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早期発見は難しいが化学療法の成否が予後改善のカギとなる
化学療法の進歩で効果を上げる卵巣がんの治療

監修:藤原恵一 埼玉医科大学国際医療センター婦人科腫瘍科教授
取材・文:町口充
発行:2009年6月
更新:2013年4月

  

藤原恵一さん
埼玉医科大学国際医療センター
婦人科腫瘍科教授の
藤原恵一さん

ライフスタイルの変化とともに年々増加傾向にある卵巣がんは、早期発見が難しく、死亡率が高いのが特徴。
しかし、卵巣がんは化学療法が比較的よく効く疾患であり、新しい抗がん剤の登場によって、進行がんであっても治療成績は向上してきている。

7割が進行がんで見つかる

生命のもとになる卵子を生成し放出するとともに、女性ホルモンを分泌する卵巣は、細胞分裂が活発に行われるところだけに、腫瘍ができやすい臓器でもある。

卵巣にできる腫瘍には、卵巣の表層を覆う細胞に由来する上皮性腫瘍、ホルモンをつくる細胞に由来する性索間質性腫瘍、卵子のもとになる胚細胞に由来する胚細胞性腫瘍があり、悪性腫瘍(がん)の90パーセント以上を占めるのが上皮性腫瘍だ。上皮性の場合、発症年齢は40歳代から増えていって、50歳を超えるころがピークとなるので、更年期前後から閉経後の女性に発症しやすいがんといえる。

早期に発見されれば治癒率は高く、がんが卵巣内にとどまっているステージ(病期)1の段階なら、ほとんどの人が助かる。

「しかし、実際にはステージ1で発見されることは少なく、約7割の人がステージ3(がんが骨盤外にまで広がっているか、リンパ節転移がある)、ステージ4(遠隔転移がある)の進行がんの状態で発見されています」

と、埼玉医科大学国際医療センター婦人科腫瘍科教授である藤原恵一さんは話す。

[婦人科がん患者の年齢分布]
図:婦人科がん患者の年齢分布

50歳前後の発症がピークとなる卵巣がんは、更年期前後から閉経後の女性に発症しやすいがんといえる(1999年日本産科婦人科学会報告)

早期発見が難しい理由は?

なぜ早期発見が難しいのか。卵巣は子宮の両脇に1つずつあり、親指の頭ほどの大きさ。子宮や卵管と膜によってつながっているが、動かないようにしっかりと固定されているわけではなく、骨盤内(腹腔内)でブラブラしているような状態で存在している。このため、がんが大きくなっても周囲の臓器を圧迫したりしない。したがって、腸を圧迫して通過障害を起こすなど、手がかりとなる症状が出にくい。出血もあまりないし、あっても体外に出てこないのでなかなか気がつかない。

[骨盤内の解剖図]
図:骨盤内の解剖図

卵巣は子宮や卵管とつながっているが、ブラブラしているような状態で存在している

また、赤ちゃんを宿しても苦にならないぐらい柔軟性があるのがおなかの中。がんは腹腔内全体に容易に広がりやすい上、大きくなっても自覚しにくい。

藤原さんが治療した卵巣がんで1番大きかったものは、重量が12キログラムにも達していたという。大きくなっても痛みは感じず、違和感を覚える程度なので、最近太ったなと思ったら、実は卵巣がんだったというケースも少なくないという。

「検診でも見つけにくい」と藤原さんは言う。

「MRI(核磁気共鳴画像法)などの画像診断で診断できるのはある程度大きくなったものです。腫瘍マーカーで異常値を示すのも進行したものが多く、中には異常値を示さないものもあります」

しかも、卵巣がんは転移が早く、腹膜播種(卵巣の表面から腹膜内にタネを播くようにがんが広がること)を起こしやすいのが特徴。毎年人間ドックを受けていて、半年前に受けたときは何ともなくて、見つかったときはすでにステージ3の進行がんだった、という例もある。

「結局、手術だけで根治できるのはほんの一部の早期がんにすぎず、抗がん剤が効くかどうかが患者さんの予後改善のカギを握っています」

手術と化学療法の集学的治療

初回治療の基本は手術だ。ステージ1の早期がんなら、片側の卵巣、卵管を摘出する方法と、両方の卵巣、卵管、子宮を含めて摘出する方法がある。大網と呼ばれる大きな網のような脂肪組織は卵巣がんの転移がよく起こる組織であり、切除しても実害がないため、一見して転移がなくても切除する。

ただし、切除した大網やリンパ節を調べて転移があると、ステージ1ではなくステージ3となる。

転移があっても骨盤内にとどまっているステージ2では、両方の卵巣、卵管、子宮、それに転移のある骨盤腹膜を含めて摘出・切除する。大網も切除するし、リンパ節郭清を行うこともある。ステージ1と同様、切除した大網、リンパ節に転移があればステージ3になる。

ステージ3、4の進行がんはどうか。手術療法の進歩により、腫瘍減量手術と呼ばれる手術が可能になってきた。この手術でできる限りのがんを取り除いてから化学療法を行ったり、順番を逆にして、まず化学療法を行って、できるだけがんを小さくしてから手術を行うなど、外科・内科の垣根を超えた手術と化学療法による「集学的治療」が行われるようになっている。

[卵巣がんの治療方針]
図:卵巣がんの治療方針

IP…腹腔内化学療法 IV…点滴静脈注射


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