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肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の治療効果は腸内細菌が関係!
語る庄司文裕さん
がんの治療で重要な存在になってきた免疫チェックポイント阻害薬。肺がんの治療でもすでに多くの患者さんに使用されるようになっています。この免疫チェックポイント阻害薬の効果に、患者さんの腸内細菌叢の状態が関係するという研究が、欧米を中心に報告されました。
腸内細菌叢は人種間で大きく異なるため、日本人ではどうなのかを調べるため、九州がんセンター呼吸器腫瘍科医長の庄司文裕さんが中心になり臨床試験が行われ、やはり腸内細菌叢の状態が関係することが明らかになりました。
免疫チェックポイント阻害薬の効果は腸内細菌叢の影響を受ける
ここ20年ほどの間に、進行・再発非小細胞肺がんの治療は大きく進歩してきました。2000年代になると分子標的薬が登場し、その後、多くの種類の薬剤が使われるようになりました。2010年代には、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の開発も進みました。多くの臨床試験が行われて、いずれも効果ありという結果が出ています。
現在では、免疫チェックポイント阻害薬を中心とした免疫療法が、手術、化学療法、放射線療法に続く第4の柱になりつつあります。
このように、肺がんの治療で重要な位置を占めるようになった免疫チェックポイント阻害薬。九州がんセンター呼吸器腫瘍科医長の庄司文裕さんによれば、その効果に関して、2018年に興味深い論文が発表されたのだそうです。
「『免疫チェックポイント阻害薬の効果は腸内細菌叢によって修飾される』という内容の論文が3本、この年の『サイエンス』誌に発表されています。いずれも欧米発信の研究でした。
ごく簡単に説明すると、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた人の腸内細菌叢を調べたところ、『レスポンダー(よく効いた人)では腸内細菌叢の多様性が高く、ある特定の菌種が効果に関係していることがわかった』という内容でした。それに対し、ノンレスポンダー(効かなかった人)の腸内細菌叢は、多様性が低いことがわかりました。統計学的に有意な差をもって、そのような結果が示されたのです」(庄司さん)
その後、中国からも、同じような研究結果が報告されたといいます。免疫チェックポイント阻害薬がよく効いた症例では、「腸内細菌叢に特定の菌種が多く認められ、腸内細菌叢の多様性が高いこともわかった」と報告されていたのです。
「免疫チェックポイント阻害薬の効果には腸内細菌叢が関係する」という研究結果が、欧米と中国から報告されたわけですが、その結果が日本人も当てはまるかどうかは不明でした。なぜなら、日本人の腸内細菌は欧米人はもちろん、同じアジア人の中国人とも大きく異なることがわかっていたからです。
この図は、12カ国の人々の腸内細菌叢を示しています。腸内細菌叢のゲノム解析を行って、どのような菌種組成になっているかを調べたものです(図1)。
「日本人の腸内細菌叢は、他の国の人々とほとんど重なっていないことから、独特の腸内細菌叢をもっていることがわかります。同じアジアでも、中国の人たちと似ているかというと、ぜんぜん違っています。こうしたことから、欧米や中国で行われた研究の結果は、日本人には当てはまらない可能性がありました。そこで、日本人を対象とした研究が必要と考え、調べてみることにしたのです」(庄司さん)
日本人でも欧米や中国の研究と同様の結果が得られた
『サイエンス』誌に3本の論文が発表されたのが2018年。その翌年の2019年から2年ほどかけて、九州がんセンターと九州医療センターによる研究が行われました。免疫チェックポイント阻害薬の治療を受けている進行・再発非小細胞肺がんの患者さんを対象に、免疫チェックポイント阻害薬の有効性と腸内細菌叢の関係を調べた研究です(図2)。
「免疫チェックポイント阻害薬がよく効いた患者さんも、効かなかった患者さんも含め、治療中あるいは治療後に便を採取して、解析を行いました。効かなかった患者さんの場合、次の治療が始まるとその影響を受けてしまうので、次の治療が始まる前に便の採取を行っています」(庄司さん)
治療の結果、レスポンダー(よく効いた人)17人、ノンレスポンダー(効かなかった人)11人に分けて、腸内細菌叢の解析が行われました。生物多様性の評価方法には、α多様性とβ多様性がありますが、α多様性は1個体内の多様性を示しています。1個体内で菌数や菌種が豊富で統一性が認められる場合、α多様性が高いとされるのです。このα多様性について調べると、4つのスコアのいずれにおいても、レスポンダーのほうが有意に高くなっていました。
レスポンダーの腸内細菌叢は、ノンレスポンダーのそれに比べ、菌種数も多く、菌種均一性も高いことがわかったのです(図3)。
「この結果は、欧米や中国の研究で示されていた結果と共通するものでした。日本人でも、免疫チェックポイント阻害薬がよく効く人は、腸内細菌叢の多様性が高いことがわかったのです」(庄司さん)
また、レスポンダーやノンレスポンダーの腸内細菌叢に多い菌種もわかってきました(図4)。
緑で示したレスポンダーの腸内細菌叢には、「ブラウチア属」の細菌が多いことがわかりました。ブラウチア属はもともと日本人に多い菌で、有用菌と考えられています。一方、ノンレスポンダーの腸内細菌叢には、「RF32目」の細菌が多いことがわかりました。
「ブラウチア属も、RF32目も、欧米や中国の研究では出てきていません。日本人特有のキーとなる腸内細菌ではないかと考えられています」(庄司さん)
この2つの菌との関連で、免疫チェックポイント阻害薬による治療を開始してから、どのくらいの期間効果があったのかを示したグラフがあります。
ブラウチア属が豊富な人は、豊富でない人に比べ、免疫チェックポイント阻害薬が長く効いていることがわかります。一方、RF32目に関しては、この菌をもっている人は、いきなり効かなくなってしまいます(図5)。
「こうした結果からも、免疫チェックポイント阻害薬の効果には、腸内細菌が深く関わっていると考えられているのです」(庄司さん)
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