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日常活動動作や生活の質を維持するために

「骨を守る」対策も並行して行う 乳がん骨転移治療

監修●公平 誠 国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科医員
取材・文●町口 充
(2016年2月)

  
「乳がんの骨転移治療では、患者さんのQOLを保つことが重要です」と語る公平 誠さん

乳がんは骨に転移しやすい。痛みや骨折、脊髄の麻痺などを起こすことがあり、そうなると日常生活に悪影響を及ぼすことになってしまう。また、加齢によって骨が脆くなった上に骨転移が重なれば、より症状が悪化することにもなりかねず、十分な骨転移対策が必須となっている。

高率で発生する乳がんの骨転移

表1 固形がんにおける骨転移の発生頻度
Oncologist 9:14-27,2004
Clin Cancer Res 12: 6243s-6249s, 2006

骨転移は、原発巣(最初に発生した病変)で増殖したがん細胞が血流に乗って骨に運ばれて増殖することによって起こる。がん細胞が骨に転移すると、骨の破壊が進んでがんの増殖が進む。この結果、骨の痛みや骨折などが起こり、起立や歩行など日常生活動作(ADL)に支障を来し、QOL(生活の質)を著しく低下させることになってしまう。

日本臨床腫瘍学会がまとめた「骨転移診療ガイドライン」によると、固形がんにおける骨転移の発生頻度は乳がんで65~75%と高率だ。これは前立腺がんの65~75%と同水準であり、肺がんの30~40%、消化器がんの5%などと比べると際立っている(表1)。

その理由を、同ガイドラインの作成メンバーの1人でもある国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科の公平(こうだいら)誠さんは次のように語る。

「乳がんはほかのがんと比べて比較的長期間を経てからの再発・転移が多いことで知られています。乳がんでは、肺や肝臓などの内臓よりも先に骨に転移している場合も少なくありません。一方、肺がんや消化器のがんで、比較的早い段階で内臓に再発・転移がみられる場合は、内臓や骨などに同時多発的に転移していき、時間的にあまり差がないと言われています」

ホルモン陽性タイプは要注意 痛みが出て見つかるケースが多い

転移の多い部位は腰椎、胸椎、頸椎といった椎骨(背骨)や骨盤、肋骨、頭蓋骨、上腕骨、大腿骨などの体幹部分で、肘から先の腕や手、膝から下の足の骨にはほとんど転移は起こらないと言われている。

がんのタイプによっても骨転移の起こりやすさが異なる。

「ホルモン陽性のタイプだと骨転移が65~70%であるのに対して、トリプルネガティブのタイプでは40%ほどです。一般論として、トリプルネガティブのタイプはホルモン陽性タイプと比べると病状の進行が速い傾向があり、進行がゆっくりのホルモン陽性タイプのほうが、骨転移が多い印象があります」

また、骨転移は痛みやしびれなど、何らかの症状を自覚することで見つかることが多い。

「臨床の現場では、術後のフォローアップをする中で、骨の痛みがないか、しびれがあれば神経にまで行っている可能性があるため、しびれの有無を質問したりして、骨転移の徴候をできる限り見逃さないようにして診察します。徴候が認められ、骨転移が疑われる場合はCT、MRIもしくはPET-CT、骨シンチを撮って診断します」

現在、術後患者に対しては、定期的な問診・視触診と年に1回のマンモグラフィの標準的なフォローアップが推奨されていて、それ以上のCT、骨シンチ、PET-CT、腫瘍マーカーなどのインテンシブ(集中的)フォローアップは推奨されていない。これは欧米のガイドラインでも同じだ(表2)。

表2 乳がん術後フォローアップのサマリー

痛みなどの症状が出る前に骨転移を発見できれば、完治することも可能になるのではと思いがちだが、その意義は認められていない。厳重な検査で再発を早期に発見して治療を開始しても、症状が出現してから治療を開始しても、その後の生存期間には変わりがないことが様々な研究で明らかになっているからだ。

トリプルネガティブ=女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)受容体とHER2タンパク受容体のどちらも陰性 ESMO=欧州臨床腫瘍学会 ASCO=米国臨床腫瘍学会 NCCN=全米総合がん情報ネットワーク AIOM=イタリア臨床腫瘍学会 アロマターゼ阻害薬=アリミデックス(一般名アナストロゾール・非ステロイド系)、フェマーラ(一般名レトロゾール・同)、アロマシン(一般名エキセメスタン・ステロイド系) ノルバデックス=一般名タモキシフェン

ホルモン陽性であれば 治療はホルモン療法から

骨転移が進行すると、痛みだけでなく骨折や麻痺などを引き起こす原因となる。これらを骨関連事象(SRE)と呼んでいる。

また、骨からカルシウムが溶け出すことにより血液中のカルシウム濃度が高くなる高カルシウム血症を起こすと、のどが渇く、むかむかする、尿の出が多い、お腹が張る、便秘気味になるなどの症状が現れる。

「骨転移が見つかると、それは乳がんが再発したことになるので、まずは病状を安定させることを第1に考え、抗がん薬かホルモン薬による薬物療法が選択されます。その上で、骨転移による痛みなどの症状の有無に応じて骨への介入を行います」

治療の指針としてよく知られているのが、米国のホルトバギー医師が提唱したアルゴリズム(治療手順)だ。

例えばホルモン陽性の患者さんの場合、ホルモン感受性があり骨転移などの転移があっても、差し迫った生命の危険がない場合はホルモン治療から開始する。最初のホルモン治療が奏効したら、効かなくなるまで治療を継続し、同様にして2次、3次とホルモン治療を行う。進行・再発乳がんのホルモン治療の選択肢は表3のようになっている。

