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化学放射線と全身化学療法を術前に行うTNT療法が話題 進行下部直腸がん 手術しないで完治の可能性も!

監修●秋吉高志 がん研有明病院大腸外科副部長
取材・文●半沢裕子
発行:2022年5月
更新:2022年5月

  

「とくに肛門から5㎝以内、そのまま手術すると人工肛門になる確率の高い患者さんには、TNT療法とWatch&Waitという選択肢がある、ということをぜひ知って欲しい」と語る秋吉高志さん

進行下部直腸がんの術前化学放射線療法は、がんを縮小して手術できるため肛門を温存できる確率も高まり、術後の局所再発を抑えるとの評価は世界的に定着しています。

近年、さらに術前化学放射線療法と、術後に行われていた全身化学療法をすべて術前に行う「TNT療法」という新しい治療法が登場。世界でどんどん広がっています。TNT療法を行うと、3年間の手術回避率は5割を越えたという米国の中間試験結果も最近出ています。がん研有明病院で行なっている下部直腸がんの術前化学放射線療法と、TNT療法、Watch&Waitについて聞きました。

術前化学放射線療法(CRT)は世界標準ですが、日本では?

直腸は肛門に続く全長15㎝ほどの器官ですが、より肛門に近い下部直腸にできるがんは大腸がんの中でも予後が悪く、がんが肛門に近い場合は人工肛門(ストーマ)が避けられません。また、手術後の局所再発や、肺などの他臓器に転移する確率も高いことで知られています。

ごく早期は内視鏡切除のみで根治しますが、ステージⅡ、Ⅲの進行直腸がんになると手術と術後補助化学療法が行われます。日本の標準治療は、肛門管のすぐ上まで直腸間膜を全部切除する直腸間膜全切除(TME)で、加えて骨盤の側方領域のリンパ節を郭清(かくせい)する側方(そくほう)郭清も行われます。これは日本独自で、いわば拡大手術です。

側方リンパ節には血管や神経が多く、側方郭清を行うと排尿機能、性機能などに影響が出る可能性があるので、必要のない人にはなるべく行いたくないです。

直腸間膜全切除(TME)とTMEに側方郭清を加える比較試験(JCOG0212)が日本で行われ、その結果が2017年に公表されました。TME単独に比べ側方郭清を加えると、局所再発率が有意に改善するという結果が出ました。それにより日本ではTME+側方郭清が標準治療と位置づけられています。

しかし、世界標準は、術前化学放射線療法(CRT)で、側方郭清はほとんど行われていません。早くから術前CRT+手術(±術後補助化学療法)が標準治療と位置づけられ、手術だけの治療と比べ治療成績が優れているとの報告も多数あります。

当院(がん研有明病院)では、2005年から術前CRTに取り組み、2019年12月末までに700人以上の進行下部直腸がん患者さんに行い、5年全生存率90.1%、5年局所無再発生存率96.1%という成績を上げています。

これまでは、術前CRTを行った場合でも、手術(TME)を行うことが前提でした。しかし、最近は術前CRT後に治療効果が非常に高い患者さんに対して、Watch&Wait(ウォッチ&ウェイト)というすぐに手術をせずに経過観察するという選択肢が入ってきました。

日本では手術手技の向上で再発を防ぐ戦略をとってきましたが、側方郭清の成績がいいから放射線治療はいらないというのが成立しなくなってきています。ですから取り入れたいと考えている大腸外科医は増えてきていると思います(図1)。

術前化学放射線療法(CRT)とはどんな治療で、肛門温存は可能ですか?

