化学療法と放射線療法の併用で膀胱温存、副作用の少ない世界標準薬の登場も
明るい兆しが出てきた膀胱がんの最新治療
筑波大学大学院
人間総合科学研究科教授の
赤座英之さん
膀胱がんは、膀胱壁の粘膜にとどまる非筋層浸潤がん(表在性がん)なら内視鏡で治療ができ、全摘しなくてすむが、それ以上に進行した筋層浸潤がん(浸潤性がん)は、膀胱全摘や化学療法で後遺症や副作用に苦しめられるばかりでなく、膀胱を失うというQOL(生活の質)上の大きな問題が存在する。しかし、最近このような場合でも、化学療法と放射線療法の併用により膀胱を温存したり、副作用の少ない世界標準の抗がん剤が日本でも近々承認される見通しがつくなど、明るい兆しが出てきた。
非筋層浸潤がんと筋層浸潤がん
膀胱がんの発生は毎年人口10万人あたり17人くらいで、あまり多いがんではないものの少しずつ増えている。男性は女性の3倍くらい多く発症し、年齢的には60~70歳代に最も多く見られる。
膀胱は腎臓でつくられ、腎盂、尿管を経由して運ばれてきた尿を、貯める袋だけではなく、排尿という複雑な機能を担っている重要な臓器だ。膀胱がんの多くは膀胱の内側の表面を覆う尿路上皮と呼ばれる粘膜ががん化していくもので、膀胱内に同時にいくつもできることもある。
膀胱がんはどの程度膀胱壁(粘膜・粘膜下層・筋層)に深く入り込んでいるかによって大きく2つに分類される。1つは上皮の粘膜下層までにとどまる非筋層浸潤がんで、もう1つはそれより深く筋層以下に食い込んだ筋層浸潤がん。非筋層浸潤がんの5年生存率は90パーセント以上とかなり予後がよいが、筋層浸潤がんとなると40パーセント以下とよくない。
膀胱がんの多くは血尿で見つかる。膀胱壁粘膜に発生したがんの表面から出血して、膀胱内に溜まった尿と混じって血尿が起こる。痛みを伴うことはほとんどなく、これを無症候性血尿という。見た目で血が混じっていることがわかる「肉眼的血尿」と、顕微鏡で調べて初めて血尿がわかる「顕微鏡的血尿」がある。
膀胱がんの診断は、膀胱鏡と呼ばれる細い内視鏡を、直接膀胱に入れて観察する検査によって行う。ひとたび膀胱がんとわかったら、ほかのがんと同じようにX線CTやMRIなどを用いて、その広がり、転移の様子などを調べる。
非筋層浸潤がんの再発予防にBCG注入療法
非筋層浸潤がんは膀胱内に挿入した内視鏡で観察すると、茎がきのこ状に突出した腫瘍が観察されることが多い。治療はこの腫瘍を膀胱鏡という内視鏡で見ながら高周波の電気メスを使って切除する。これを経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)という。もちろん膀胱を温存でき、患者さんの負担は極めて小さい。
膀胱がんは非常に再発しやすいがんとしても知られる。以前はTUR-Btを受けても50パーセント以上の人が2年以内に膀胱内に再発し、トータルで70パーセント以上が再発していた。
現在、この再発予防法として、世界的に結核の予防ワクチンであるBCGの注入療法が用いられている。一種の免疫療法で、牛の結核菌の毒性を弱めたBCGを生理食塩水に溶かして膀胱内に注入し、炎症を起こさせると免疫細胞ががんを“敵”とみなして攻撃する。2004年に保険が適用され、この注入療法により、TUR-Bt後の再発は20パーセント前後まで激減している。
筋層浸潤がんは膀胱全摘に尿路再建
膀胱がんが筋層にまで食い込んでいるものの、膀胱の外に転移していない場合は、膀胱全摘除術が選択される。がんを完全に取り除くことを期待して膀胱と骨盤内リンパ節を取り、男性では前立腺、精のう、女性では子宮を摘出する手術だ。
当然のことながら膀胱を摘出すると、尿をためておく袋がなくなってしまうので、何らか尿路を再建する必要がある。これを「尿路変向術」と呼ぶ。最初に腎臓から出ている尿管を直接お腹の横につけたストーマー(出口)につないでここから尿を取る「尿管皮膚瘻造設術」という方法が開発された。また、回腸の一部を切り取って尿を溜められるようにしてこれをストーマーにつないだ「回腸導管法」、さらに回腸や結腸で作った代用膀胱を尿道につなぎ自分で腹部に力を入れて排尿できるようした「自然排尿型代用膀胱」という試みも生まれた。筑波大学大学院人間総合科学研究科泌尿器科教授の赤座英之さんは、次のように解説する。
「日本では症例がそれほど多くないこともあり、尿路変向術はどの方法がいいとはいえないのが現状です。自然排尿型など新しいタイプが期待されていますが、最近では回腸導管法などのオーソドックスな方式に戻る傾向もあります。いずれの方法にもそれぞれ合併症があり、最初はよくても5年、10年と時間が経つとつくった袋に結石ができたり感染しやすくなるなどの不具合が出てきます。膀胱を残した治療法の開発が求められているのが現状です」
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