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大腸のAI内視鏡画像診断が進化中! 大腸がん診断がより確実に

監修●斎藤 豊 国立がん研究センター中央病院内視鏡科長
取材・文●菊池亜希子
発行:2022年1月
更新:2022年1月

  

「病変が一瞬でも、ほんの一部分でも、カメラに映りさえすれば、AIなら見逃さず、見つけ出すことができます」と語る斎藤さん

内視鏡による診断と治療が世界でもっとも進んでいるのは日本。医療機器の多くを海外からの輸入に頼っている我が国だが、消化器内視鏡だけは日本製が世界シェアの90%以上を占めるという。

日本の内視鏡技術に世界が注目する中、「大腸内視鏡AI」が登場したのは、2019年3月のことだった。それからもうすぐ3年。いまや世界中で日本製の大腸内視鏡AIが使われ始めている。大腸内視鏡AIとは、どのようなものなのか。その実力と将来性について、国立がん研究センター中央病院内視鏡科長の斎藤豊さんに話を聞いた。

AIの先陣を切った大腸内視鏡

今、さまざまな分野でAI(人工知能)を使ったソフトウェアが本格的に活躍してきている。医療分野も例外ではない。その先陣を切ったのが、AIを搭載した大腸の内視鏡画像診断支援ソフトウェア(大腸内視鏡AI)だ。

すでに医療界でも、これまで放射線画像診断などにはAI搭載のソフトウェアが普及し、活用されてきてはいた。ただ、これは〝リアルタイム診断〟ではなく、画像上でAIのサポートを得た後、最終診断は医師が協議のうえ行うため、医療機器として薬事承認をとる必要がなかったそうだ。

しかし、内視鏡AIは、話が違ってくるという。

「内視鏡AIは、カメラを体内に挿入しながら病変を発見し、その状態をリアルタイムで医師に知らせ、医師はその場で切除などの処置を行うこともあります。そうなると医療機器としての薬事承認が不可欠なのです。そうした背景もあって、製品化が急ピッチで進みました」と話すのは、国立がん研究センター中央病院内視鏡科長で、日本消化器内視鏡学会・AI推進検討委員会の委員長を務める斎藤豊さん。

斎藤さんは、AIを活用した内視鏡補助システムの開発にも関わり、開発と臨床の両面から内視鏡AIを熟知している。

画像診断を得意とするAIは、内視鏡分野でのリアルタイム診断に力を発揮することが期待された。だからこそ、医療と行政がともに注力し、速やかな製品化に繋がったのだろう。

AIが病変を見つけ出すシステム

内視鏡に搭載されるAIは、どのような仕組みでリアルタイム診断をサポートするのだろうか。

「まず、膨大な数の病変のデータをAIに学習させインプットします。すると、AIが新たな病変に出合ったとき、インプットされたデータをもとに識別できるのです」

とはいえ、AIに単に病変の画像データを読み込ませているわけではない。斎藤さんはこう続けた。

「病変の有無にかかわらず、あらゆる画像を集め、その1枚1枚、画像に映った病変の1つひとつに、医師が『良性の腺腫』、『良性ポリープ』、『悪性が疑われるポリープ』、『早期がん』といったように、細かくマーキングします。加えて、病変の範囲も記します。この作業を〝アノテーション〟というのですが、気の遠くなるようなアノテーション作業を終えたデータをAIに学習させているのです」

「この画像の、この部分が、早期がん」というように、内視鏡専門医が印(しるし)をつけた膨大なデータを、コンピュータに覚え込ませている、というわけだ(図1)。

「WISE VISION」のアノテーションおよび開発においてリーダーとして活躍した国立がん研究センター中央病院内視鏡科の山田真善医師・作成

「実は最近では、教師なし学習といって、これまで積み上げてきたアノテーション画像を土台にして、アノテーションなしの画像をどんどん取り込んでいき、そこに映し出された病変を認識していくという取り組みも始まってはいます。ですが、今現在、臨床現場で使われている内視鏡AIはすべて、内視鏡専門医が1枚1枚しっかり病変を認識して印をつけ、アノテーションしたデータを覚え込ませたものです」と斎藤さん。

だからこそ、表面型腫瘍や発見の難しい早期がんを多く学習している日本発の内視鏡AIが世界中から期待されているのだという。

3社の内視鏡AI、膨大なデータ量

現在、日本で市販され、臨床現場で使われているAIを搭載した内視鏡画像診断支援ソフトウェアは3種類。

2019年3月に発売されたオリンパス製の「EndoBRAIN」。これは国内で初めて薬事承認を取得したAI製品だ。その後、2020年11月に富士フィルムメディカルの「CAD EYE」、そして斎藤さんが直接開発に関わった日本電気(NEC)製「WISE VISION」は2021年1月に発売された。

先行したオリンパスの「EndoBRAIN」は、その後も病変の検出をサポートする「EndoBRAIN-EYE」、深達度を判定して腺腫や粘膜内がんと浸潤がんを見分ける「EndoBRAIN-Plus」と進化し続けている。

最も新しいNECの「WISE VISION」は、オリンパス、富士フィルム、PENTAXという3社の内視鏡すべてに搭載可能という強みを持つ。他の2社製品はそれぞれ、自社の内視鏡にしか搭載できない中にあって、「WISE VISION」のこの強みは、内視鏡AIの普及に一役買いそうだ。

ちなみに、AIに学習させているデータ量は、メーカーによって少しずつ違う。

「EndoBRAIN-EYE」は9,000病変と6万枚の画像データ、「CAD EYE」は1,132病変の20万枚の画像データ、「WISE VISION」は1万2,000病変の25万枚の画像データがインプットされているそうだ。いずれにせよ、どれも膨大なデータ量がインプットされていることに変わりはない。

大腸内視鏡検査はどう変わる?

これほどの頭脳を持つAIが診断をサポートしてくれると、内視鏡検査はどのように変わるのだろうか。

「肉眼では非常に見つけにくい場所でも、画像に映りさえすれば、AIは確実に拾い上げてくるというのが大きい」と斎藤さんは指摘し、さらに続けた。

「例えば、ヒダ裏などカメラに映りづらい場所に病変があって、スコープを抜くときに、ほんの一瞬だけ、しかも病変の一部だけがカメラに映るというケースも結構あるのです。ですが、一瞬でも、ほんの一部分でも、カメラに映りさえすれば、AIなら見逃さず見つけ出すことができます。また、内視鏡医がある病変に着目しているとき、画面に映り込んでいる端のほうの病変も、AIなら見逃さずに指摘することが可能です」

どんなに熟練の内視鏡医でも、一瞬だったり、ほんの一部分しか映っていない病変を見つけるのは至難の業。そこに発揮される力こそがAIの強みだ。

病変の発見率は、AIを搭載することで10%以上あがることがランダム化試験によって、すでに証明されているそうだ。病変の見逃しが10%減るのは、検査を受ける患者さんにとって大きな福音になることは間違いない。

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