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高齢者乳がんに対する診療の課題 増える高齢者乳がん~意思決定支援を重視した診療を

監修●西村誠一郎 静岡県立静岡がんセンター乳腺外科部長
取材・文●「がんサポート」編集部
(2018年6月)

  
「我々は100を目指して治療しますが、患者さんにはそれが幸せなのかは別です。我々の価値感がベストとは思っていません。もう十分だからと、強い治療を望まないという人もいます。家族会議の中で個人の有事の際の身の振り方を決めておくことが大事です。意思表示がはっきりしていると治療方針も決めやすくなります」と語る西村誠一郎さん

超高齢社会となった日本では、当然のように高齢になってからがんに罹患する患者数も増えている。乳がんの場合も同じで、高齢者乳がんが増加している。高齢になると全身機能の低下とともに、合併症を伴う頻度が高くなり、ガイドラインに則った治療が行えない場合が多いという。高齢者乳がんに取り組む専門家に聞いた。

増えている閉経後の乳がん

そもそも「高齢者」の定義は様々で、世界保健機関(WHO)では65歳以上と一括しており、日本の保険制度などは65歳から74歳を「前期高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」としている。さらに日本老年医学会などでは65~74歳を「准高齢者」、75~89歳を「高齢者」、90歳以上を「超高齢者」と定義づけている。

日本の乳がんの状況はどうだろう。静岡県立静岡がんセンター乳腺外科部長の西村誠一郎さんは、「発がんリスクは各世代ほぼ一定ですが、高齢者の総数が増えているため高齢者乳がんの患者さんも増えています。また、10年近く統計を見てみると60代が増えてきています。米国のデータに似てきました。これまでは閉経前に罹患することが多かったのですが、むしろ閉経後が増えています」と話す。

がんを増殖させるホルモンのエストロゲンは皮下脂肪からかなり放出されるので、閉経後の肥満がネックとなるという。がんの性質的には年齢に差はないが、高齢者は抗がん薬に対して体力的に厳しいので、いろいろな医療施設で頭を抱えている。

静岡がんセンターでは、高齢者乳がんの治療成績向上に向け、同センターにおける対象者の治療状況をまとめた。

2007~10年に原発性乳がんと診断し、初期治療を行った70歳以上の患者158例について、L群:70~74歳(75例)とH群:75歳以上(83例)に分け、基礎疾患(合併症)の有無、病状(進行度、サブタイプ)などを調査し、①高齢者乳がんの特徴、合併症併発率、②ガイドライン準拠率、③5年生存率(OS)、無再発生存率DFS)、転帰(脱落率)を検討した。平均観察期間は7年1カ月だった。

高齢者の治療成績は悪い傾向にある

結果は、進行度は0期:22例(14%)、I期:65例(41%)、Ⅱ期:56例(35%)、Ⅲ期:15例(10%)だった。0期を除く136例でのサブタイプはルミナルA型が36例(23%)、ルミナルB型が59例(43%)、ルミナルHER2型が7例(5%)、HER2型が11例(8%)、トリプルネガティブ(TN)が23例(17%)となり、高齢だからと言って決して大人しいがんばかりではないと言える。

基礎疾患合併率は、L群85%、H群83%で差はなかったが、抗凝固薬内服が必要な心・脳血管障害併発率は、L群13%、H群34%とH群で有意に高かった(p=0.005)。ガイドライン遵守率を見ると、術前治療ではL群55%、H群20%とH群で低率だった。術式では、L群99%、H群90%、術後治療では、L群53%、H群25%となり、いずれもH群で不十分だった。再発は、L群で3例(遠隔3)、H群で15例(遠隔8、局所7)に認められ、5年無再発生存率(DFS)は95.7%と84.5%となりH群で有意(p=0.0034)に不良だったが、5年全生存率(OS)は 98.5%と94.6%で有意差はみられなかった(p=0.1396)。脱落率は、L群15%、H群37%で、多くが合併症悪化、日常生活動作(ADL)低下が理由だった。治療の適正化で延命効果(survival benefit)が出た可能性があるのは、L群の1例のみで、H群の多くは、再発後も平均寿命まで、延命は可能だったとみられている(図1)。

■図1 高齢乳がん患者70~74歳(L)群と75歳以上(H)群間での無再発生存率(DFS)の比較

基礎疾患や全身状態を考えて

西村さんは高齢者乳がんの治療について「抗がん薬を使えるタイプでも、全身状態PS)などを考えると高齢者には使いにくい。ホルモン療法だけになってしまうこともあります」と治療の難しさを話す。高齢者患者について、「診察室に入った瞬間の状況や雰囲気で全身状態がわかります。これは難しいなと感覚的にわかります。基礎疾患と気力、全身状態の把握が大切です」

実際に治療に入ったときに、トラブルが出る可能性が常にあることを想定しなければならないという。西村さんは「フレイル(脆弱性)」という概念を上げる。「もしフレイルに合致すれば治療の強度をしっかりと落とさなければなりません。合致しなければ若い人と同じような標準治療をします」というが、別の角度から「フレイルの尺度の課題もあります。もともとの目的が寝たきりや認知症を防止するために医学的介入が必要かどうかの尺度なので、がん治療に直結しているわけではありません」と慎重な姿勢も示した(表2)。

自覚があったら迷わず受診を

高齢者乳がんの発見から治療までを概観しよう。

発見は、「内科診療の際に」ということが多い。別の疾患で受診して、聴診器をあてたら当たるものがあるのでわかる。ほかには訪問看護師や在宅介護士が高齢者を着替えさせるときにしこりに気づくこともあるという。「自覚していても医療機関に来ない人も多い。その教育も課題です。高齢者は自己検診という感覚が低いようです。『年だからがんにはならないと思っていた』というケースもよくあります」

治療の特徴は、繰り返しになるが、サブタイプを考え、気力、体力があるかどうかが最優先になる。標準治療ができるかどうか、できれば標準治療を行う。では、できなければどうするかというと、弱めの抗がん薬でつないでいって、なかなか制御できなければ、部分的摘出を行う。これで寿命は延びる。「最小限の治療でも可能」(西村さん)だという。

西村さんはさらに「高齢者に見受けられるのは数年前からがんだとうすうす分かっているケースです。しこりは大きくなりますが生活に支障はない。放っておく。病院にかかるタイミングがない。そして腫瘍が破裂して皮膚が裂け、腫瘍が露出、出血しだしてからくる人が多くみられます」と話す。

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