当院で進行下部直腸がんに対して行う術前CRTは、次のとおりです。

1.8Gy(グレイ)の放射線を28回(計50.4Gy)、または2Gyを25回(計50Gy)照射するとともに、放射線照射日にゼローダ(一般名カペシタビン)という抗がん薬を内服してもらいます。ゼローダには放射線の効果を高める増感作用があります。照射時間自体は数分間ですが、毎週5日間、5週間以上の通院が必要です。

術前CRTを行う最大の目的は、術後の局所再発率を下げることですが、放射線を照射することで術前にがんを小さくし、肛門を温存できる可能性が高くなることも期待して行います。cしかし、肛門から4㎝くらいなら治療で小さくなれば温存できる可能性は高くなりますが、肛門から3㎝以内の進行がんでは術前CRTを行っても、手術を行うとなると肛門を温存することは難しい場合も多いです。

また、側方リンパ節に転移が疑われる症例では、術前CRTを行わずに手術+側方郭清だけでは局所再発率や遠隔転移率が高いことが知られています。しかし、術前CRT後に側方郭清を含む手術を行えば、治療成績はきわめてよいのです。当院では、側方郭清は術前CRTを行った患者さんの約3割に行っています。

一方、術前CRT後に手術を行うと、病理検査でがんが消えた(pCR:病理学的完全奏効)症例が15%近くあります。そうした患者さんは手術を行わずとも治癒する可能性があります。もしpCR率がもっと高くなれば、手術を受けなくてもよい患者さんが増えるかもしれません。そんな中、当院でも取り組み始めたのがTNT(トータル・ネオアジュバント・セラピー)療法です。

TNT療法とWatch&Waitはどんな治療で、どこが新しいのでしょうか?

TNT療法は進行直腸がんの治療成績をさらに向上させるため、術前CRTに加え、これまでは術後に行われていたFOLFOXやXELOXなどの全身化学療法を、すべて術前に行う方法です。

具体的には、術前CRTが終わった1カ月後くらいに全身化学療法を行います(術前CRTの前に全身化学療法を行う場合もあります)。そして、治療が終了した後の画像検査でがんが消えた可能性(cCR:臨床的完全奏効)が得られた患者さんに対して、Watch&Waitという監視療法(慎重な経過観察)を行います。

臨床的完全奏効(cCR)とは、組織を調べて完全奏効を確認する病理学的完全奏効(pCR)と違い、画像(CT、MRI)や内視鏡などでがん組織が確認できない状態を指します。

Watch&Waitの最初の大きな報告は2004年で、術前CRT後に手術を受け、病理学的完全奏効(pCR)が確認された22例と、術前CRT後に臨床的完全奏効(cCR)が得られ、手術をせずWatch&Waitした71例を比較したところ、Watch&Wait群が手術群と同等どころか、上回りました(全生存率で88%対100%)。

Watch&Waitの良好な報告はその後も各国から相次ぎ、今日ではNCCN(米国)、ESMO(欧州)など世界の主要なガイドラインに選択肢の1つとして記載されています。

今日、進行下部直腸がんの治療では、臨床的完全奏効からWatch&Waitに持ち込み、できるだけ手術を回避することが、世界的にホットな話題となっています。

つまり、TNT療法とWatch&Waitは、治療戦略の一大転換と言えます。今までの手術をすれば局所再発は少ないという手術前提の話ではなくなってきているのです。再発を抑える治療というより、再発を抑えながら手術回避に持ち込む治療戦略だからです(図2)。

当院は日本で最も早く2012年にTNT療法を始め、2017年からWatch&Waitに取り組み始めました。2019年までに200人以上の患者さんにTNT治療を行ってきましたが、病理学的完全奏効(pCR)が30%に達しています。Watch&Waitは慎重に導入し、これまで約50人の患者さんに行ってきましたが、約70%の患者さんではがんが再増大していません。つまり、手術せずに経過観察しているということです。

私が初めて経験したWatch&Waitの患者さんは30代前半の男性で、手術なら確実に人工肛門でした。Watch&Waitを行いすでに6年になりますが、手術を行なっていないため、人工肛門も排便障害もなく普通に生活されています。

FOLFOX療法=5-FU(一般名フルオロウラシル)+ロイコボリン(同ホリナートカルシウム)+エルプラット(同オキサリプラチン)の3剤併用療法

XELOX療法=ゼローダ(同カペシタビン)+エルプラットの2剤併用療法 別名CapeOx、CAPOX

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