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暦年齢よりも、1人ひとりの肉体年齢に合った治療を

認知症等の機能評価を行い高齢者個々に合った
肺がん治療を

監修●岡本浩明 横浜市立市民病院呼吸器内科・腫瘍内科部長
取材・文●伊波達也
発行:2012年11月
更新:2013年6月

  
高齢者にとってよりよい肺がん治療の研究・実践を行う岡本浩明さん 高齢者にとってよりよい肺がん治療の研究・実践を行う岡本浩明さん

高齢者の肺がん治療では、化学療法と放射線の併用を避けたり、単剤に絞った治療が一般的だった。

一方で、合併症のリスクが低い元気な高齢者には、より積極的な治療ができるかを探る試験が各国で進められている。

議論が集まるなか、個人に合った治療を選ぶために、高齢者の機能評価という視点でのアプローチも始まっている。

暦年齢より肉体年齢を

肺がんの死亡率は、すべてのがんのなかで1位ですが、その6~7割を占めるのが70歳以上です。とくに男性では75歳以上で肺がんによる死亡者が著しく増加しています。今後10~20年は、団塊の世代が高齢化する時期にさしかかり、患者数、死亡者数ともに、ますます増加することが予想されています。

では、肺がん治療における高齢者の定義は何歳以上でしょうか。横浜市立市民病院呼吸器内科・腫瘍内科部長の岡本浩明さんはこう話します。

「従来、我が国では、肺がん治療における高齢者について、日本肺癌学会のガイドラインにより、70歳以上と定めていましたが、2012年のガイドライン改訂で75歳以上に引き上げられました。その背景には、患者さんの高齢化があります。現在、75歳以上は約4割、70歳以上では約6割にもなります」

同科も肺がん患者さんの平均年齢は、72~73歳だといいます。それでは高齢者のがんには特徴があるのでしょうか。岡本さんは続けます。

「高齢者だからといってがんの病理面に特徴があるということはありません。病期ごとの治療方針についても基本的には若年者と同じです。年齢の定義はあるものの、治療方針は、暦年齢よりは肉体年齢を考慮して決めています」(図1)。

そこで1番重要になってくるのが全身状態です。

「肝機能や腎機能など、臓器機能が低下していると、副作用が出やすくなります。糖尿病や心臓病、脳血管障害、骨粗鬆症といった他の病気をもつ人が約8割いますが、化学療法は持病が悪化すると中止もしくは延期せざるをえないので、肺がんの治療を進めるためには、それらの病気をコントロールする必要があります」

このため、全身状態に配慮した治療が重要になってくるのです。ところが高齢者のみで評価された臨床試験の結果はまだまだ少なく、治療指針は十分に確立されているわけではないそうです。

「将来に向けて、高齢者向けの治療指針を確立することは重要だと思います」

■図1 肺がんの基本的な治療選択基準
  小細胞肺がん 非小細胞肺がん
1期 手術⇒術後化学療法 手術⇒術後化学療法*
2期 化学療法+胸部放射線 手術⇒術後化学療法
3a期(局所進行期) 化学療法+胸部放射線 手術⇒術後化学療法     or 化学療法+胸部放射線
3b期(局所進行期) 化学療法+胸部放射線 化学療法+胸部放射線
4期(進行期) 化学療法 化学療法
1a期は、手術単独で可

3期の局所進行期では化学放射線療法が有効

■図2 放射線治療(単独)と化学放射線併用療法の比較
■図2 放射線治療(単独)と化学放射線併用療法の比較

(Atagi et al. Lancet Oncol 2012)

では、現在の高齢者の肺がんにおける標準的な治療について整理しましょう。

「肺がんは手術ができれば、根治する確率が高まりますので、早期がんの1期では、手術が受けられる人には手術をします。しかし、手術適応になる人は肺がん全体の20%程度です。高齢者の場合は、持病などのために、1期でも手術のできない人が約3割います」

その場合には、通常の放射線治療、あるいは3次元的にピンポイントでがんをたたく定位放射線治療を実施します。

2期でも、手術可能なら、リンパ節郭清も含めた手術をして、術後に化学療法を実施。手術ができない場合は、通常の放射線治療を行います。

3期は、進行の度合いにより手術可能例と不能例に分かれます。手術適応のない局所進行期の場合、高齢者でも全身状態がいい人は、放射線治療と抗がん剤治療を組み合わせた化学放射線療法が選択できますが、通常は、抗がん剤は副作用があるため、放射線治療単独が選択されています。 しかしこれを覆す結果を、岡本さんらが2012年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で報告しました(図2)。

「非小細胞がんの局所進行期3期について、放射線治療単独より、パラプラチンの少量連日投与と放射線治療を併用したほうが、有効性が高いとする臨床試験の結果です。対象となったのは、71歳以上でPSという全身状態の評価が0~2の人でした」

この結果は、有力医学雑誌に掲載され、今後は標準的な治療法になることが期待されています。

パラプラチン=一般名カルボプラチン

進行期では単剤か2剤併用か?

■図3 進行非小細胞肺がんの1次治療
■図3 進行非小細胞肺がんの1次治療

(Atagi et al. Lancet Oncol 2012)

3期以降の、高齢者に対する進行がんの化学療法については、ここ数年で少しずつ臨床試験の結果が出ています。

現在、単剤か2剤併用かが、世界的な議論となっています。大きな臨床試験において、相反する結果が出ており、決着がついていないのが現状です。

日本では、JCOGとWJOGが共同で実施した比較試験において、タキソテール単剤の3週おき投与に対し、シスプラチン+タキソテール毎週投与の優越性が証明されなかったため、単剤が標準治療と結論づけました。

この結果を受けて現在、タキソテール単剤と、パラプラチン+アリムタの2剤併用についての第3相試験がJCOGとWJOGによって計画されています。

とはいえ、高齢者への実際の治療については、暦年齢のみで判断するのではなく、全身状態を評価して、単剤か2剤併用かを決めていくべきというのが定説です(図3)。

「高齢者に対しては、体が元気であっても、一般と同じスケジュールで治療することには慎重になる必要があります。というのは、年齢とともに、腎臓や肝臓の血流量が低下しますし、チトクロームP450という肝臓のなかの酵素が30%ぐらい下がります。そうなると臓器機能の感受性が増して、副作用が出やすくなるのです」(図4)。

副作用が強く出るのを回避するためには、元気な高齢者で2剤併用が可能な場合でも、分割して少量ずつ毎週投与するなど、工夫が必要です。

■図4 抗がん剤に対する加齢の影響
要因 影響を受ける抗がん薬
腎血流量の低下 カルボプラチン、シスプラチン、マイトマイシンC、ドキソルビシン
肝血流量の低下 ドキソルビシン、ビンデシン、ビンクリスチンビノレルビン、パクリタキセル、ドセタキセル、マイトマイシンC
チトクロームP450活性の低下 ドセタキセル、パクリタキセル、エトポシド、イリノテカン、ビノレルビン、ゲフィチニブ
臓器障害の感受性亢進 (末梢神経障害)
ビンデシン、ビンクリスチン、 ビノレルビン
(末梢神経障害、 造血器)
ドセタキセル、パクリタキセル

 

JCOG=日本臨床腫瘍研究グループ WJOG=西日本がん研究機構 タキソテール=一般名ドセタキセル シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ アリムタ=一般名ぺメトレキセド

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