「1枚の下着との出合い」を導く下着アドバイザーたちの役割
患者さんの不安を笑顔に変える試着室の中の人間ドラマ

取材・文:吉田燿子
発行:2010年3月
更新:2013年4月

  

「商品だけの販売なら通販と同じ。実際にリマンマを手に取っていただいて、お客様の要望をお聞きしながら、お身体に合う1枚を見つけたい」。リマンマルームでは、アドバイザーが患者さんの小さな声にしっかりと耳を傾け、納得できる1枚の下着との出合いを導いている。
そこには、患者さんとアドバイザーの間にどのような心の交流があるのだろうか。

試着したとたんに歓声を上げる人も

二村幸子さん

「お悩みを教えていただき、よき理解者になりたい」と二村さん

鈴木通予さん

「実際のご試着で、身体にフィットするものが見つかります」と鈴木さん

アドバイザーの二村幸子さんが福岡のリマンマルームに配属されたのは03年。接客を通じて、さまざまな患者さんの悩みに向き合ってきた。

「40代前半のお客様がお母様と一緒に来社したときのことです。緊張からか饒舌にふるまうお母様の横で、娘さんは猫背で胸部を隠すようにし、終始落ち込んだ様子でした。その娘さんがリマンマのブラジャーを試着したとたん、『あら!』と声を上げ、試着室のカーテンを開けて『どう?』。姿勢をピンと伸ばし、明るく元気に変身した娘さんの変わりように、お母様は感無量となり、カーテンが閉まった途端に嗚咽されたんです。娘さんもカーテンの陰でその気配に気づき、『心配をかけていたのはわかっていたんだけどね。申し訳なく思っているの』と私にそっと耳打ちされました。カーテン1枚をはさんで互いを思い合う、親子の気持ちに打たれましたね」

このように、リマンマルームで試着を体験し、患者さんがみるみる元気になった例は数えきれない。

浅草橋のリマンマルームに勤務する鈴木通予さんも、こうした患者さんの変化を目の当たりにしてきたという。

「初めてのお客様は、最初は不安そうにしていらっしゃるのですが、フィッティングをした瞬間に歓声を上げる方が多いですね。『私の胸が戻ってきたみたいだわ』と喜ばれる方や、感激のあまり『うれしい、うれしい』と連呼される方もおられます。『今までは前かがみで歩いていたけれど、胸のラインがきれいになったから、胸をはって歩けるわ』とおっしゃるお客様も。そんな声をお聞きしたときは本当にうれしいですね」

女性にとって美しく装うことは、前向きに1歩踏み出すための処方箋であり、生きる原動力でもある。そのことを、リマンマルームでの出会いは教えてくれた、と鈴木さんは語る。

とはいうものの、実際にリマンマルームを訪れるまでは、さまざまな不安が胸に去来するのも事実だ。「個室に閉じ込められて商品を買わされるのではないか」と疑心暗鬼の患者さんも少なくないという。そんな患者さんの不安感を払拭するため、アドバイザーはさまざまな配慮と工夫を凝らしている。 「自分の母や姉がこんな風に接してもらえたらいいな、と思えるような接客を心がけています」と語るのは二村さん。鈴木さんも、「お客様に安心して下着選びを楽しんでいただけるよう、“今日1番の笑顔”でお迎えする」ことを習慣にしているという。

誰かに話を聞いてもらいたい

そんな心尽くしのカウンセリングを通じて、閉ざされた心を解放していく患者さんも少なくない。鈴木さんが、ある60歳前後の患者さんを接客したときのことだ。手術から3カ月後の来店で、個室に入るなり、医師や病院への不満を切々と訴え始めたという。

「術後に下着について主治医に相談したところ、『あなたもけっこう気にするんだね』と言われて、大変ショックを受けたらしいんです。病院の売店で下着のことを尋ねても『知らない』と言われ、病院への不信感は募るばかり。病気に対する気持ちの整理もつかず、誰かに苦しい胸の内を聞いてもらいたくてしかたがなかったんですね」

鈴木さんは患者さんの話にじっくり耳を傾け、励ましの言葉をかけながらフィッティングを実施。リマンマ製品で美しいシルエットを取り戻した自分の姿を見て、患者さんはすっかり笑顔を取り戻したという。

二村さんもまた、患者さんの話に耳を傾けることの大切さを日々実感している。

「お客様の中には、『お話をする場がない』と感じていらっしゃる方が多いように感じます。手術直後は、家族や周囲も患者様を大切にしてくれるのですが、術後に体調が回復してくると、『お母さん、ご飯まだ』『まだ寝てたの』と、あまり気遣ってもらえなくなる。そんな悩みを聞いてさしあげるうちに、スッキリとした顔で帰って行かれる方が多いですね」

