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効果が期待できるが、副作用にも要注意

卵巣明細胞腺がんに対する分子標的薬の治療効果に期待

監修●織田克利 東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座生殖腫瘍学准教授
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2015年4月
更新:2015年6月

  

「卵巣明細胞腺がんの増加には、晩婚化や少子化も影響していると思われます」と語る織田克利さん

罹患者数が増加している卵巣がんの中でも、日本人にとくに多いのが卵巣明細胞腺がんだ。早期に発見されることが多いにもかかわらず、予後が悪いことで知られるが、新しい対処法も探られている。婦人科がんに詳しい専門医に最新情報を聞いた。

発生頻度が上がった卵巣明細胞腺がん

図1 日本での上皮性卵巣がんにおける
明細胞腺がんの発生頻度の年次推移

Okamoto A et al, Int J Gynecol Cancer. 2014 Nov;24(9 Suppl 3):S20-5より引用

図2 卵巣がんの組織型発生頻度

1) 婦人科腫瘍委員会報告, 2006年卵巣腫瘍患者年報. 日産婦誌 2008; 60: 1052-1085
2) Heintz AP et al. Int J Gynaecol Obstet. 2006; 95:S161-S192より作図

写真3 明細胞腺がんの病理所見

「卵巣がんは近年、増加傾向にあり国立がん研究センターの統計(2010年)では、毎年約9,900人が罹患し、生涯の罹患率は1%(82人に1人が発症)ほどです。その中でもとくに卵巣明細胞腺がんは40歳代から急に増え、発生頻度も近年で急激に上昇する傾向にあります(図1)。欧米では稀で、アジア人、とくに日本人に多いがんです」

東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座生殖腫瘍学准教授の織田克利さんは、疫学的な特徴を話した。卵巣がんというと、高齢で罹患することが指摘されているが、卵巣明細胞腺がんは若い世代を襲うことが多い。しかも、日本人に多いということは海外との比較でも明らかにされており、卵巣がんを「漿液性」「粘液性」「類内膜」「明細胞」「未分化型」「混合型」の組織型で分けた発生頻度では、欧米の3倍にもなる(図2)。

卵巣明細胞腺がんについて、織田さんに詳しく解説してもらう。

「子宮内膜症がポイントになります。子宮内膜症を合併していることが多く、内膜症そのものは良性疾患ですが、内膜症病変を発生母地として卵巣がんに進展するケースがあると言えます。内膜症は生理がある方が罹る疾患なので、卵巣明細胞腺がんは生殖年齢前後で発症することが多く見られます。晩婚化、少子化も増加に影響していると思われます」

卵巣明細胞腺がんは、卵巣がんの4つの主要な組織型の1つで、病理学的特徴として明るい細胞質を持つことが特徴。グリコーゲンが貯留していることから顕微鏡で明るく見える(写真3)。見た目だけでなく性質も異なり、織田さんは「ほかの卵巣がんとは違うがんと考えたほうがいい」と言うほどだ。

織田さんは「明細胞腺がんは腎臓で発生することが多い組織型です。腎臓と卵巣では、同じ明細胞腺がんでも関わる遺伝子変異は明らかに違いますが、がん化につながるシグナル経路は近いものがあるため、腎臓の治療で使用しているmTOR阻害薬が卵巣でも有効かどうか、日本でも臨床試験で見ていこうという段階です」と話す一方で、「腎臓か卵巣で明細胞腺がんが見つかったとしても、もう一方でも危険があるという関連性はありません」と続けた。

Ⅰ期での発見が多いが 抗がん薬が効きにくい

明細胞腺がんの特徴はまだある。「卵巣がんでも漿液性は一気に広がりますが(進行症例が多い)、明細胞腺がんは多くの場合、子宮内膜症のチョコレート嚢胞内でがん化するので、お腹に散らばらず、卵巣に留まっている状態が長いという特徴があります。このためⅠ期で見つかることが多いということになります」

しかし、Ⅰ期で見つかっても抗がん薬が効きにくいというのも明細胞腺がんの特徴。さらに合併症にも注意が必要だ。

「卵巣明細胞腺がんの合併症としては、血栓塞栓症が多く見られます。血液の凝固系を狂わせることが多いためです。がん細胞の影響で、深部静脈血栓で下肢に血の塊(血栓)ができる、大量の腹水で血管が圧迫される、ということもあります。明細胞腺がんの場合、とくに血栓塞栓症のハイリスクです。肺塞栓で呼吸が苦しくなったことがきっかけで、卵巣がんが発見されることもあります。合併症のマネジメントも重要となります」

手術できれいに取り切ること

治療について聞いた。卵巣明細胞腺がんは抗がん薬が効きにくいため、予後が悪い。織田さんも「難治性と位置付けられています」と表現した。漿液性はⅢ期になっても抗がん薬で対応できるケースが多いが、卵巣明細胞腺がんではⅠ期でも治療成績が悪く、再発した場合にはさらに深刻な状態となる。

「手術でいかにきれい取り除くことができるかが大事です。現時点では組織型が違うからといって手術や抗がん薬の戦略が分かれてくるものではありません。そして、ステージを確定して抗がん薬治療に移るというのが治療の流れです」

抗がん薬に関しては、卵巣がん全般をみるとシスプラチンの登場で「劇的によくなった」(織田さん)。しかし、シスプラチンに代表されるプラチナ(白金)製剤は、がん細胞のDNAの複製を阻害したり、自滅(アポトーシス)へ導いたりすることで作用するが、卵巣明細胞腺がんには効きにくいという難点がある。プラチナ製剤に抵抗性があり、とくに再発後に効果が現れにくい。短期間で命にかかわることも多いという。

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダほか

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