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粘り強い治療戦略で より高い効果が

進行卵巣がんには 抗がん薬と手術の組み合わせで

監修●織田克利 東京大学医学部附属病院産科婦人科講師
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年4月
更新:2015年3月

  

「しっかりした手術と 抗がん薬への感受性を高めることで さらに治療成績は上がります」と話す織田克利さん

卵巣がんは自覚症状が乏しいため、発見されたときにはすでに進行しているケースが多い。しかも手術で患部を切除するだけではなかなか根治に至らないという性質も持つ。治療には、抗がん薬による化学療法と的確な手術の組み合わせが必須となる。

自覚症状がなく、発見が遅れがち

卵巣がんは年間8,000人が罹患し、4,500人が亡くなる。子宮がんよりも厳しい数字だ。

「自覚症状がほとんどなく、発見されたときに卵巣の外にまでがんが広がっているケースが多いのが特徴です」

婦人科系のがんを専門とする東京大学医学部附属病院産科婦人科講師の織田克利さんは、早期発見の難しさを指摘する。

出血や痛みがないことが発見を遅らせてしまうという。BRCA1、BRCA2という遺伝子が関係する家族性のケースもあるが、全体の1割に満たず、多くは後発型で予知するのが難しい。

進行した状態では、腹腔内に播種が形成され、腹水を産生していることが多い。数リットル以上の腹水が溜まっていることも少なくないという。がん性腹膜炎といって、腹水でお腹が張って見つかることが多い。

4つのサブタイプ それぞれに特徴

表1 卵巣がんのタイプ

卵巣がんは組織型により、主に漿液性腺がん、粘液性腺がん、類内膜腺がん、明細胞腺がんの4つに分けられる(表1)。それぞれに特徴があり、抗がん薬の効きやすさも異なる。

漿液性腺がんは一番多く、抗がん薬が効きやすいタイプ。粘液性腺がん、明細胞腺がんは比較的抗がん薬が効きにくいタイプである。

類内膜性腺がんと明細胞腺がんは、子宮内膜症から発症するケースが多い。このため、このタイプは早期に発見されることも少なくないが、良性疾患からがん化しうることに注意が必要である。

明細胞腺がんは日本人に多く、最近さらに増える傾向にある。粘液性腺がんはゼラチンのように粘り気があり、腫瘍が大きくなることが多い。粘液性の腫瘍は、卵巣がんの中での頻度は高くないが、がんよりも悪性度の低い「境界悪性腫瘍」に分類される頻度は高い。

抗がん薬が有効だからこそ 手術との組み合わせ

表2 卵巣がん進行期と予後

治療はどのように行われるのか。

「腫瘍(腹腔内播種)の大きさが2㎝以上であるステージⅢcで見つかること多い。Ⅰ、Ⅱ期なら手術で取りきれるので、完全に治る可能性が高いと期待できますが、Ⅲc期となると、予後は5年で通常3割程度です(表2)。Ⅲc期は手術ですべての腫瘍を取り切れないことがほとんどなので、これをどうするかが卵巣がん治療の課題です」

しかし、織田さんは進行した卵巣がんでも希望はあると強調する。

「一般にがんでⅢ期以上だと〝末期〟ととらえられがちですが、卵巣がんは粘り強くやれば長期生存の可能性があります。私は〝末期〟と〝進行〟卵巣がんを用語として分けて説明するようにしています。

進行卵巣がんでも手術と抗がん薬を組み合わせていけば、最終的にはがんを取り除ける可能性が高い。卵巣がんには、抗がん薬の奏効率がかなり高いという特徴があります。それに手術を組み合わせてがんを抑え込もうということです。患者さんに希望を持ってもらえます」

抗がん薬の治療を行っている途中に手術を組み合わせて行う場合の手術はIDS(腫瘍減量手術)と言われる。

「標準的な治療は、まず最初に手術をして取れるだけ取って、それを病理で診断して広がりや組織型を見極めてから効果的な抗がん薬でたたくというものです。初回で取り切れるならそれにこしたことありませんが、Ⅲ期以上ではなかなか難しい。そこで、抗がん薬を投与して腫瘍が小さくなったところで、また手術をしてがんを切除するのがIDSです」

手術が先か 抗がん薬が先か

IDSでも、最初に手術をしてから取り切れなかったがんに化学療法を施し、小さくしてから2回目の手術するのか、あるいは、化学療法からスタートして、効果が出てから手術するのか、という方法論の検討が臨床試験を通じて進んでいる。

「抗がん薬を先行しても、IDSをしっかり行えば、手術先行に劣らない結果がでる可能性は十分あると思っています。手術と抗がん薬を組み合わせてがんを叩き潰す治療という点では、どちらが先かという違いはあるにせよ、治療戦略(ゴール)は共通だからです」

患者さんのQOL(生活の質)も重要だという。

図3 IDS後の全生存率

IDSで完全切除をすれば5年生存率は約6割まで改善

「手術が1回であれ2回であれ、目に見える大きさのがんを取り切って(もしくは画像で見える腫瘍がなくなって)、腫瘍マーカーが正常化すれば、初回の治療はそこで終わることができます。抗がん薬を飲み続けるような必要はなく、患者さんには福音でしょう」

東大病院で行ったIDSでは、Ⅲc期以上の60%で完全切除ができた。その患者さんたちの5年生存率は60%に達している(図3)。

これまでの統計で示されていた30%ほどの数値と比べるとその高さがわかる。

「抗がん薬が効く人に対しては、しっかり手術して取り切ってあげればいい結果が出ます。そして、抗がん薬への感受性をさらに高めることができれば、もっと治療成績は上がります」

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