ここでしか言えないのよ、という患者さんの言葉は信頼の証でもある。くつろいだ雰囲気の中で、アドバイザーとの会話を楽しみに来店する患者さんも多いとか。リマンマルームでのひとときは、患者さんにとって貴重な癒しの時間ともなっているようだ。

リマンマルームでのカウンセリング時間は約1時間。患者さんに疲労を感じさせずに相談と試着が行えるよう配慮されているが、患者さんの悩みが深い場合には、1時間では足りないことも。そんなときは、予約状況の許す範囲で時間を延長して対応するという。

カウンセリングで心の重荷を解き放つ

岩本法子さん

「楽しくお買い物することで、気持ちを解放して、リフレッシュしていただけたらと思います」と岩本さんは話す

患者さんのなかには、病気や乳房喪失の苦悩を受け止めきれず、やり場のない怒りを抱えたまま来店する人も少なくない。リマンマアドバイザーとして11年のキャリアを持つベテランの岩本法子さんは、自身の経験をこう語る。

「あるお客様は、術後数年が経過しても、ご自身の術部をご覧になることができない状況でした。ご要望をおうかがいしても、『乳がんでもない人に何がわかるの!』と、なかなか心を開いてくださらない。そこで、目を閉じたままでもブラジャーやパッドを上手に着用できるよう工夫してご提案したところ、大変感激されまして。今もリマンマルームに来られるときはご指名をいただいています」

深い悩みを抱えた患者さんと接するときは、親身に話に耳を傾け、患者様と気持ちを共有することが大切――と岩本さん。患者さんに心を開いてもらえるような話題を慎重に選び、少しずつ明るさを取り戻した頃合いを見計らって、患者さんがどのようなものを求めているのかにじっと耳を傾けていく。

「なかには、来店してもほとんどお話ができず、突然泣き出してしまわれたお客様もいらっしゃいます。このときは、お客様の苦しい心の内をお察しして、気持ちが落ち着かれるのをお待ちしてから、ご希望の品を1つひとつご試着いただきました。洋服がきれいなシルエットになったのをご覧になって、お客様は涙を流し、最後は輝くような笑顔でお帰りになりました」

カウンセリングで患者さんの心を解きほぐしながら、いかに的確に要望を察知し、ぴったりの1枚を提案できるか。それがアドバイザーの使命であり腕の見せ所でもある、と岩本さんは語る。

各地での相談会も随時開催中

ちなみにリマンマルームでは、安心して納得のいく下着選びをしてもらえるよう、事前の電話予約をお願いしている。予約時間は前述の通り、相談と試着を含めて約1時間。カウンセリングを受け、気のすむまで商品を試着しながら、アドバイザーと1対1でじっくりと商品選びをすることができる。予約なしに訪れると、混雑時には待ち時間が発生することもあるので、ぜひ予約して訪れたい。

この他、ワコールでは各地での相談会も随時実施している。これは、会場に仮設の臨時リマンマルームを設け、約30分でカウンセリングと試着が体験できるというものだ。術後対応用下着の場合、適切なカウンセリングを受けずにカタログ通販で購入すると、望むようなフィット感が得られないことも多い。適切なサイズを選んだつもりでも、実際に着用してみると、パッドのサイズや重さに違和感を覚える患者さんも少なくないという。

実際に手にとって、ぴったりの1枚を

写真:リマンマ製品

「リマンマ製品で、人生を豊かに生きるお手伝いすることがアドバイザーの使命」

「商品の購入だけではなくて、実際にご説明しながら試着していただくと、納得していただけると思います。またカウンセリングを通じて、困っていることをお伝えいただくことで、解決できることもあるかもしれません」(二村さん)

「パッドはわずか1サイズの違いが、自分の気に入ったシルエットになるかどうかの分かれ目になります。術後に身体のサイズが大きく変化するケースも少なくないので、定期的に採寸して購入されることをお勧めします」(鈴木さん)

親身のアドバイスは各地の相談会でも好評で、来場者から「もっと頻繁に開催してほしい」と言われることも。「遠くから来たかいがあった」との声も聞かれるという。乳房切除というつらい体験をした女性が、リマンマ製品により美しいシルエットを取り戻し、人生を豊かに生きるお手伝いをする――それがリマンマ事業課のアドバイザーの使命、と3人は口をそろえる。

「補整用の下着を買いに行くというより、買い物を楽しむ感覚で来ていただきたいですね。リマンマルームや相談会をリフレッシュの場としてご活用いただければ。もちろん、ご相談だけでも大歓迎です」

そう、岩本さんは最後に語ってくれた。


株式会社ワコール リマンマ
問合せ先:フリーダイヤル 0120-037-056

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