~世界頭頸部癌学会(IFHNOS)が宣言~
特別企画『世界頭頸部がんの日』予防と早期発見を目指して、正しい知識を世界規模で普及
7月27日は「世界頭頸部がんの日」。
世界頭頸部癌学会(IFHNOS)が、昨年(2014年)7月に米ニューヨークで開催した第5回IFHNOS会議において、頭頸部がんの予防と早期発見を目指して正しい知識を世界規模で普及させることを目的として、毎年7月27日を「世界頭頸部がんの日」とすることを宣言し、定められた。
がんサポートでは「世界頭頸部がんの日」を機に、日本頭頸部癌学会(理事長:林 隆一・国立がん研究センター東病院頭頸部外科長)の協力を得て、特別企画として予防から最新治療までを取材した。
<基礎知識>
予防可能で、治療の進歩で治癒も可能
頭頸部がんは発生頻度ががん全体の5%と他のがんに比べて低く、認知度はあまり高くない。しかし、最近、著名なミュージシャンが相次いで喉頭がんで亡くなったり、喉頭がんと診断されることにより、にわかに注目度が高まってきている。頭頸部がんの中では、口腔がんが最も多く、次いで喉頭がんとなっているが、これらの発症原因として喫煙や飲酒などが大きくかかわっている。また性生活の変化などにより、ヒトパピローマウィルス(HPV)が原因とされる咽頭がんのケースも増えてきている。頭頸部がんについての基礎知識を亀田総合病院頭頸部外科部長の岸本誠司さんに伺った。
早期発見で QOLを維持した治療も
頭頸部がんとは、口、鼻、のどのがんだ(図1)。全てのがんの5%と発生頻度があまり高くないため、知名度・認知度はあまり高くない。岸本さんは「頭頸部がんという総称に馴染みがないかもしれませんが、胃や大腸のがんを消化器がんと呼ぶのと同じです。頭頸部がんを良く知ってもらうことで、予防もできるし、早期発見もできます。治療法も進化しているので、早期発見できれば予後も良好となりQOL(生活の質)を低下させずに生活できます」と話す。
頭頸部がんの5年生存率は喉頭がんでは80%近く、口腔・咽頭がんでは50%強と予後がいいケースも多い。さらにリスク要因が判明しているがんも多い。
「禁煙・節酒」を提唱
日本頭頸部癌学会では数年前から「禁煙・節酒宣言」と題して、啓発活動を続けてきた。岸本さんは「喉頭がんはたばこが大きな要因です。吸わない人よりも30倍以上罹患率が高い。毎日喫煙する危険度でみると、寄与危険度は肺がんを上回っている。たばこに関しては、すぐに止めたほうがいいという啓発です」ときっぱり言う。
アルコールに関しては、「たしなむ程度とし、日本酒換算で1日1~2合なら許容範囲ですが、飲み過ぎはいけません。とくにお酒を飲んで顔が赤くなるタイプは危ないです」
岸本さんは、「世界頭頸部がんの日」を機にさらに啓発活動に力を入れるという。「頭頸部がんは予防もできるし、罹患してしまっても医療の進歩で治せるがんです。疾患についてよく知っていただきたいと思います」
<治療の現状>❶外科手術
内視鏡手術で経口的にがん切除
頭頸部は発声、食事など重要な機能が集中するので、とくに外科手術の難しさが指摘されてきた。近年は内視鏡を利用して経口的に病変部を切除する方法や再建法の進歩により、進行例においても機能を温存した手術が可能となっている。外科手術の最新事情を国立がん研究センター東病院頭頸部外科長(日本頭頸部癌学会理事長)の林 隆一さんに伺った。
「頭頸部表在がん」に内視鏡技術を導入
「頭頸部領域には、食事をしたり、会話をしたりという日常生活で欠かせない機能がたくさんありますので、機能の温存とがん治療の両立が大きな課題です。その可能性を広げる技術の進歩が続いています」
林さんは、その1つに内視鏡手術を挙げる。東病院では2002年から取り組んでおり、今は各地の大学病院やがん専門病院まで普及し、手術件数も増えているという。
口から挿入した内視鏡で咽頭や喉頭の表在がんを診断し経口的に切除する。皮膚を切らずに病変を切除できるため、術後の嚥下機能や発声機能の低下を最小限に抑えることが可能になる。
術式は2つあり、従来から喉頭がんに対して耳鼻咽喉科で行っていた硬性内視鏡を使う方法と、胃・食道で使用する軟性内視鏡(NBI)を消化器の医師と協力しながら使用する方法。表在がんの発見には、NBIや拡大機能など内視鏡の技術進歩が大きく寄与している(写真2)。
表在がんとは、上皮にあって深い所にある筋肉までは達していないがんのこと。食道がんなどで使われる概念だ。食道がんは咽頭がんを合併していることも多く、食道がんの検査から早期段階の咽頭がんが見つかるケースも多い。このような背景もあり、消化器領域の医師との連係が進んだ。
そして、日本では臨床試験として行われている経口的ロボット支援手術にも期待が集まっている。「ダヴィンチ」の名で知られ、日本でも前立腺がんで保険適用されている。臨床試験の対象は中下咽頭がん、喉頭がんで、京都大学、東京医科大学、鳥取大学で行われている。
頭頸部がん治療の進歩は機能温存とともに
~「世界頭頸部がんの日」に寄せて~ 日本頭頸部癌学会理事長 林 隆一さん
頭頸部がんは認知度という点では一般の方に対しても、医療関係者に対してもまだ十分ではありません。当学会では、事業として頭頸部悪性腫瘍登録や診療ガイドラインの発刊を行っており、治療の標準化、均てん化に力を入れていますが、「どのような治療が行われているのか」「新しい情報は何か」といった情報発信にも一層努めていきたいと考えています。
頭頸部がんは部位によっては症状が出やすいことがあります。口内炎と思って放置するとそれががんということもあるので、症状が続くようであるならば医療機関を受診することが大切です。また、声のかすれが喉頭がんであったり、頸部のしこりが咽頭がんの転移だったということもあります。一方、内科医が食道や胃の検査の際に早期発見することもあります。
機能を温存してがんを治療する難しさはありますが、機器、薬剤、診断や治療技術の進歩で治療成績は上がっています。進行がんでは、以前は拡大切除するとほとんど機能を残せなかったのですが、遊離組織移植の導入により今は声や嚥下機能を残せるようになりました。陽子線やIMRT(強度変調放射線治療)、重粒子線など放射線治療技術も進歩し、放射線治療と抗がん薬との併用療法も機能温存治療として効果を上げています。分子標的薬も頭頸部がん治療に導入され、多くの新しい治療開発が進んでいます。
当学会は、耳鼻咽喉科・頭頸部外科、放射線科、歯科口腔外科、形成外科、外科、腫瘍内科など幅広い専門家が参加しています。世界的にも珍しい学際的な学術団体として、よりよい集学的治療を開発し広めていく所存です。
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