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ASCO 2010 肺がん領域で報告された3大エビデンス
高齢者治療、ALK阻害剤、サプリメントの発がん予防に世界的注目!

取材・文:中西美荷 医学ライター
発行:2010年12月
更新:2013年4月

  
写真:ASCO会場

2010年6月に開かれたASCO。
肺がん分野では、高齢者に対する治療と、新しい分子標的治療薬のALK阻害剤が大きな注目を集めた

2010年6月4~8日、米国イリノイ州シカゴにおいて、がんの学会としては世界最大規模となる米国臨床腫瘍学会(ASCO)の第46回年次集会が開催された。
なかでも大きな注目を集めたのは、高齢者に対する治療と、新しい分子標的薬、ALK阻害剤の劇的な効果であった。


ここで紹介するのは、肺がん領域の記者会見で取り上げられた3つの研究である。

司会を務めたメモリアルスローンケタリングがんセンターのマーク・G・クリスさんはこれらを、「わが国でがんによる死亡原因の第1位である肺がんに立ち向かうためのさまざまな取り組み方を象徴するもの」と表現した。

日本でも、年間32万人のがんによる死亡者数のうち、肺がんはもっとも多い6万人を占めている(厚生労働省人口動態統計2005年)。

高齢の肺がん患者2剤併用で生存期間延長

写真:エリザベス・クウォアさん

フランス・ストラスバーグ大学病院の
エリザベス・クウォアさん

非小細胞肺がん患者の半数以上は65歳以上であり、30パーセントは70歳以上である。しかし高齢者に対する治療を評価した臨床試験は少ないのが現状で、これまでイタリアの研究グループの成績などをもとに、単剤療法が推奨されてきた(2003年ASCOガイドライン)。

今回、プレナリーセッション()において、高齢であっても若年者と同様の2剤併用療法を考慮すべきであるとする試験結果が、フランス・ストラスバーグ大学病院のエリザベス・クウォアさんから報告された。

この試験では2005~2009年、世界62施設から70~89歳の進行非小細胞肺がん患者451例を登録。単剤療法[ジェムザール(一般名ゲムシタビン)またはナベルビン(一般名ビノレルビン)]と、2剤併用療法[カルボプラチン(一般名)+タキソール(一般名パクリタキセル)]を比較した。

この併用療法は、年齢を考慮していない他の試験において、単剤より効果的であることが証明されており、サブ解析で、70歳以上の患者においても有用であることが示唆されていた。

当初520例の登録を予定していたが、中間解析によって、併用療法のほうが全生存期間が長いことが明らかになったため、試験は中断された(図1)。

[図1 高齢者の2剤併用療法の効果(全生存期間)]
図1 高齢者の2剤併用療法の効果(全生存期間)

無増悪生存期間(肺がんが増悪なく生存している期間)や1年無増悪生存率(1年間増悪なしで生存している患者の割合)も、単剤療法の3.0カ月、2.3パーセントと比較して、併用療法は6.1カ月、15.4パーセントと優れていた(図2)。

[図2 高齢者の2剤併用療法の効果(無増悪生存期間)]
図2 高齢者の2剤併用療法の効果(無増悪生存期間)

またPS(パフォーマンス・ステータス)と呼ばれる全身状態を表す指標が2の患者や、喫煙者でも、有効であることが示された。PSは状態が良いほうから0~4までの5段階に分かれている。PS2は、歩行や身のまわりのことはできるが、時に介護が必要な身体状態を指す。

プレナリーセッション=その年、もっとも注目すべき4演題が発表される

積極的治療も選択肢に。しかし、有害事象には注意を

クウォアさんらは、「月1回のカルボプラチン+週1回のタキソールという併用療法は、高齢の進行非小細胞肺がん患者に対する治療を一新するものだ」と結論。クリスさんも「4カ月の生存期間延長は大きい」と評価した。

ただし、メリーランド大学グリーンバウムがんセンターのマーチン・J・エルドマンさんが指摘したように、有害事象には十分な注意が必要である。

今回の試験でも、併用療法では好中球減少、発熱性好中球減少、血小板減少などの血液毒性が有意に多いことが示された。

2009年ASCOガイドラインでは、「年齢そのものを治療選択の理由にすべきでない」としており、今回の結果を考慮すれば、「高齢であっても、若年患者と同様の積極的治療を選択肢から排除することなく、合併症や患者の希望等、個々の患者の状態を考慮した上で治療法を決定すべきだ」ということになるだろう。

新たな分子標的薬剤が登場

写真:ユン・ジェ・バンさん

ソウル大学のユン・ジェ・バンさん

がん治療は分子標的の時代に入っており、肺がん治療でもすでに、イレッサ(一般名ゲフィチニブ)などの、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)が、EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺がん患者に用いられている。

2007年、自治医科大学教授の間野博行さんらによって、非小細胞肺がんの原因となる新たな遺伝子変異が発見された。ALKとEML4という2つの遺伝子が融合したEML4-ALK融合遺伝子である。

今回、ソウル大学のユン・ジェ・バンさんはプレナリーセッションで、この変異を有する非小細胞肺がんに対するALK阻害剤・クリゾチニブ(一般名)の第1相試験の結果を発表した。

第1相試験は臨床試験としては最初に行われる試験であり、このように早い段階の研究成果が、プレナリーセッションで取り上げられるのは稀なことである。いかに注目すべき成果であったかがうかがわれる。


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