がんの血管新生を阻害する薬、イレッサに似た薬、副作用を大きく軽減した薬などが続々
ポスト・イレッサの有力な抗がん剤はこれだ

発行:2005年6月
更新:2013年4月

  
写真:坪井正博さん
東京医大外科の坪井正博さん

3剤併用で初めて生存率が改善

写真:アバスチン(一般名ベバシズマブ)

ポスト・イレッサとして、話題を呼んでいる抗がん剤には、やはりイレッサと同じ仲間に属する分子標的治療薬が多い。

従来の抗がん剤は絨毯爆撃のようにがん細胞ばかりか正常細胞も一緒くたにたたくのに対して、ターゲットをがん細胞の増殖や転移に関する因子だけに絞ってたたくのが分子標的薬の特徴。したがって、副作用が軽減され、効果も出るとなれば、こうした薬が求められるのは自然の流れといえる。この分子標的薬の中で、少し前までポスト・イレッサの一番手と目されてきたのがタルセバ(一般名エルロチニブ)と呼ばれる薬だった。しかし、ここへ来て急浮上しているのがアバスチン(一般名ベバシズマブ)と呼ばれる薬だ。

「現在、進行・再発非小細胞肺がんの標準治療はプラチナ製剤を含む抗がん剤2剤による併用療法です。そこで、これにもう1剤分子標的薬を加えて、3剤併用でもっと治療成績を上げようと考えられたのですが、従来の報告では分子標的薬の上乗せ効果はなかったのです。そうした中から初めて生存期間が延長するという成果を上げたのがアバスチンで、その意味で画期的な抗がん剤が登場したというわけです」というのは抗がん剤治療に詳しい東京医科大学病院第1外科の坪井正博さんだ。

写真:米国臨床腫瘍学会(ASCO)

ごく最近公表された米国の大規模な臨床試験で、肺腺がんにおいてアバスチンの効果が初めて示されたというのだ。それは、進行性非小細胞肺がん患者878人を対象に、2001年7月から2004年4月までに行われた比較試験で、標準的な化学療法(タキソールとパラプラチンの併用)に加えてアバスチンの投与を受けた患者のほうが、アバスチンを追加しない化学療法だけを受けた患者より生存期間が2.3カ月(中央値)長く延命したというものだ。坪井さんが言うように、分子標的薬を含む3剤併用で生存率が改善された初めての例となった。確かにこの差はわずかに見えるが、統計学的に意味のあるものだったという。この臨床試験の詳細は、この5月13~17日にフロリダ州オーランドで開催される米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年次総会で発表されることになっているので、本誌が出る頃には話題になっているだろう。

VEGFを妨げがんの増殖を抑える

[分子標的薬の仕組み]
図:分子標的薬の仕組み

従来の抗がん剤は全ての細胞に対し殺細胞効果を示すのに対し、分子標的薬では特定の細胞を標的にして特異的に作用する

[EGFRの活性化とシグナル伝達の仕組み]
図:EGFRの活性化とシグナル伝達の仕組み

正常細胞でのシグナル伝達は活性化状態と不活性化状態が制御されている。がん細胞ではこの制御が不能になっているために異常な細胞増殖をおこす

このアバスチンは、イレッサ同様、分子標的薬に属するが、従来にはなかった新しいタイプの薬である。

実は、がん細胞というのは、がんができたからといって、どんながんでも大きなかたまりになるわけではない。1、2センチ以上の大きなかたまりになるには酸素や栄養源を運ぶ新生血管と呼ばれる血管が必要で、そのためにはがん細胞から血管内皮増殖因子(VEGF)と呼ばれる成長ホルモンなどが産生されなければならない。このホルモンが産生されると、血管内皮が増殖し、新生血管が誘発され、がんが増殖する。実際には、この過程はもっと複雑で、さまざまな要素がからんでいるが、ごくシンプルにいうとそうなる。そこで、このVEGFにターゲットを絞り、これをブロックしてがんの増殖を抑えようとして開発されたのがアバスチンである。がんの成長に不可欠な新生血管を阻害するところから、このタイプの薬は血管新生阻害剤と呼ばれ、いくつもの血管新生阻害剤が開発されている。この一番手として登場したのがアバスチンで、すでに大腸がんでは大きな成果を上げ、昨年2月、米国食品・医薬品局(FDA)から進行・再発大腸がんの治療薬として認可されている。この薬が今また肺がんの分野でも頭角を現してきたというわけだ。

