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性の多様化によって中咽頭がんが急増中 HPVが原因の中咽頭がんに気をつけよう!

監修●山下 拓 北里大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教授
取材・文●伊波達也
発行:2019年10月
更新:2019年10月

  

「HPV感染による中咽頭がんは日本でも増え続けています」と
語る山下拓さん

婦人科がんである子宮頸がん発症の原因となるのが、HPV(ヒトパピローマウイルス)への持続的な感染だ。このHPVへの感染が、男性に多い中咽頭がんの発症に大きく関与しているということをご存じだろうか。

近年、HPVの感染が原因で起こる中咽頭がんが世界的に急増しているという。もちろん日本も例外ではない。これまでの中咽頭がんとは異なる、HPV感染が原因の中咽頭がんについて、北里大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教授の山下拓さんに伺った。

世界的に増えているHPVが原因の中咽頭がん

HPVと言えば、子宮頸がんの原因になるウイルスとして認識している人がほとんどだろう。

子宮頸がんは、ワクチン接種による1次予防、検診による2次予防で防げるがんである。しかしながら、わが国では、神経障害などの副反応の問題が大きく取り上げられた結果、現在HPVワクチン接種の積極的な奨励は中断されており、多くの論議を呼んできた。

そのHPVが、男性に多い頭頸部がんの中の、中咽頭がんの原因にもなっているという。

「欧米では1980年代からすでに、HPV関連の中咽頭がんは増加傾向にありました。米国SEER(Surveillance Epidemiology and End Results)プログラムのデータによると、中咽頭がんのうち、HPV関連の中咽頭がんの比率は、1984~1989年では16.3%だったものが、2000~2004年には72.7%にまで増加しました。その後も増え続けています。

わが国でも2014年に報告された多施設共同による前向き試験の結果では、HPV関連の中咽頭がんが50.3%にのぼることがわかっています。そして今後さらに増加することが予想されます」

そう説明するのは、北里大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教授の山下拓さんだ。

単施設による報告も数々ある。例えば、大阪大学の報告では、37%(1995〜1999年)だったのが、48%(2010〜2012年)に増加したという。北海道大学の報告では、29%(1998~2008年)だったのが、48%(2009~2012年)と増えている。

米国では、年間総発症数で、中咽頭がんが子宮頸がんをすでに上回っている。HPVワクチン接種により子宮頸がんは年々減少しているのに対し、中咽頭がんは急激に増えていて、その差は今後も開いて行くと予測されている(図1)。

しかしながら、わが国ではワクチン接種がほとんど行われていないために、いまだに子宮頸がんが増加し続けているが、HPV感染による中咽頭がんも確実に増えている。

米国SEER=1973年から米国のがんの罹患率などがんに関する統計データを収集している

40〜50代の男性が多いHPV感染の中咽頭がん

HPV関連の中咽頭がんは、40〜50代の男性で増えている。

従来の(非HPV)中咽頭がんは、通常、喫煙や飲酒、口腔内不衛生などの生活習慣が原因によって発症することが知られているが、HPV関連の中咽頭がんの場合は、オーラルセックスなど性行為の多様化が原因とされている。

そして、「HPV関連の中咽頭がんには、従来の中咽頭がんとは大きく異なる特徴がある」と山下さんは語る。

「HPV感染が原因の頭頸部がんの特徴は、中咽頭に集中していることです。中咽頭の中でも粘膜のバリアが弱くウイルス感染しやすい部位である、口蓋扁桃(こうがいへんとう)の陰窩(いんか)という奥深い部分と舌根に、特異的に発症することです。そして、頭頸部から検出されるのは、HPVの中でも悪性腫瘍を生じやすいハイリスク型15種類のうちの、16型が約90%と多いことです」(図2)

従来の中咽頭がんに比べて予後が良い

治療後の予後(よご)が良好であることも特徴だ。

その理由を山下さんはこう説明する。

「従来の中咽頭がんは、喫煙や飲酒によることが多く、この2つの要因により、p53というがん抑制遺伝子が傷つくのです。一方、HPV関連の中咽頭がんの場合は、p53から出てくるタンパクを分解するだけで、p53がん抑制遺伝子自体は傷がつかないため、がんをアポトーシス(細胞の自己死)へ導くルートが保たれていると考えられているからです。もう1つは、従来の中咽頭がんは、咽頭がんや食道がんになるなど、3〜4割は他の部位にもがんを発症するのですが、HPV関連の中咽頭がんは、それが少ない点も予後が良い理由と考えられると思います」

実際にHPV関連の中咽頭がんの予後が良いことは、いくつかの臨床試験によっても証明されている。

例えば、進行がんに対する2種類の導入化学療法を比較した「TAX324試験」では、5年粗生存率ではHPV陽性と陰性で、82% vs. 35%だった。5年無再発生存率では、78% vs. 28%という結果が報告されている。

シスプラチン(商品名ブリプラチン・ランダなど)を同時併用した、化学放射線療法において、過分割照射と通常分割照射を比較した「RTOG0129試験」では、3年粗生存率ではHPV陽性と陰性で、84.2% vs. 57.1%という結果だった。

このような検証の結果、HPV関連の中咽頭がんは、通常の中咽頭がんとは別の病気とみなすべきであると考えられるようになり、がんの進行度を示すTNM分類も通常の中咽頭がんとは別のものが確立された。

「欧州と米国の7施設の多施設共同試験で、1,907例のHPV関連の中咽頭がんを対象に、予後を最もよく予測する新たな分類が検討されました。そして、その結果に基づき新たなTNM分類が確立しました」

TNM分類の変更点としては、切除不能であるT4bという概念がなくなった。

原発不明がん頸部リンパ節転移でHPV陽性(p16陽性)を示す症例は、HPV関連の中咽頭がんとされた。さらにリンパ節転移の単発、多発の概念が廃止されたことなど、いくつかの変更がなされた(図3)。

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