸潤がんの手術は、膀胱全摘術と周辺のリンパ節郭清(切除)術、それに尿路変向術がセットで行われる。

膀胱から尿管を切りはずし、膀胱を摘出するが、男性の場合は前立腺も一緒に摘出する。がんの位置によっては尿道を一緒に切除することもあり、女性では子宮や腟の一部も膀胱と一緒に摘出する場合がある。

膀胱をとってしまうと、膀胱の代わりが必要になる。腎臓でつくられた尿は尿管を流れていくが、膀胱がなくなれば尿を貯めるところがなくなってしまう。そこで行われるのが尿路変向術だ。大まかに分けると次の3つの方法がある。

(1) 尿管皮膚瘻

腎臓は左右に2つあり、2本の尿管から尿が流れる。これをそのままおなかから外に排泄する方法。おなかにストーマ(尿の出口)をつくり、専用のパウチ(袋)を装着する。このパウチが膀胱の代わりになって尿を貯める。

「欠点は、うまく尿管が長くとれれば穴は1カ所で済むけれど、長さが足りないと左右2カ所に穴を開けないといけないケースがあります。そうなると両側にパウチが2つ必要になります。また、尿管が直接外部と接するので菌が入り込みやすく、尿路感染が起きやすくなります」

(2) 回腸導管

尿管皮膚瘻の欠点をカバーする方法で、現在はこちらが主流。回腸(小腸の一部)を15センチほど切り取ってきて、これに左右の尿管をつなぎ、一方の端を閉じる。もう一方を尿の出口(ストーマ)にする。パウチに尿を貯めるのは尿管皮膚瘻と同じ。

「この方法の長所は、尿管が直接皮膚に出ないので尿路感染を起こしにくくなるのと、かれこれ数10年もこの術式が行われているため、技術的にも安定している点があげられます。ストーマが片側1つのみというのも利点です」

(3) 導尿型新膀胱と自然排尿型新膀胱

尿管皮膚瘻や回腸導管の場合は体の外にパウチをつけるが、これでは美容上よくないということで考え出された方法。腸管を切り取ってきて袋(パウチ)をつくり、これをおなかの中に置いて膀胱の代わりとして用いるので、新膀胱と呼ばれる。

「導尿型では腸の一部を細くしておなかから出します。尿が貯まってきたらそこに管を入れて尿を出します。もう1つの自然排尿型は尿道から排泄できる利点があります。尿道を残せた人にのみ有効で、腸管で新膀胱をつくり、これに尿管と尿道をつなげる方法です」

どちらも自然の尿意は感じないので、おなかの張りに気をつけたり、時間を決めて導尿、排尿する必要がある。

「3つのうちどれを選択するかは患者さんの考え方次第です。新膀胱にすると夜中に起きたりと手間もかかるので、高齢の人では回腸導管や尿管皮膚瘻にすることもけっこう多いです。若い人ではストーマやパウチに抵抗を覚えて新膀胱にする方も多いですが、皆さんやがては高齢者になります。高齢になって寝たきりになるところまで考えれば、新膀胱はむしろやっかい。回腸導管ならおなかにパウチをつけたままでいいので、先々のことを考えてこちらを選択する人もいます」

[尿路変向術の方法]

失禁型尿路変向術 非失禁型尿路変向術
(1)尿管皮膚瘻
図:尿管皮膚瘻

尿管を直接腹壁に固定。
術式は簡単だが、狭窄を起こしやすい

(3)自己導尿型代用膀胱
図:自己導尿型代用膀胱

腸管を用いて畜尿するパウチを作製。
自己導尿が必要となる

(2)回腸導管
図:回腸導管

回腸(小腸の一部)を導管として用いる。
狭窄を起こしにくく、腸管の蠕動運動により、尿はスムーズに体外へ出される

(4)自然排尿型代用膀胱(新膀胱)
図:自然排尿型代用膀胱

腸管を用いて新しく膀胱を作製。
尿道と吻合することにより、術後自分で排尿することが可能となる


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