表3 進行・再発乳がんのホルモン治療選択

一方、肝転移によって肝臓がかなりのダメージを受けているなど、差し迫った生命の危険がある場合、より強力な治療を行うため、抗がん薬などによる化学療法を1次治療から選択していく。

LH-RHアゴニスト製剤=リュープリン(一般名酢酸リュープロレリン)、ゾラデックス(一般名酢酸ゴセレリン) フェソロデックス=一般名フルベストラント ヒスロンH=一般名メドロキシプロゲステロン酢酸エステル フェアストン=一般名トレミフェン

ゾメタとランマークの違いは

ホルモン療法ないしは化学療法と併用して、骨関連事象を予防あるいは緩和するため使われるのがビスホスホネート製剤である。現在、有効な薬剤として使われているのは点滴薬のゾメタと皮下注射薬のランマーク

「ゾメタとランマークを比較した試験では、ランマークのほうが若干ではあるが効果が良かったという結果が出ていますが、どちらを使っても構わないことになっています。ゾメタは15分間の点滴が必要なのに対して、ランマークは皮下注射という違いがあります。また、ランマークは分子標的薬の一種で値段も高いですが、ゾメタはすでに後発薬も出ていて値段が安いので、こちらを選択するということもあるようです」

副作用として両方に注意が必要なのが顎骨壊死と低カルシウム血症。

顎骨壊死とは、顎の骨の組織や細胞が局所的に死滅し、骨が腐った状態になること。この結果、細菌による感染が起こり、痛みや腫れ、膿が出るなどの症状が現れる。

予防のためには、治療中、歯のケアを欠かさないことが肝心。万一、顎骨壊死が起こった場合は、早期に見つけて抗生物質(抗菌薬)で細菌感染を抑えれば治癒するケースが多いという。ゾメタやランマークでの治療中に抜歯をすると顎骨壊死が起こりやすくなるので、抜歯が必要な場合は骨転移の治療を一定期間延期したほうが良さそうだ。

低カルシウム血症は、薬の副作用により血中のカルシウム濃度が低下することで起こるが、軽症では口の周りや手先・足先の知覚異常を認め、重症になると全身の麻痺や意識障害を起こすこともある。

低カルシウム血症はゾメタよりランマークのほうが強く現れる場合があるため、ランマークで治療する人は予防のためにカルシウム剤と、カルシウムの吸収を促すビタミンD製剤の服用を同時に行う。

ゾメタ=一般名ゾレドロン酸 ランマーク=一般名デノスマブ

外照射に加え内照射の放射線治療も

骨転移が進行して、骨折したり、脊髄圧迫症状などが現れた場合は「放射線治療や手術が有効」と公平さんは語る。

がんが大きくなって骨の破壊が進むと、ちょっとした体の動きで骨折を起こすことがある。背骨に転移したがんが大きくなると骨が潰れて圧迫骨折を起こしやすくなり、背骨のすぐ後ろにある脊髄が圧迫されると激しい痛みやしびれを覚えるとともに、ひどい場合には脊髄損傷を起こして重篤の障害に発展することがある。

「脊髄には中枢神経が走っており、末梢神経と違って一度損傷すると回復は難しいとされています。従って、ここに圧迫症状が出ているときは、できる限り早い段階で圧迫を解除してあげなければいけません。ステロイド薬で神経の浮腫を軽減して、手術や放射線で脊髄への圧迫を解除する治療が有効です」

また従来、放射線治療というと体の外から放射線を当てる外照射だったが、近年、骨転移の痛みを緩和する治療として注目されているのが内照射の放射線治療だ。

内照射の放射線治療とは、病巣に集まる性質のある放射性物質を静脈から注射して治療する。注射した薬が骨転移部位に取り込まれ、その部位で内側から放射線照射する方法だ。

日本ではメタストロンが使えるようになっているが、新たに前立腺がんの骨転移に有効な放射性注射薬としてXofigo(ゾーフィゴ)が開発中であり、乳がんの骨転移にも有効とわかれば期待が持てる。

メタストロン=一般名塩化ストロンチウム-89 Xofigo(ゾーフィゴ)=一般名塩化ラジウム-223

骨粗鬆症予防にも役立つ骨転移治療

ところで、閉経後の患者さんに対するホルモン療法ではアロマターゼ阻害薬が使われるが、骨密度を低下させ、骨粗鬆症を引き起こしやすくするという副作用がある。すると、アロマターゼ阻害薬を使っていて骨が脆くなり、その上に骨転移を起こしたらどうなるのか。また、ますます骨粗鬆症になりやすくなるのではないだろうか。

そんな不安に公平さんはこう語る。

「とくに高齢の方や閉経後の方に対しては、アロマターゼ阻害薬による治療を始める前に骨密度をしっかり測定し、治療中も経過をチェックするようにしています。もし低下するようであれば、カルシウム剤の投与や、ビタミンD製剤を飲んでもらうようにしています。

また、骨転移の薬であるビスホスホネート製剤は、基本的には骨粗鬆症にも効く薬です。実はランマークは骨粗鬆症治療薬のプラリアと同じもので、商品名が違うだけです。ゾメタももともと骨粗鬆症の薬として開発されました。つまり、骨転移の薬の投与を受けることは、それ自体が骨粗鬆症の予防に役立っているのです」

なお、同病院には骨転移外来もあり、腫瘍内科の医師はもちろん、整形外科や放射線科、緩和ケア、リハビリテーションなど様々な分野のノウハウを結集して、連携した治療が行われている。

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