頭頸部がん治療後の嚥下障害や構音障害などもリカバーできる
がん治療後も、リハビリを受けることで生活の質を高める
静岡がんセンター
リハビリテーション科部長の
田沼明さん
脳卒中などの病気では、リハビリテーションが治療の一環として行われているが、がんの治療後にもリハビリが求められることは多い。
とくに、頭頸部がんは治療による機能障害が大きい部位。
先進的にリハビリに取り組んできた静岡がんセンターリハビリテーション科部長の田沼明さんによると、手術を受ける「患者の6~7割にリハビリが必要」という。
各科からリハビリの依頼
がん治療でも、今は神経温存や直腸温存など、できるだけ機能を温存する方向で治療が行われています。しかし、それでもがんの摘出のために、さまざまな機能が損傷されることがあります。治療後の生活がどうなるのか、患者にとってはもっとも不安な要素の1つです。
これに対して、静岡がんセンターでは、開院時からすでにリハビリの必要性を認識し、リハビリテーション科を設置。現在は、医師の田沼明さんを中心に、理学療法士5名、作業療法士3名、言語聴覚士2名で、リハビリにあたっています。
田沼さんによると、ほぼ全科からリハビリの依頼があるといいます。
「たとえば、食道がんは手術が大がかりになるので、体力の低下が大きいし、嚥下障害を起こしたり、呼吸器の合併症も多いのです。婦人科や乳腺外科であればリンパ浮腫。とくに、乳がんは手術件数が多いので、患者数からいえば1番依頼が多いですね。リンパ浮腫予防や肩の可動域のリハビリは、乳がんのクリニカルパスにも入っています」
クリニカルパスというのは、簡単にいえば治療スケジュールのようなもの。乳がんの場合、手術や再発予防治療などと並んでリハビリが最初から治療スケジュールに組み込まれているのです。
実際には、リンパ浮腫のリハビリを行っている施設はあまりないので、他の病院で治療を受けた患者さんも来ているといいます。これも、リハビリのニーズを物語るものです。
「効果には個人差がありますが、パンパンに腫れ上がっていた腕が動かしやすくなるなど、ある程度よくなる人が多いです」と田沼さんは、リハビリの効果を語っています。
ここでは、食道がんでもリハビリがクリニカルパスに入っています。肺がんも以前はクリニカルパスにリハビリが入っていましたが、今は病棟の看護師さんがリハビリを行い、とくに必要と思われる人だけがリハビリ科を受診するといいます。
リハビリが必要な患者は、かなり多く、ここ静岡がんセンターでは、リハビリを行うことがすでに当たり前になっているのです。
機能障害が出やすい頭頸部がん
部位 | 分類 | 手術による後遺症(例) |
---|---|---|
口腔がん | 舌がん 口腔底がん 下歯肉がん 上歯肉がん 頬粘膜がん 硬口蓋がん 口唇がん | 咀嚼障害、嚥下障害、構音障害 |
喉頭がん | 声門上がん 声門がん 声門下がん | 嚥下障害、失声 |
咽頭がん | 上咽頭がん 中咽頭がん 下咽頭がん | 嚥下障害、失声(下咽頭がん) |
鼻副鼻腔がん | 鼻腔がん 副鼻腔がん | 顔面変形 |
唾液腺がん | 耳下腺がん 顎下腺がん 舌下腺がん | 顔面神経麻痺(耳下腺がん) |
聴器がん | 外耳がん 中耳がん | |
甲状腺がん | 反回神経麻痺 | |
副甲状腺がん |
なかでも、治療による機能障害の影響が大きいのが、舌がん、喉頭がん、咽頭がんなど、頭頸部のがんです。
頭頸部は、声を出したり、言葉を話す、ものを飲み込むなど、生活の質と密接に関わる機能が多いだけに、治療による影響も大きいのです。
田沼さんによると、頭頸部がんでリハビリが必要な人は6~7割を超えるといいます。
また、手術の方法をみれば、リハビリの必要性もだいたいわかるそうです。
「舌の場合、切除範囲が半分以下ならば大丈夫なのですが、広範囲になると舌の再建をしても自由に動かすことは難しいので、嚥下障害や構音障害が出てきます。喉頭がんや下咽頭がんで喉頭(「のどぼとけ」にあたるところ)を含めて切除した場合には失声、つまり声が出なくなります。また、嚥下障害もいろいろな形で起こってきます」
嚥下障害とは飲み込みの障害、構音障害は言葉を作る機能の障害を指します。いずれも生活には欠かせない機能です。
頭頸部がんでは、機能の損傷が少ないという意味もあって、放射線治療がよく行われます。とはいえ、放射線でも嚥下機能の低下が起こりやすいといいます。
頸部リンパ節郭清後の後遺症
一方、案外知られていないのが頸部リンパ節郭清後に起こる僧帽筋の麻痺です。頭頸部がんでは、よく頸部リンパ節の郭清が行われます。
「頸部リンパ節郭清にも、いろいろなレベルの術式があるのですが、副神経を切断した場合はもちろん、温存した場合でも副神経が術中に圧迫されたり、ひっぱられて、僧帽筋の麻痺が出ることがあるのです」と田沼さんは説明しています。
僧帽筋は背中側にあって、肩を動かすときなどに働きます。そのため、麻痺すると、肩をすくめたり、肩甲骨を回して腕を外側からあげる動作ができなくなります。前方からならば、腕をあげることができるので、当初は麻痺に気づかない人もいるそうです。しかし、しだいに肩や腕の強い違和感を覚えるようになるといいます。
「前後の筋肉がバランスよく働くことで、肩もバランスがとれているのです。背中側の僧帽筋が麻痺してしまうと、上腕骨が前方に引っ張られ、さらに麻痺で肩を動かさないので血流も低下し、しだいに違和感が強くなるのです」と田沼さん。
放置すると、違和感だけではなく、肩関節に炎症が起きて、ますます肩が動きにくくなったり、痛みが出るようになるといいます。
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