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肝機能をよりよく維持することは、がんと闘う大きな武器
知っておきたい、小さく、確実に取る肝がん「系統的切除術」

監修:長谷川潔 東京大学大学院医学系研究科肝胆膵外科
人工臓器移植外科学講座講師
取材・文:半沢裕子
発行:2009年9月
更新:2013年4月

  
長谷川潔さん
東京大学大学院
医学系研究科肝胆膵外科・
人工臓器移植外科学講座講師の
長谷川潔さん

肝臓そのものが健康なら、臓器をかなり大きく切除しても、数カ月で再生する。
その手術は、がんが転移するルートである門脈の支配域を、領域ごとに切除する区域切除になります。
「門脈の支配域」とはどんなふうに確定するのか、どこをどのように切るのか。系統的切除ができる肝臓の秘密を探ります。

肝臓をいくつかの領域に分け、領域ごとがんを切る

通常、がんの手術というと、がんのできた部位とその周辺を、がん細胞の取り残しがないと思われる範囲内で、できるだけ小さく切ることが多いと思います。しかし、肝臓がんの場合は、違う考え方で手術が行われます。

肝臓を全部取ったら人間は生きられませんが、肝機能が正常な場合、肝臓は全体の3分の2を取っても数カ月で再生し、元の大きさに戻るという特徴をもっています。しかも、日本人の肝臓がんの94パーセントを占める肝細胞がんでは、同じ領域に複数のがんができやすいことが知られています。

そのため、がんが見つかった場所を、一定の領域ごと切除する手術が、標準治療として行われています。それが系統的切除です。「区域」の分類には、肝臓を右葉・左葉に分け、さらに右葉を後区域と前区域、左葉を内側区域と外側区域に分けるヒーリー&シュロイ分類と、肝臓を8つの区域に分けるクイノー分類の2つがありますが、医療の現場ではこの2つが混然と使われているのが現状です。

なお、肝臓がんの場合、治療としての「全摘」はありえませんが、全摘後に別な肝臓を移植する肝移植は、肝機能のよくない肝臓がんの標準的な治療法として、肝臓がん治療のガイドラインにも位置づけられています。

また、患者さんが間違えやすいものに、右葉と左葉の区別があります。肝臓は形が一見、2つに分かれているため、その右側が右葉、左側が左葉と考えられがちですが、右葉と左葉を実際に分けているのは、門脈、肝動脈、静脈などの大きな血管。それらの左右の境界は外見上の区切りより右寄りを走っているので、実際に切除するのも、外見上の区切りより右寄りになります。

切り方はまず右葉全体、左葉全体などを切る「葉切除」があります。右葉は左葉のおよそ2倍の大きさがあるので、左葉をとる、あるいは、右葉の半分(後区域か前区域)をとると、肝臓全体の3分の1を取ることになり、右葉を全部取ると全体の3分の2を取ることになります。

ヒーリー&シュロイの前区域、後区域、内側区域、外側区域や、クイノーの8区域のどれかを切る切除方法は「区域切除」と呼ばれ、さらに小さな区域を特定して切る場合は「亜区域切除」と呼ばれます。

[クイノーの区域]
クイノーの区域:肝臓はこのように、8つの区域に分けられる

肝臓はこのような8つの区域に分かれ、区域ごとの切除が可能になった。1番から時計回りに番号がふられている


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