ただ、このようなアバスチンの効果に対して、先の坪井さんはこう注意も喚起する。

「イレッサで明らかになったように、一部の抗がん剤は効果の面では人種差が非常に大きいので、海外で良い効果が出たからといって、日本でも同様の効果が出るとは限りません。海外ですばらしい薬でも、日本ではとんでもない薬になる可能性もあるということです。ですから副作用には十分に注意し、慎重に対処する必要があります」

実際に、米国の臨床試験では、標準的な化学療法だけを受けた患者よりも、アバスチンを追加して受けた患者のほうに副作用が多く見られている。とりわけ肺からのひどい出血が見られたので、この臨床試験ではあらかじめそうした事態が予想された扁平上皮がん患者や喀血(出血を伴う咳)の既往者は対象からはずされてもいる。これは1剤多く加えることによって大きな効果が出るかもしれないが、副作用のほうも大きくなることは十分予想されることではある。したがって、この薬の利用を考える場合、こうした点に思い当たる人は、十分に注意を払う必要がある。

同じEGFR阻害剤、タルセバとイレッサの相違点

[BR21試験における全生存率]
図:BR21試験における全生存率

タルセバを使用した患者の1年生存率31%。一方、偽薬を使用した患者は22%でタルセバ群が統計的に有意に優れていた

[BR21試験の結果]

  タルセバ群 偽薬群
生存期間中央値 6.7ヵ月 4.7ヵ月
1年生存率 31% 22%
無増悪生存期間 2.2ヵ月 1.8ヵ月
非喫煙者の生存期間中央値 12.2ヵ月 5.6ヵ月
全ての評価項目においてタルセバ群が優位に優れていた。なお、奏効因子としては非喫煙者においてのみ統計学的有意差が認められた

[BR21試験における症状悪化までの期間]

  タルセバ群 偽薬群
患者数 中央値 患者数 中央値
298 4.9ヵ月
(3.8-7.4ヵ月)
183 3.68ヵ月
(2-4.9ヵ月)
呼吸困難 353 4.73ヵ月
(3.8-6.2ヵ月)
179 2.89ヵ月
(2-4.8ヵ月)
痛み 343 2.79ヵ月
(2.4-3ヵ月)
179 1.19ヵ月
(1.8-2.8ヵ月)
有害事象として頻度が高かったのは疲労、発疹、食欲低下、下痢などだった。治療中止に至ったのはタルセバ群で5%(偽薬群で2%)だった

先にも述べたとおり、アバスチンが出るまで、ポスト・イレッサの一番手と見られていたのが、タルセバという分子標的薬だ。この薬は、実はがんの増殖に関与する上皮成長因子受容体(EGFR)と呼ばれるタンパク質を阻害するもので、イレッサと同じタイプである。となれば、タルセバの効果、副作用はイレッサと変わるのか変わらないのかという点が疑問となる。

「タルセバとイレッサは、医師によって見解が異なりますが、基本的には同じ薬と見ていいでしょう。薬の中に含有される成分が異なっているという見方もありますが、違うとしても本質的にはごくわずかでしょう」

と坪井さんは言う。

一方、臨床試験では、タルセバとイレッサは、効果でも副作用でも少しずつ違った結果が出ている。タルセバの臨床試験は、イレッサと異なり、国内より海外のほうが進んでいる。

2001年8月から2003年1月まで、標準治療が効かなかった進行・再発肺がんの患者731人を対象にカナダで大規模な臨床試験が行われている。それによると、タルセバを服用した患者のほうが、偽薬(プラシーボ)を服用した患者より生存期間が2カ月延長され、生存率も改善されたという結果が出ている。差はわずかであるが、有意な差であったという。さらに、肺がんに伴う症状も比較検討され、タルセバ群のほうが偽薬群より咳、呼吸困難、痛みなど、症状が悪化するまでの期間(無増悪期間)が長かったという。

副作用も、疲労、発疹、食欲低下、下痢などがタルセバ群で多かったが、なかでもグレード3以上という、相当つらい副作用としては、疲労19パーセント、発疹9パーセント、食欲低下9パーセント、下痢6パーセントで、中止に至ったのは5パーセントであった。こうしたことから、昨年11月、米国では非小細胞肺がんの治療薬として承認されている。


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